2.心の傷。
健康状態を整えるため、定期検診も欠かせない。
俺は正式な医者ではないが、知識がゼロというわけでもない。そのため、他にも魔族の体内構造に詳しい者と一緒に、回診を始めた。
基本的にこちらは人間の体調を看ることになる。
そんな中での出来事だった。
「はい、それじゃ次の方~」
俺がそう声をかけると、一人の女性が入ってくる。
黒の髪はぼさぼさで、赤の瞳にもどこか生気がなかった。身に着けているのも布切れみたいなそれで、ところどころが解れている。
不思議に思いながらもメモを見ながら、彼女の名前を確認した。
「えっと、リーナさん、ね。人と魔族のハーフ、か」
「………………はい」
こちらの声に、短く頷くリーナ。
その様子に首を傾げながら、俺はひとまず脈を測った。そうなると肌に触れることになるのだが、彼女はその瞬間に――。
「――――――!!」
これ、このように。
ひどく怯えた仕草を見せるのだ。
「どうしたの?」
「あ、あ……」
あまりにも挙動がおかしいので、俺は一度診察を止めて問いかける。
するとリーナは、視線を宙を舞わせながら縮こまった。
……ふむ。
「大丈夫だよ、俺は味方だから」
そこまでの流れで、俺はなんとなくだが事情を察した。
そして、そう優しく声をかける。
「…………ほん、と?」
こちらの言葉に、リーナはまだ怯えた風に答えた。
力強く頷いて見せるが、それでも肩の震えは収まらない。
「なるほど、ね。今日は本当に簡単な検査だけにしておこう?」
彼女の様子を観察して、俺はそう伝えた。
そして、本当に簡単な問診のみで済ませたのである。
◆
「なぁ、ニコ? リーナ、って女の子知ってるか」
「リーナさん、ですか?」
「あぁ、そうだ」
今日の検診を終えて俺は、手伝いのニコに訊ねた。
それというのも、今日の検診で人一倍に怯えていたリーナについて。名前を口にすると、やはり心当たりがあるのか、ニコは腕を組んで悩み始めた。
そして、こう語る。
「リーナさんは、ハーフだってことを理由に迫害を受けてきたのです。最初は人間の村で生活してたですけど、その――」
――目の前で、両親を殺されたです。
ニコは悲し気に目を伏せて、そう口にした。
「……だから、か」
俺はそれ以上はあえて聞かず、納得する。
つまりリーナの場合は肉体の問題ではなく、心的外傷後ストレス障害――ザックリ言うところの心の傷が問題ということだった。
傷というものは、決して身体のみにできるとは限らない。
むしろ、治療法が明確なそれより心の方が厄介だった。
そのことはニコも分かっているのだろう。
「あの、レギオ様……」
不安げに、こちらを見つめてきた。
俺はそんな彼女の頭を撫でて、こう口にする。
「少しずつ、やっていこう」
それしかない。
だから、俺は長期戦を覚悟した。
だが、思いもしなかったのだ。
この検診の直後に、あのような事態が起こるなんて。
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