1.必要とされている。
魔王軍に正式に就くことになって、俺が一番に取り掛かったのは領民たちの健康改善だった。道中で確認した時にも感じたのだが、ここの民は種族問わずに線が細い。
だとすれば、どうするかは決まっていた。
「レギオ様? これ、どうするですか?」
「あぁ、それはこっちに置いておいて」
「分かりましたです!」
まず、やるべきは食事の改善だ。
薬の調合ももちろんなのだが、それ以前に肉体を形作るエネルギーがなければならない。薬というのは本来、身体の回復を補助する役割だからだ。
傷を治す万能薬を作ることは可能。
俺の『毒属性』の魔法に反するものを生成すればいい。
しかし、根本治療にはどうしても身体機能の向上が不可欠だった。
「となると、土を良くする肥料が必要なんだけど――」
「レギオ様、レギオ様! そろそろご飯の時間なのです!」
「え、もうそんな時間だっけ?」
などと、考えているうちに時間が流れていたらしい。
俺は手伝いとして預かったニコに言われて、ハッとした。そして視線を下に向けると、至近距離に有角族――額に小さな二本の角がある――の少女の笑顔。
サラサラとした銀の髪に、魔族特有の赤い瞳。
しかし攻撃的な印象はまるでなく、むしろ小動物のような印象を受ける女の子だ。小柄な彼女は、嬉しそうに俺の服を引っ張って誘導する。
「ニコ、レギオ様のために腕によりをかけたです!」
「そうなのか、ありがとうな」
「えへへ!」
野外に設置された椅子に腰かけると、木でできた皿を手渡された。
その皿に盛られていたのは、どうやらこの地で採れた作物で作ったらしいスープ。基本的に水で煮込んだだけで、味も薄いものばかりだった。
それでも、俺はしっかりと完食する。
だって――。
「おいしー、ですか?」
「あぁ、美味しいよ」
「てへへ!」
――ニコから無垢な眼差しを向けられて、残すなんてできないだろう?
それだけではなく。
先ほども言ったように、身体は何事においても資本だった。
それを提唱している自分が粗末にするのは、どう考えても矛盾である。
「さて、ごちそうさま!」
「おそまつさまです!」
そんなわけだから、腹いっぱいに食べるのだった。
さて。こんな感じで現在、俺が行っているのは毒属性故に副産物として身についた知識による改革だ。魔族の領地は基本的に大地が痩せている。
それを育てるには、多大な時間がかかる気がしたけど――。
「意外と、みんな協力的だなぁ」
この土地では人間も魔族も関係ない。
みんなが、一生懸命に俺の指示に従って働いてくれた。
「あっちにいた時でも、こんなことなかったのにな」
そうやって思い出すのは、王都で王宮魔法使いとして働き始めた頃のこと。
当時は辺境の田舎者として、爪弾きにされていた。
「まぁ、最後までそんな感じだったけどさ」
俺は思わず苦笑いして頬を掻く。
そんなこちらを見て、ニコが何かを察しらしい。
「みなさん、レギオ様に期待しているです!」
そう、嬉しそうに言った。
「期待……?」
「はいです! 魔王様が『これから招く者は世界を変える!』と、自信満々に触れ回っていたのですよ!!」
「そ、そんなに……!?」
そして教えられたのは、今まで受けたことのない信頼。
思わず後退ったが、ぐっと堪えた。
「いや、でも――」
思い直す。
こんなやりがいある役割、今までにあったか、と。
さらには、こんなに必要とされたことがあったか、と。
そう考えると、俺は――。
「頑張ろう、ホントに……!」
誰にも見えないところで、小さく拳を握るのだった。
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