2.カレオスの災難。
温度差が激しいです。
「いやあ、思ったよりも簡単に追い出せたな」
宰相――カレオスは、王城の執務室でワインを飲みながら夜景を眺めていた。
辺境の田舎から出てきた謎の魔法使いも、濡れ衣を着せることで追い払うことができたのだ。これで自身の出世の邪魔をする者はいなくなった。
カレオスはそう考え、口元に小さく笑みを浮かべる。
「しかし、本当に使い道の分からない魔法使いだったな。何故か王宮の中では評価が高かったが、いったいどういうことなのだろうか」
――まぁ、今となってはどうでもいいな。
カレオスはそう思い直して、椅子にゆっくり腰かけた。
その時である。
「うっ……!?」
臀部に、激痛が走ったのは。
もっと正確に言うなれば、尻の穴付近だった。
「ふ、ふふ……。今宵の酒も、お前と一緒か……!」
彼はそう言って、棚から薬箱を取り出す。
そう、カレオスは――重度の痔だったのだ。
王宮魔法使い特製の薬でなければ、痛みを抑えきれないほどの、である。
しかしこの時、彼に小さな悲劇が起こった。
「く、こんな時に限って薬が切れている!」
苛立ちながら、宰相は配下を呼び寄せる。
そして、こう訊ねるのだった。
「薬はないか、こう――緑の瓶に入った」
「緑の瓶、ですか……?」
痔だとは、恥ずかしくて言えないカレオス。
曖昧な指示に困惑する配下の男性。しかし上司の意図をなんとか汲み取った彼は、ポンと一つ柏手を打ってこう言うのだった。
「あぁ、あれですか! ――しかし、残念ながらもう生産できません」
「なに? 生産できないとは、どういうことだ」
その言葉に、カレオスは眉をひそめる。
こんな時に限って使えない部下だと、罵ろうと思った。
その時だ。配下の男性が、言いにくそうにこう口にしたのは。
「実はあの薬、レギオ様のお手製のものでして……」――と。
二人の間に、沈黙が降り立った。
数秒の後に口を開いたのは、上司の方である。
「レギオ、だと……?」
どうして、いまその名前が出てくるのか。
宰相の頭の中には、大量の疑問符が浮かんでいた。
するとその問いかけに、配下の男性はこう答えるのである。
「あの薬だけではありません。王宮魔法使いが使用していた魔法薬のほとんどは、レギオ様が自身の魔法を用いて作ったものなのです」――と。
毒も煎じれば薬となる、という言葉もあった。
カレオスはこの時になって初めて、レギオの有用性を知る。そして同時に青ざめるのだ。自身の尻から感じる、尋常ではない痛みに。
これからは、この痛みと共に在らねばならない、その事実に。
「ば、か……な!」
宰相は崩れ落ちる。
そして、静かに尻を押さえるのであった。