7.
「フハハハハ!覚悟だと?それは此方の台詞だ!貴様こそ覚悟は出来ているんだろうな?逃げるなら今のうちだぞ!」
二尾の狐が高笑いしながら煽る。すると冴累は一瞬の内に距離を縮め、
「若いものはよく喋る……煩いぞ」
パチン!とデコピンをした。それは確かにデコピンだったが、二尾の狐は十数メートルは吹き飛んだ。
「っぐあぁぁ!……なっ……てめぇ……!」
「だから言っただろう、覚悟は出来ているのかと」
「てめぇ!許さねーぞ!」
冷静な冴累に対して怒りに身を任せている二尾の狐。
「それは此方の台詞だ」
冴累はそう言うと二尾の狐の方に歩いていく。
「うおおおおっ!」
二尾の狐が叫びながら冴累に向かって行くが、攻撃の全てを軽々と避けられてしまう。
そしてまたデコピン。今度は数十メートル吹っ飛ぶ二尾の狐。
「容赦はせんぞ、狐よ」
ギロリと二尾の狐を睨む冴累。その声音は重く、それでいてどす黒く感じる。
「ヒッ……」
その目に怯えた顔をする二尾の狐。
「きっ……今日のところはこれくらいにしておいてやる!クソッ!」
そう言い残して二尾の狐は走り去る。
冴累はクルッと後方を見返し、ニコリと笑うと
「結、然紋、無事で何よりだ」
先程とは別人の様な優しい声音で二人に語りかける。
「冴累、私達がここに居るってどうしてわかったんですか?」
結が尋ねる。
「ああ、それは……ほれ」
冴累がそう言うと、着物の袖口からぴょこっと出て来た生き物。
「視得と言ってな、とても鼻が効くんだ」
そう自慢気に話す。
それは体長が15センチ程の、目のくりっとした可愛らしい白色のトカゲで、えらく冴累に懐いているようだった。
「キュイ!キュー!」
甲高い声で鳴き、冴累の袖口に戻る視得。
冴累が不意に空を見上げ、結に向かって微笑みながら言った。
「もう遅い、送っていくから帰りなさい」
結にとっては、長い長い一日であった。