6.
……私達は確かに道を歩いていた筈だ。それなのに何故。何故、宙を舞っているのか。
事の発端は帰り道にあった。
私と然紋は二人で歩いて帰る事になった。日も暮れはじめていたので、少し早足で歩いていた。
今日は良い場所を教えてもらってありがとうございました。また来いよ。なんて、何でもない普通のやり取りをしていた最中であった。
突然、突風が吹いたのである。
「きゃっ!」
「うおっ!?」
何が起きたのかサッパリだったが、砂埃の中に微かに見えた大きな尻尾が、結に現実を理解させた。
それは狐だった。尻尾は二つ。普通こういう時は九つではないのか。漫画ではそうだと、状況の割に呑気な事を思った結。
「フハハハハ!人間だ、人間だ!」
そう言った二尾の狐は結の腕を掴み、引き寄せた。
「結ッ!!」
咄嗟に然紋が叫ぶ。
「フハハハハ!食ってやる!人間は全て食ってやる!」
絵に描いたような悪だ。分かり易すぎる。
「助けて!然紋!」
結は然紋に助けを求めるが、彼は何故か動かなかった。
いや、動けなかったのだ。黒い影のようなものが彼に纏わり付いて離れなかったせいだ。
「くそッ!結!今助けるからな!」
そう言いながら影と格闘している然紋。
そうしている間にも、結の耳元で狐が囁く。
「今直ぐ食ってやるからな……先ずは何処からが良いかな……手?足?それとも頭か?」
このままじゃ本当に食われてしまう。誰か、助けて。
そう思った瞬間、結は宙を舞っていた。そして冒頭に戻る。
「おっ落ちるうぅぅ!!」
宙を舞いながらそう叫ぶと、ぽふっと、柔らかく温かいものに触れる。
「迎えに来たぞ、結」
優しい声音がそう言うと、不思議と安心感に包まれる。
「……冴累!!」
そう、冴累。冴累が来てくれた。だがしかし、結が宙を舞っていたのは冴累のせいでもあった。
「もう大丈夫だ、安心しろ」
結をお姫様抱っこしながら、ふわりと優雅に着地する。
「おい狐、貴様、私の結に何て事をするんだ」
そう言いながら、冴累は然紋に向かって指を振る。すると然紋に纏わり付いていた黒い影が、一瞬にして消えてしまった。
「狐よ、貴様、覚悟は出来ているのだろうな」
怒りの混じった、しかし冷静な声でそう言うと、冴累は結を然紋に押し付けた。
「さ、冴累……大丈夫なの……?」
「……結、奴なら大丈夫だろう。……悔しいが、奴の実力は計り知れない」