5.
「冴累〜、遊びに来ました……って、わっ!?」
結の目の前に突然現れたのは昨日の然紋という男だった。神木の枝に乗り、幹に寄り掛かった状態で話す。まるで普段の冴累の様に。
「今、冴累の奴は此処には居ないぞ。」
そう言って神木から飛び降りると、然紋は結との距離をずいっと近付け
「だから、俺と遊ぼうではないか」
と柔かに微笑みながら言う。
「えっ、あの!?」
結が何か言う前に然紋は結を抱き抱えて森を走り抜ける。然紋の顔は緩みまくり、柔かを超えてニヤついている様にしか見えなかった。
「待ってください!何処へ行くんですか!?あの!答えてください!」
結の質問には一切答えず、ただ森の中をひたすらに走り抜ける。
遂に森を抜け出し、下に降りてきた其処には大きな社があった。
「此処が俺の住処だ!」
得意げに話す然紋と、抱えられたままの結。
「どうだ?冴累の奴の社よりよっぽど大きいだろう?まぁ元々は奴が此処に居たのだがな、俺が追い出してやった」
まるで子供の様に自慢げな然紋。
結はその社の大きさに声も出なかった。
「凄い所にお住みなんですね……」
「どうだ?惚れたか?」
結の顔を覗き込み、言う。突然の事に結も焦り、しどろもどろになる。
「……えっ?……えっ!?いや、あの、惚れるとかは……無いんですけど……」
「むぅ、何故だ……」
小声で頬を膨らませながら言うものだから、余りにも子供っぽ過ぎて結が笑う。
「ふふっ、でも、然紋さんが凄い人だっていうのはわかりましたよ」
「……おい、その"さん"ってやつ、やめてくれないか?冴累の奴より下みたいで嫌だ」
「わかりました、然紋」
「おう!良し、だな!」
話せば話すほど、然紋が如何に無邪気で素直なのかがわかり、冴累の言っていたことがよくわかる。
「あっ、もう日が暮れてきましたね……私、帰ります」
「おう、じゃあ送っていくぞ」
「ありがとうございます」
今度は抱き抱えられず、2人で歩いて帰る事になった。歩いて帰るとなると、この距離は矢張り時間が掛かるのだった。