2.
「一番の友人!?とてもそんな歳には見えないけど……それに、どうしてこのビー玉のことを知ってるんですか?……あと、そろそろ離れてほしいんですけど……」
「そうだ、その硝子玉!それは俺が由里子の為に作ってやったものなんだ!」
先程からずっと、手を繋いだままの状態でいるものだから思わず言ってしまったのだが、そんなことは気にするなとばかりに無視をされた。
「ああそうだ、良いことを思い付いた!」
ポン、と手を叩き、ニッコリと笑う。性格のわりに顔は中々、いや、かなり良いものだから、思わずドキッとしてしまう。
冴累が硝子玉に指をトン、と当てる。すると不思議なことに、そこから一直線の穴が空いた。そこに、懐から取り出した、陽の光に当たるとキラキラ光る綺麗な紫色の紐を通し、
「さ、結。おいで」
ちょいちょい、と手招きをする。その仕草と、自分の名を呼ぶ声があまりに妖艶で、結は無意識に目を逸らしてしまう。
恐る恐る近付くと、冴累は両手を結の首の後ろに回し、紐をキュッと結ぶ。
「ようし、出来た。やはり美しいものには美しいものが似合うな!ハッハッハ!」
「あ……ありがとう……ございます……」
見た目のわりに豪快に笑う彼に面食らいながらも、なんとか礼を言う。
「加護の力が弱まっていたからな、新たに付けておいた!」
「加護……あ!そういえば貴方、一体何者なんですか?どうしてこんな所に居るんですか?どうして今の時代誰も着ないような服なんですか?……どうして目が一つなんですか?」
結が矢継ぎ早に質問するものだから、少し目を見開き考えた後、冴累はこう答えた。
「俺は……ううん、何と言ったらいいのか……人の子ではないんだ、だから、由里子と遊んでた頃もこの姿のままだった。歳を取るのが遅いのか、歳を取らないのか、そこまではわからんけどな。洋服なんて俺からしたらつい最近外国から来たものだ、あまり慣れていない。それに、普段ここには誰も来ないから、触れる機会すら無かったのさ。」
そこまで言って、少し考えた後こう言った。
「目が一つなのは、俺が人の子ではない証なのかもな」
結にはその顔が、少し切なそうに見えた。
「ごめんなさい、嫌な気分にさせましたか?」
「いや、大丈夫。それに、俺に興味を持ってくれたことの方が嬉しいよ」
そう言うと、冴累はゆっくり手を上げ結の頭を優しく撫でた。
「ところで、由里子は?元気にしてるか?」
ふと思った様に訊ねる。だが
「……お婆ちゃんは……数年前に亡くなりました」
そう言うと
「……そうか、そうだったのか……。由里子は……死んでしまったのか……」
と、呟く様に溢す。その瞳は驚きと悲しみに満ちていて、今にも泣き出しそうに見えた。
「……日が落ちてきたな。そろそろ帰りなさい。いいか?結、よく聞いてくれ。日が上っている間しかここには来てはいけないぞ。さもなくば……お前はか弱いからな、それにこんなに魅力的だ。誰かに連れ去られてもおかしくはない」
先程までとは違う、撫でるような優しい声音と子供に言い聞かせるような厳しい瞳がちぐはぐで、結は思わずたじろぐ。
「わかりました。じゃあ、また……」
「ああ、また来てくれると嬉しいよ」
少し苦しくなるほどぎゅっと抱き締められる。
その日は、振り返らず真っ直ぐ家に帰った。