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ひととあやかし  作者: 西園晴彦
1/8

1.

市営バスに乗り、都会から離れること1時間。そこは緑が豊富で、空気も澄んだまさに田舎と呼ぶに相応しい場所だった。

目の前には鬱蒼とした森。所定のバス停を降り、道とは言えぬ道を歩くこと15分。

「……あった!」

ふぅ、と右手の甲で汗を拭きつつ、にんまりと笑顔になる一人の少女。大きな木の根元、その眼前には、高さ50cm程、幅30cm程の赤い鳥居、その奥に石で出来た小さな祠がある。

「よいしょ……っと……」

祠を両手で持ち上げ、少し横にずらして置いておく。

「フフフ、この辺りの筈だぞ……」

ニヤニヤとした顔で祠のあった場所を掘り進める。そのとき

「おい、何をしている?」

ゆっくりと、低い声が背後から聞こえた。

「ヒッ!?」

声の主は、身長150cmかそこらの小さな少年だった。それだけだったら"ただの子供"だったが、今はあまり見ない和服姿と一つしかない眼、漂う威圧感が、その人物を"ただの子供ではない"と本能に告げていた。

「ぬし、それはぬしがやったのか?」

スッと長く白い指が、先程動かした祠を指差す。

「あっ……ごめんなさい!実はここに大切な物が埋めてあって……」

「大切な物?」

「そう!私が小さい頃に、友達とお互い一つだけ、宝物を埋めたんです!」

「宝物……」

「確か……お婆ちゃんから貰った綺麗なビー玉……だったかなぁ?」

「それはもしかして、これのことか?」

そう言う少年が差し出した手の上には、コロンと転がるキラキラ光る硝子玉。

「ああ!これ!これよ!……どうして貴方が持っているんですか?」

怪訝な面持ちで見やる。

「いやぁ、つい気になって掘り返してしまってな!ハハ、すまんすまん」

そう笑うと銀の缶と硝子玉を少女に渡す。

「ほれ、掘り返す手間が省けて良かったではないか!」

「ああ、ありが……」

礼を言いかけたその時、ずいっと近くなる顔。その距離約5cm。

「ぬし、その硝子玉といい、匂いといい、俺には思い当たるところがあるのだが……名は何と言う?」

顎に指を当て、はて……もしや、と思案顔をする。先程からずっと同じ距離で。

「あ……あの、離れてもらっても良いですか……?ちょっと近過ぎると思うんですけど……」

少年は言われるまで気が付かなかったとばかりに目を開き、パッと距離を取る。それに安心したのか、少女はふぅ、と息をつく。

「私、佐久間(さくま) (ゆい)って言います、貴方は?」

「!やはり佐久間家の子か!由里子(ゆりこ)はどうした?元気か?」

ぱぁ、と一気に明るくなる顔と、はしゃいだ口調がその幼い姿にピッタリだ。

「どうしてお婆ちゃんの名前を……?」

「そうか、お前は由里子の孫か!ああ、嬉しいなぁ!」

ピョンピョンと跳ねた後、ギュッと結に抱き着き、

「ああ、懐かしい匂いだ!髪の色も目の色も、心の清らかさも由里子に似たのだな、ああ、こんなに心踊ったのはいつぶりだろうか!」

そう言いながら、結の髪にキスをする。

「ちょっ……ちょっと!?」

突然の事に顔を真っ赤にしながら少年の腕の中でもがくが、一向に離れてくれない様子だ。

「そうだ、俺の自己紹介がまだだったな!俺は冴累(さえる)、お前の祖母の由里子の一番の友人だ!」

大きな木の下、とある少女と妖怪の、奇妙だが運命的な出会いであった。

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