1.
市営バスに乗り、都会から離れること1時間。そこは緑が豊富で、空気も澄んだまさに田舎と呼ぶに相応しい場所だった。
目の前には鬱蒼とした森。所定のバス停を降り、道とは言えぬ道を歩くこと15分。
「……あった!」
ふぅ、と右手の甲で汗を拭きつつ、にんまりと笑顔になる一人の少女。大きな木の根元、その眼前には、高さ50cm程、幅30cm程の赤い鳥居、その奥に石で出来た小さな祠がある。
「よいしょ……っと……」
祠を両手で持ち上げ、少し横にずらして置いておく。
「フフフ、この辺りの筈だぞ……」
ニヤニヤとした顔で祠のあった場所を掘り進める。そのとき
「おい、何をしている?」
ゆっくりと、低い声が背後から聞こえた。
「ヒッ!?」
声の主は、身長150cmかそこらの小さな少年だった。それだけだったら"ただの子供"だったが、今はあまり見ない和服姿と一つしかない眼、漂う威圧感が、その人物を"ただの子供ではない"と本能に告げていた。
「ぬし、それはぬしがやったのか?」
スッと長く白い指が、先程動かした祠を指差す。
「あっ……ごめんなさい!実はここに大切な物が埋めてあって……」
「大切な物?」
「そう!私が小さい頃に、友達とお互い一つだけ、宝物を埋めたんです!」
「宝物……」
「確か……お婆ちゃんから貰った綺麗なビー玉……だったかなぁ?」
「それはもしかして、これのことか?」
そう言う少年が差し出した手の上には、コロンと転がるキラキラ光る硝子玉。
「ああ!これ!これよ!……どうして貴方が持っているんですか?」
怪訝な面持ちで見やる。
「いやぁ、つい気になって掘り返してしまってな!ハハ、すまんすまん」
そう笑うと銀の缶と硝子玉を少女に渡す。
「ほれ、掘り返す手間が省けて良かったではないか!」
「ああ、ありが……」
礼を言いかけたその時、ずいっと近くなる顔。その距離約5cm。
「ぬし、その硝子玉といい、匂いといい、俺には思い当たるところがあるのだが……名は何と言う?」
顎に指を当て、はて……もしや、と思案顔をする。先程からずっと同じ距離で。
「あ……あの、離れてもらっても良いですか……?ちょっと近過ぎると思うんですけど……」
少年は言われるまで気が付かなかったとばかりに目を開き、パッと距離を取る。それに安心したのか、少女はふぅ、と息をつく。
「私、佐久間 結って言います、貴方は?」
「!やはり佐久間家の子か!由里子はどうした?元気か?」
ぱぁ、と一気に明るくなる顔と、はしゃいだ口調がその幼い姿にピッタリだ。
「どうしてお婆ちゃんの名前を……?」
「そうか、お前は由里子の孫か!ああ、嬉しいなぁ!」
ピョンピョンと跳ねた後、ギュッと結に抱き着き、
「ああ、懐かしい匂いだ!髪の色も目の色も、心の清らかさも由里子に似たのだな、ああ、こんなに心踊ったのはいつぶりだろうか!」
そう言いながら、結の髪にキスをする。
「ちょっ……ちょっと!?」
突然の事に顔を真っ赤にしながら少年の腕の中でもがくが、一向に離れてくれない様子だ。
「そうだ、俺の自己紹介がまだだったな!俺は冴累、お前の祖母の由里子の一番の友人だ!」
大きな木の下、とある少女と妖怪の、奇妙だが運命的な出会いであった。