1話 入学式の悲劇 前編
中学を卒業し、念願の高校生になった。
わたしの名前は、川嶋 綾乃
中学時代は帰宅部で、家に帰って録画した映画を部屋で見るインドア系女子。
家で好きな映画を見るのも好きだけど、残り少ない学生時代を家で過ごすのはもったいない。
高校入学は、人生の節目。
素敵な学生生活を過そうと高校デビューをする決意をする。
「よし、今日から高校生だ。私もみんなみたいにJKっぽいことをしたい」
「高校生になれば生まれ変われる! バイトも出来るし、もしかしたらカレシもできるかも……?」
電車の窓に映る自分の制服姿を見ながら、これからの学生生活に期待を膨らませる。
高校の最寄り駅に降り立つと、駅前広場のパン屋からおいしそうな焼き立てパンのにおいがしてくる。
反対側には年季の入った喫茶店から、コーヒーのいいにおいがする。
通学時の楽しみも発見し、学校へ向かう坂道を登り始める。
長い坂道を上り終えると、これからわたしが通う高校「太田高校」が見えてきた。
入学案内に書かれた1年C組の教室に入ると、ひとりの生徒に声をかけられた。
「もしかして、アヤノ?」
声がする方を見ると、小学生の同級生 鈴木 由貴がそこに立っていた。
由貴は幼馴染で、小学校の卒業式を前に親の転勤で茨城に引っ越してしまった。
「久しぶりだね、この学校で由貴に会えるなんてビックリした」
「アヤノが同じ学校だなんで知らなかったよ」
3年ぶりの幼馴染との再開に、綾乃は思わず由貴に抱きつく。
また知人が同じクラスにいることにも一安心。
「いつ横浜に戻ってきたの?」
「3月に戻ってきたんだ。アヤノには高校入学してから連絡しようとおもってたんだけどね」
「また一緒に遊べる友達がいてよかった」
「これからよろしくね」
話をしていると担任の先生が教室に入ってくる。
「入学おめでとうございます」
「これから三年間担任を務めます、倉持 恭子です。」
「これから体育館で入学式と部活紹介がありますのでパンフレットを配布します。」
前の席からパンフレットが配られ始めた。
私がこの学校に入ったのには家から近い以外に、もう一つ理由があった。
この学校には 映画研究映像部 があるからだ。
パンフレットの配布が終わると体育館へ移動し始めた。
「アヤノは部活どこに入るの?」
「映画部かなぁ?」
「まだ映画好きだったんだ」
「昼間にやってる映画を録画して家で見るのが一日の楽しみだからね」
体育館に到着し、入学式が始まる。
お決まりの堅苦しい校長、生徒代表の話が終わり、来賓者が帰ると部活紹介が始まる。
サッカー部・バスケ部と運動部の紹介が終わり、文化部の紹介が始まった。
アニメ部・鉄道研究部・囲碁部と紹介が続く。
「続いて最後の部活紹介です」
司会役の生徒が紹介するよ数名の学生がステージにやってきた。
「トリを飾るに相応しい、我が映研!」
「あんたまだ入部してないでしょ・・・」
司会からマイクを受け取った女性生徒が二人喋りだした。
「入学おめでとうございます。私たちは・・・」
「写真部です」
思わず二度見をする綾乃。
パンフレットを見返すと確かに映画研究映像部の名前が書かれている。
もしかしたら紹介を間違えたのかと考え、写真部の説明が終わるのを待つ。
「以上で部活紹介を終了します。質問のある人は居ますか?」
綾乃はすぐさま手を挙げ大声で「ハイッ!」と叫んだ。
司会担当の生徒は驚きながら「で、ではそちらの方どうぞ」と綾乃を指す。
「あの、映画研究映像部はどうして発表がないのですか?」
「映画映像部は、去年卒業した生徒が最後で、映像専門の生徒は写真部に移動し、廃部となりました」
崩れ行く綾乃、それを介助する由貴。
教室に戻ると綾乃は机にうつ伏せのまま起き上がることはなかった。