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1-9

■1-9


「ま、という事で、今後ともよろしくね。それじゃ、アタシはこれで。はあ、忙し忙し……」


 宇宙人チロは「またね」とばかり片手を上げて、歩き出した。


「そうはいくか!」


 僕は駆け足で奴の前に回り込んだ。


「逃げようとしても無駄だぞ! これを見ろ!」


 僕の手には、例のチョココロネっぽい形をした光線銃が握られていた。チロが慌てて落っことした物を、拾っておいたのだ。そのネジリ銃身をチロに向ける。


「変な動きをしたら撃つからな!」


 そうは言っても、どうやって撃つのか分からないのだった。だって、確かに拳銃のようにグリップはあるけど、肝心の引金がないんだ。本当にオモチャの鉄砲って感じ。だけども、宇宙人チロは、そんな僕の戸惑いに気付かないようだった。


「や、やめろ、撃たないでえ! あの撃たれる時の感覚、苦手なんだ。痺れが解けても、腰のムズムズした感じがなかなか抜けないしさ。先輩達が残尿感に例えたりする、あの感じ」


 こいつも撃たれた事あるのか……。


 まあ、どうやらこれで撃たれても体が痺れるだけで、怪我をするわけでもなさそうだった。撃たれた僕としては。いや、分からないぞ。なんせ宇宙のテクノロジーなんだから、簡単に判断するのは禁物だ。


 そんな風に、緊迫した雰囲気で向かい合う僕とチロの間に、真空(まそら)さん……じゃなくてみちるちゃんが割って入る。


「ねえねえ、チロってさ、何歳? 子供でしょ? どこ小? 部活やってた?」


 そして流れを無視して、質問攻撃。


「え? え?」


 チロが混乱するのも無理はないかな。確かに見た目は大人には見えないけど、小学生ってほどではないんじゃないかい?


 いや、その決め付けも危険だな。宇宙人の事なんて分かるもんか。


「宇宙だと何が流行ってるの? 雑誌とか沢山買うタイプ? おまけが増えすぎちゃうでしょ? あれ、結構邪魔だよねー。捨てられる? あとさ、やっぱり……」


 ペラペラ話しかけるみちるちゃんに、チロはたじたじだ。完全に追い詰められている。


「ちょ、ちょっと、そうまくし立てないでよ。高等生命体のアタシと猿人みたいなあんた達では精神レベルに差があるんだから、合わせるのが大変なのよ。もう、仕方ないわね」


 チロは、腰に巻いてある、ベージュ色の妙なベルトに手をかけた。


「まだ武器が隠してあったのか!? 変な真似はやめろ!」


「ちょ、違うって! 武器じゃないよ! これがそんな野蛮なアイテムに見える?」


 まあ、そう言われて見れば、うちの父さんが通販で買った健康磁気ベルトみたいなんだけど。腰痛に効くとかって言う、あれ。


「まったく、どうして地球人はなんでも乱暴なものに結び付けて考えようとするんだろうねえ……。脳みそが、槍持って獣を追いかけていた頃と全然変わってないんだもん。低レベルにもほどがあるわ。そんなあんた達と会話を成立させるには、アタシの方が降りていってやるしかないじゃん」


 チロはブツブツ言いながら、ベルトを外した。ベリベリッと、マジックテープのような音がした。


 それから、両手を体の脇に下ろし、やや広げ……、


「ディセンション・プリーズ!」


 と叫んだ。何も起こらなかった。


「ふうー。ちょっぴりバカになってあげたわよ。不本意だけど」


 やれやれといった表情で、チロが言う。ベージュ色のベルトを畳みながら。


「さっきから何言ってんだよ。それ、何?」


「これ? パーソナル・フォトン・ベルトよ。選ばれた知的生命体が装着すると、さらに一つ上の次元に精神のレベルを引き上げる事が出来るのよ。それを敢えて外してあげたの。あんた達みたいなバカを理解する為には、アタシの方が歩み寄ってあげなくちゃ埒が明かないから。不本意だけど」


「裏側にいっぱい縫い付けられているこの黒い粒粒、何?」


 みちるちゃんが、そのパーソナル・フォトン・ベルトを持ち上げたり裏返したりして聞く。


「いつの間に!? 勝手に触らないでよ!」


 慌てて奪い返すチロ。


「あんた達は触っちゃダメ! この黒いポッチの一個一個から強力なガウスが発生しているのよ! あんたらみたいな超低レベルな原人には耐えられないから。脳みそが破裂しちゃうから」


 ガウスって、なんかますます健康磁気ベルトっぽいな。


「ふう、これで少しはあんた達に近付いたかしら。感謝しなさいね」


 腰を捻ってストレッチするチロに、


「格好いい男の子っていた? 先生はやっぱり生徒と付き合うと逮捕されるの?」


 みちるちゃんがさっきの話の続きを迫る。


「え!? え!?」


 ベルトを外した効果が本当にあるのか、僕には分からなかった。




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