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軽トラがいなくなったので、僕らも茂みから出た。
「あーあ、行っちゃったねー」
「そうだね。まったく」
なんか、自殺を仄めかされたから思わずこの宇宙人を助けた(?)かたちになってしまったけど、本当にこれで良かったのだろうか。だって、こいつは地球を侵略に来たんでしょ? あの政府直属の組織っぽい人達に引き渡した方が良かったんじゃ……。
「アタシのUFO……持ってかれちゃった……」
当の宇宙人は呆然としていた。
その姿を、改めて見てみる。どう見ても僕らよりも年下のただの女の子だ。日本人としては髪や肌の色素は薄いし、目元もぱっちりし過ぎている気はするけど、まあそこまで違和感があるわけではない。せいぜい外国人とのハーフかクオーターって程度だ。
あれ? そういえばさっきは頭から変な触覚が突き出ていた気がしたけど、そんな物もなかった。あれは見間違いだったのか? そんなわけはないと思うけど……。
格好は宇宙人らしく(?)銀色のピッチリしたスーツを着ている。そのスーツが肌に密着しているせいで、体つきが丸分かりだった。宇宙人は、地球の日本人の基準で言うと、中学生の……もうちょっと頑張れって感じの肉付きかなあ?
それと腰にはベージュ色のコルセットだか幅広のベルトだかを巻いている。
手には白い手袋。足にも白いブーツ。だけども、どう見てもゴムっぽい質感で、ゴム手袋とゴム長靴にしか見えない。魚屋さんみたいだ。
さっきまでは僕も興奮状態で、このエイリアンめ! って気持ちで見ていたから気付かなかったけど、顔も、まあ、可愛いとは思う。真空さんに比べるとさすがにあれだけど、……可愛いよ、うん。
呆然とした弱々しい表情になっているものだから、なんだかちょっと、僕も変な気持ちになってきた。こいつ、本当に宇宙人なのかな? いや、確かにUFOに乗ってたし、僕と真空さんを酷い体質に変えたりしたわけだけど、こうやって見ると、あまりに普通の女の子っぽくて……。
「ねえねえ、宇宙人、あなた名前は何て言うの?」
僕の心が揺らいでいると、真空さんがそう言った。
そうだよ、宇宙人だもん。さすがは真空さん、ブレない! 強い!
「私は真空みちる。こっちは二重陽太君。あなた、名前なかったら私がつけていい? オチコは? 空から落ちてきたから。あとはねえ、じゃあ、銀河ツルツル丸。銀色のツルツルしている服着ているから」
ぐいぐい攻めていく真空さん、さすがだ。
ぼんやりしていた宇宙人の方も、なんだか目が覚めたようだ。
「ちょ、ちょっと、勝手に名付けないでよ! さっき名乗ったじゃん! 私は……チロ。チロ・ペキンパーよ。泣く子も黙るペキンパー一族の末裔よ!」
凄んでみせる宇宙人だったが、
「チロってなんか犬みたいな名前だな」
思わずそう言ってしまった。
「あんた達だって、何だっけ、陽太、みちる……、変な名前!」
「そうそう、陽太とみちるよ」
胸を張る真空さん。
「うん。陽太とみちる……だよ……。み、みちる……」
この際、僕も真空さんの事をみちるって呼ぶ事にしよう。
「ちゃん……」
まあ、ちゃん付けで。
「みちるちゃん……えへへ」
僕が、多分だらしない顔で笑いかけると、
「うん! 陽太君!」
みちるちゃんが輝くように笑ってくれた。