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■1-7
その時、車の音が聞こえた。この公園の中は車両侵入禁止のはずなのに。
オオンンン、オオオンン、と、低いギアでウロウロしているようだ。
「もしかして爆発の音を聞いてきたのかな? それとも、UFOの光を見て……。どっちでもいいや。とにかく、この宇宙人を警察に……」
僕が車を呼びに行こうとすると。
「ちょっと待ったー!」
宇宙人が立ち塞がった。
「なんだよ、どけよ!」
「何が来ているって!? 警察? 軍部? 大統領直属のナントカカントカ? もしもアタシを奴らに引き渡したら、奥歯に仕込んだ毒薬で自殺するから! アタシ、こう見えてもエリート特殊工作員ですからね! そういう覚悟が出来てるの! アタシが死んだらあんた達は一生その体質のままだからね! だから……行かないで! 死にたくない! 自殺なんてしたくない!」
「ええー」
戸惑う僕の前で、宇宙人はおいおい泣き出した。その姿に、僕は、本能的にうろたえてしまった。こいつ、地球の女の子そっくりな顔して、僕のような純真な男子高校生の前で泣いてみせるなんて……なんて奴だ!
「死ぬの? ねえ死んじゃうの? ねえ?」
真空さんは僕よりも度胸があるようで、宇宙人にグイグイ迫っている。
「どんな毒? 即死出来るの? 無理? 何分ぐらい苦しむの? 神経毒? 咽喉とか内臓が爛れて腐っていくの? 叫び声は上げられる? 何て言いたい?」
「ちょ、だから死にたくないって言ってるじゃん!? ああ! あの音、エンジン音? こっち来た!? 早く早く! 隠れるよ! あんたも! ほらあんたも!」
「お、おい」
宇宙人に袖を掴まれて、僕と真空さんは茂みの陰に引っ張り込まれた。なんで僕らまで隠れなくちゃいけないんだ!
ヘッドライトが折れた外灯を照らし出す。
現れたのは、白い軽トラックだった。なーんだ。公園の管理業者か何かかな。
なんて思っていたら、ドアが開き、二人が降り立った。
離れた位置の外灯と、軽トラのヘッドライトから漏れた光で、二人が若い男女で、どちらも黒いスーツに黒ネクタイ、そしてサングラス姿だという事が分かった。
顔までは分からないけど、むむむ? この格好、いかにも政府直属の組織っぽい……。
しかし、軽トラだよな?
黒ずくめの男女は、懐中電灯で地面を照らしながら、「イエス!」と叫んだ。それからUFOの欠片を持ち上げて、軽トラの荷台に積み込んでいく。
やっぱり、それ相応の秘密機関の人達なのか?
「うう、奴ら……。アタシのマシンを汚らしい手で触りおって」
宇宙人が呻く。
その間も、黒ずくめの二人はせっせとUFOの残骸を軽トラに積み込んでいる。しょっちゅう残骸に蹴躓きながら。
「こう暗いのにサングラスなんてかけているから、危ないッスよ」
「文句言うな! 二等会員のくせに!」
「へーい」
そんなやり取りが僅かに聞こえた。女の方が格上らしい。
離れた外灯からの明かりで、軽トラのドアに書かれた文字がどうにか読めた。「UFOWA」と書いてあった。
「うふぉわ? いや、ゆーふぉわ、かな?」
なんとなくユーフォワな気がする。
そうこうしている間に、黒ずくめの男女は、目ぼしい残骸を全て軽トラの荷台に乗せ……。
「よし、撤収!」
軽トラは走り去ってしまった。UFOは回収されてしまったのだ。