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一瞬後。
「ぐえ!」
僕は地面に投げ出され、ごろごろと転がった。
「い、痛い……」
どうやら爆風に飛ばされたようだった。
「うぐぐ……。ま、真空さん!?」
見回すと、真空さんが五メートル向こうにいた。真空さんは立ったまま、ぽんぽんと服の裾をはたいていた。
「真空さん!」
僕が叫ぶと、彼女もこちらを見つけたみたい。真空さんのきょとんとした顔が、急に、泣きそうになった。
「二重君……、怖かった……」
真空さんは両手を力なく広げ、よろよろと、こちらに歩いてくる。
僕の胸がきゅっとなった。僕は起き上がり、真空さんへと走った。
抱き締めてあげなくちゃ! 抱き締めて、安心させてあげなくちゃ! 僕にはそれをする義務がある! や、やるぞ! 抱き締めちゃうぞ!
「二重君……」
「真空さーん!」
僕は両手を広げ、真空さんの目の前まで来て、そして、彼女の鼻先が僕の胸に触れそうな段階で、両手を閉じた。
「真空さん!」
ずきゅーーん!
「……ん?」
僕は、自分の体を抱き締めていた。腕の中には真空さんの柔らかな体はなかった。
あれ? どういうこと?
振り返る。真空さんの背中があった。彼女もこちらを振り返った。
「二重君……」
「真空さーん!」
僕はもう一度、彼女を抱き締めた。抱き締めようとした。
ずきゅーーん!
そして僕は、今度も自分の体を抱き締めていた。真空さんと背中合わせに立って。
「……なにこれ」
真空さんと向かい合う。両掌を上げる。真空さんも同じように手を上げ、二人の手と手を合わそうとする……。
ずきゅーーん!
僕の体が前に引っ張られ、と思ったら、目の前から真空さんの姿が消えていた。振り返ると、真空さんがいて、彼女もこちらを振り返った。
「これって……。僕らの体が……」
「すり抜けちゃったよね……?」
まさか、幽霊になったのか? 霊体? 死んだのか? 爆発に巻き込まれて。
「なんてこった……」
僕はよろけて、公園の池の周りを囲む柵に手をついた。
「……ん? でもこういう物には触れるんだな。幽霊なのに」
「おかしいねえ。……あ、宇宙人!」
真空さんの指差す方を見ると、宇宙人が四つん這いでこそこそ逃げようとしていた。
「あいつめ! ちょっと待てよ!」
急いで追いかけ、通せんぼする。
「お前のせいで死んだぞ! お前のこと呪ってやるから! 覚悟しろよ!」
「直接関係のない孫や曾孫も不幸になるからね」
真空さんも腕組みをして言う。
「ヒイ! おたすけー!」
宇宙人がぺこぺこする。
……あれ?
「お前、僕らの事が見えるのか?」
「見えるよ! 死んだとか気持ち悪い事言わないでよー。ほら、ちゃんと生きてるでしょ?」
宇宙人が僕の肩をぽんぽん叩いた。
「あれ? 確かにそうだな。でも……」
僕は手を上げて、真空さんの肩に触れようとしてみた。
ずきゅーーん!
「ああーっと、ほら! やっぱりすり抜けちゃうじゃん!」
「すごいよねー」
僕は宇宙人の肩を掴んでガクガク揺すぶった。
「どういう事だよ!? 僕らの体、どうなっちゃったんだよ! なんですり抜けるんだよ!? なんで真空さんに触れないんだよ!? そんな悲しい事ってあるかよ! あのUFOが爆発したからなのか!? どういう事か説明しろよ!」
「ちょ、ちょっと、待って、ちゃんと言うから」
宇宙人を解放すると、奴は額を抑えて、それからコホンと咳をした。
「あー、ワープのビームを……。ええと、だね、それはつまりね、ええと、ちょっと待って思い出すから。受験の時ちゃんと勉強してきたから。大丈夫大丈夫、えっと……」