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「見ればなかなか良い星ではないか! 木々も豊かに茂っているし、湖も良い感じにあるし。来て良かった!」
宇宙人は寺ヶ白公園を見渡して言った。湖じゃなくて池だけどね。
「いつまでもモタクサしている元老院のジジイどもにはウンザリだからね。我らカギヅメ党がちゃっちゃと侵略してやるっつーの。そしたら資源もがっぽり手に入るし、観光特需も起こるだろうし、景気に連動して我が党の人気もうなぎ上りだ。一党独裁も夢ではない!」
何言っているのかは分からんが、とにかく邪悪な話に違いない!
「こいつは侵略するっきゃないっしょ! これまでのように、原住民のバカ相手にちょっかい出してはただニヤニヤしながら見守る、そんなレジャーの時代は終わりだ! 早速工作員の部隊を派遣してもらおっと!」
すると丼の中から、ビニール傘のような物がにょっきり生えてきた。そいつはしばらく迷うように先っぽをあちこちに向けていたが、空の一点を差して止まった。そしてやはり傘のように、開いたり、閉じたりし始めた。
「えーと、カギヅメ党本部に送信するには、と……。アドレスが手入力だから……間違えないようにしなくちゃ……」
宇宙人が、何やらメモを見ながら、ポチポチと慎重に操作している。
あの傘が送信機なのか! 侵略軍を呼ばれてしまう!?
侵略されたらどうなるんだ!? まさか、地球人は奴隷にされちゃうとか!?
そうしたら真空さんとも離れ離れになってしまうかもしれない! それどころか、真空さんが凶悪で破廉恥な宇宙人の慰み者にされてしまうかも……!
ふざけるな!!
「地球を……好きにされてたまるかよ!」
「あ、二重君!」
僕は木陰から飛び出した。UFOに飛びつき、よじ登り、傘に飛び掛った。
「あー! 何すんだ、野蛮人!」
「うるさい!」
傘にしがみ付いてゆさゆさ揺する。すると、柄の部分がぽっきりと折れた。
「やった! ……と、とと、あいた!」
そのままUFOから転げ落ちてしまった。
「壊しやがったー!? バカー! 党の備品なのに、どどどうすんのよ!?」
宇宙人が叫ぶ。ざまあみろだ!
「許せない! こうなったら、直接呼びに行くしかない! ワープエンジン再起動!」
UFOのオレンジ色の光が徐々に強くなる。
「暴れん坊どもを呼んできてやるからな! もう謝っても遅いから! お前達なんて奴隷……はまずいから、超低賃金で働かされる畜生人間にしてやる! サービス残業は月に百五十時間くらいね」
UFOが僅かに浮き上がった。
「そうはさせない!」
僕はもう一度UFOへ飛び掛った。
しかし、正面に、チョココロネを構えた宇宙人がいた。にやりと笑いながら。
「し、しまっ」
ぷよよよよ。
光る輪っかがいくつも飛んできて、僕に命中!
「うぎゃあーアヨヨヨヨ」
こんな声出したくないのにー!?
「アヨん!」
僕は、背中から地面に落ちた。
「二重君!? してやられちゃったのー!?」
真空さんの悲鳴が聞こえる。
すぐに立ち上がろうとして、だけども体が痺れて動けない!
真空さんが、しゅたっと僕の横に膝をついた。
どうにか首だけ起こし、震える指先をUFOに向ける。
「ヨヨヨヨ、まま真空さんん、ああれれをこ壊しててて」
「うん! 合点!」
びゅっと、真空さんの姿がかき消えた。
直後に、ボカーン! という激突音。
見れば、真空さんが、折れて転がっていた外灯の支柱を手に取り、振り回している。外灯は長さ三メートルぐらいあるんだけど。それでUFOを殴りつけているのだ。その度にボカンボカン音がしている。
「ヒー! なんて野蛮なパワー!? これが野性の証明ってやつなのか!? って、うわ!」
宇宙人が、衝撃でUFOから投げ出された。
「いてえ!」
尻から落ちたようだ。
「私、壊すのは得意なんだー」
真空さんはにこにこしながら外灯を振り回している。それも単に無造作にぶん回しているのではなく、首を支点にしたり、腰の後ろで持って自分も一緒に回転したり、カンフー映画のような見事な棒さばきだった。
優しいだけでも素直なだけでも可愛いだけでも運動神経が良いだけでもない、思わず「真空さん凄いよ!」なんて叫びたくなってしまうこの感じ! これぞ「ファニーな魅力」ってやつなんだろうな! ああ、なんて頼もしいんだ。ちょっと引いてしまうほどに……。
「僕の方も、うん、よし」
体の痺れも解けてきた。致命傷を与えるような銃ではないようだ。宇宙人は撃つ時に「死ね!」とか言っていたけど。
「なんて凶悪で凶暴な原住民なんだー!? ケダモノめ! あ、ちょっと、そんな乱暴したらエンジンが、エネルギーが……ああー!?」
尻をさすりながら、宇宙人が叫ぶ。
薄ぼんやりと光っていたUFOが、強烈に明滅しだす! オレンジ色の光が膨らんでいく! これは、よく分からんけど、危険なんじゃ……。
「真空さん! ちょっとストップー!」
僕は飛び起きて、真空さんへと走った。
「チェストー!」
真空さんは、とどめとばかり、UFOに外灯をぶっ刺した。そして、追いついた僕に、親指を立ててみせた。歯がキラリと光った。
素敵だ! 素敵だけども! 今は、いけない……。
ボイーーン!
僕と真空さんは光に包まれた。目も見えず、耳も聞こえなくなった。足の下から地面が消えた。