3-1
■3-1
コンビニやゲーセンでちょっと時間を潰してから、家に帰った。
時刻は夜九時を過ぎた頃。もう父さんは寝ている。
「お前、風呂入るだろ」
「入るー」
実は昨夜はチロを風呂には入れてないのだ。宇宙人は地球人とは違うのかも、と思っていたし。だけども、もうそんな疑問は消し飛んでいた。宇宙から来たと言っても、女の子は女の子だ。
あ、僕は昨日もちゃんとシャワー浴びたよ。みちるちゃんに臭いって思われたくなかったからね。なんせ、本当は今日こそ抱き締めちゃうつもりだったから……。叶わなかったけど。
「お前、地球の風呂、分かる?」
「楽勝ー」
まあ、一緒に入るわけにはいかないからね。チロが風呂場へ消えるのを確認して、僕は部屋に戻った。
「んふふ~。コロナに~焼かれて~」
しばらくすると、チロの歌が聞こえてきた。カポーンなんて風呂桶をぶつける音を響かせながら。
あのバカ! 父さんが起きたらどうするんだよ!?
注意しに行くか? でも……。宇宙人とはいえ、女の子の風呂に接近するのは……。ねえ?
なんてもやもやしていると、
「ぎええ!?」
悲鳴が!
あのあほんだら!
大慌てで階段を下り、風呂へ駆け込む。
「何やってんだよ!?」
湯船から両足が突き出てバタバタやっていた。上半身は見えない。溺れているのか!?
「おい、チロ!」
「ゴ、ゴボ! 吸い込まれる!」
風呂の水位は大分浅くなっていた。足で風呂の栓を抜いてしまったのか。そのまま滑ってこんな格好になったのかも。
とにかく、助けねば、だよ!
急いで引っ張り起こす。
「おい! 大丈夫か!?」
「うう。いきなりマイクロ・ブラックホールが発生して、事象の地平の向こうに吸い込まれそうだったんだよー」
「こんな小さな穴に吸い込まれるはずないだろ!」
「えー? あ、本当だ」
「まったく、お前なあ……」
そこまで言ったところで、もう僕は、そ知らぬ顔は出来なくなっていた。だって、僕の目の前にいるチロは、素っ裸なんだもの。
「まったく……お前は……お前って……」
分かっていたけど、チロは地球人そっくりだ。地球人の女の子にしか見えない。つまり、今、僕の目は、女の子の裸しか見えていないのだ……。
「だってさーだってさー、地球のお風呂ってなんかツルツルしているしさー、湯気でよく見えないんだもん」
「いや、結構、見える、よ……」
口を尖らせるチロは、僕には裸の女の子でしかなくて、そんなものを僕は見た事がなくて、肌色が多すぎて、しかもそれは火照った肌であって、僕はもう……。
「見える? って、あわわわ」
チロもその事にようやく気付いたみたい。自分の体を抱いても、はっきり言って無防備だ。
「あわわわ」
全裸で、濡れたまま、立ち尽くす少女。ひたすらアワアワ言っているだけで逃げるでも体を隠すでもなく、完全に思考停止状態になっている。
それを前に、僕は。
「ダメだ! ごめんなさい! みちるちゃん!」
僕には、みちるちゃんという天使がいるのだ! こんな暗黒宇宙から来た悪魔にかどわかされるわけにはいかないんだ!
「え!? みちる!? なんで!? ヒイ!?」
そんな悲鳴を背中に、僕は泣きながら部屋へと戻った。




