2-6
■2-6
売店で宇宙人のゴムマスクをきゃあきゃあ言いながら選んでいる女子の集団。
そこへ、チロがズンズンと歩いて行く。頼むぞ、チロ。女の子同士なら自然に連れ出してくれるはず。宇宙人だって女の子は女の子だ。
「みちる! あ、あんたに話があるの! 誰にも聞かれちゃいけないの! 大切な事! 来ないと後悔するよ!」
びっくりするほどストレートな誘い方だった。え、そんなんでいいもんなの? 良いか悪いかは分からないけど、僕は自分のモジモジさが急に恥ずかしくなってきた。本当なら僕がこうするべきだったんだ。
「来るの!? 来ないの!?」
チロの声は強気だ。だが、手にした光線銃がぶるぶる震えている。え、光線銃!? 何してんだあのバカ!
「大切な事? もしかして地球侵略の事……!?」
とみちるちゃん。
「地球侵略? あはは、ノリノリだね~」
笑うクラスメートの女子ども。
だけどもみちるちゃんは本気の顔。
「分かった、今行くから。皆、ごめんね。地球の為だから、私、行くね!」
皆はげらげら笑っている。
僕は先回りして、ロケットの形をしたゲームセンターの裏手で待った。
ほどなくして、チロがみちるちゃんを引っ張ってきた。
「みちるちゃん……」
「二重君! とうとう地球に暗黒太陽ビームが撃ち込まれてグランドクロスでポールシフトだって本当!? やっぱり私達は……滅亡するしかないの!?」
「え? ちょ、ちょっと落ち着いて!」
興奮してまくし立ててくるみちるちゃん。チロの方は、一仕事終えたって顔で額の汗を拭いている。
「リンゴ送れシーって書かれた電報が家に来ているかもしれないって……。つまりヴァン・アレン帯のせいで人類は地球から脱出出来ないって事なの!?」
意味不明な事を、なぜか目をキラキラさせながら話すみちるちゃん。
「……チロ、何を言ったの?」
みちるちゃんの横で、チロがそっぽを向いて口笛を吹く。すひーすひー、と。吹けてないけど。
まあいい。一応みちるちゃん一人を連れて来てくれたわけだし。
「あの、みちるちゃん」
連れて来てくれたチロには感謝なんだけど、チロ自身もいつまでも一緒にいるんだよね。もう、邪魔だなあ。
僕は手をしっしっと振って、今だけ離れていてよ、と目で訴えるが、チロは聞いちゃくれない。僕らの横に立ったままだ。
仕方ない……。まあ、こいつはおまけだ。宇宙人だし、地球人の色恋沙汰には関係ないだろう。
「みちるちゃん、暗黒太陽ビームとかそれ全部デタラメだから。そんなアホみたいな事はどうでもいいんだ。僕から……大事な話があるんだ!」
「地球が、滅亡!?」
「それはないから! あったとしても何十億年も後だから! それよりも、今の方が大切なんだ! 今の僕の、気持ちの方が……」
「今が大切……。アポカリプス・ナウ……。地獄の黙示録……。戦争の狂気……。愚かな人類は滅びるというのは、その事なのかな……」
「みちるちゃん! 僕、君にプレゼントがあるんだ! 受け取ってくれるかな」
「あ、プレゼント!? 昨日の?」
ころっと表情を変えるみちるちゃん。なんて素直な子なんだ。だから……好きだぜ。
「うん。あの、これなんだ」
僕は鞄から、毛むくじゃらのボール状の物を取り出した。
「あ、コロボウ! すごい! 買えたの? 今全然売ってないのに!」
「本当は昨日渡そうと思ったんだけど、邪魔が入ったからさ」
チロをちらっと見る。ジャージ姿の宇宙人がふんと鼻を鳴らした。
「可愛いよね~。いいな~」
「こいつ、みちるちゃんにプレゼント」
「本当に? いいの?」
僕はコロボウをみちるちゃんの掌に乗せた。
「ふかふかしていて……気持ちいいー!」
撫で撫でするみちるちゃん。
そんな姿を見て、僕は胸がドキドキして……。小動物を愛でる女の子っていうのは、なんて素敵なんでしょう。
良いぞ、良い感じだ。後はこのまま、僕の気持ちを伝えればいいだけだ。
「あ、あのね、みちるちゃん。僕……僕は、君の事が……」
その時、コロボウがみちるちゃんの掌から跳ね上がった。
「あっ」
僕は咄嗟に手を伸ばして、前に一歩出た。
僕の正面で、みちるちゃんも同じ体勢をしていた。
落ちてきたコロボウを真ん中に、僕ら二人が同時に手を伸ばし……体を合わせながら……顔を近づけながら……。
僕とみちるちゃんの視線が合う。見つめ合いながら、接近して。
コロボウが、掌に落ちた。重なった、僕とみちるちゃんの手の上に。
ずきゅーーん!
僕らは手を握り合っていた。二人の手の中に、コロボウがいた。僕はコロボウを見下ろし、それから視線を上げた。
「あれえええ!?」
思わず悲鳴を上げる僕!
「ひいいいい!?」
と叫んだのは、チロ!
そう、僕はみちるちゃんではなく、チロとガッチリ両手を合わせていた。コロボウを包み込むようにして。
みちるちゃんの体をすり抜けてしまったのだ。
「あががが。あ、あんた、アタシを秘宝館に連れて行ったのは、気合いを入れる為だったのか……! 心に助走をつける為に……?」
チロが顔を真っ赤にして、目を白黒させて、変な事をのたまう!
「違うって! ちょっと、いいからコロボウを返してよ!」
僕はチロからコロボウを奪い取り、みちるちゃんの掌に乗せた。
「はい。ごめんね、みちるちゃん」
「ううん。あ」
またもコロボウは跳ね上がって、横でバカ面していたチロの方へ飛んだ。
「わわ!?」
慌てて受け止めるチロ。
「あれ?」
僕はコロボウをチロの手から摘み上げて、もう一度みちるちゃんに返した。
コロボウはみちるちゃんの掌でもぞもぞと動いた後、ぴょんとまたもチロへと飛んでしまう。なんでー?
「あはは。この子、もうチロをお母さんだと思い込んじゃっているみたいだよ」
みちるちゃんが笑う。
え、なになに? お母さん?
「二重君知らない? コロボウにはご主人様を登録する機能があるらしいって話」
「あ、なんか聞いた事ある気も……。都市伝説だよね」
それは、おもちゃを本物の生き物のように思い込んじゃう人達の願望から生まれた、噂話に過ぎないはず。
だけども、コロボウの、チロへの懐きっぷり……。本当にそういう隠し機能が付いていたのかも。
このコロボウ、昨日みちるちゃんに渡せずに持って帰って、その後はチロがずっと弄繰り回していたものだから、チロをデータ登録か何かしてしまったのかな。なんてこった……。解除の仕方なんて知らないよ。
「この子はチロが可愛がってあげてね」
チロの手の上の毛むくじゃらを、みちるちゃんが撫でる。
「うう~? うう……」
チロはコロボウを持ったまま、怪訝そうな顔で僕とみちるちゃんを見る。それから掌の上のコロボウをじっと見た。
「ウヒヒ。もらった~」
チロが笑う。だ、誰のせいでこうなったと思ってんだ。
「あ、みちるー。どうだった? 地球は平和になったのー?」
あ、しまった。もう女子どもがこちらにやってきた。
「うん! 平和平和!」




