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1-12

■1-12


「お前達の野望は潰えたのだ。それを自覚するように」


「へーい」


 僕の前でチロが正座している。


「エッヘッヘ……」


 上目遣いで、頭をかきながら。反省しているようには見えないな……。


「お前、また妙な行動したら今度は容赦なく撃つからな!」


 鞄の中に入れておいた光線銃を探ろうとして、違う物が転がり落ちた。毛むくじゃらの丸い物体。


「あれ、なにそれ」


「これね……コロボウだよ」


 ため息が出てしまう。本当はこいつをみちるちゃんにプレゼントするはずだったのだ。その為に梱包のバイトも頑張ってやったのに。


 思い出すと、ああああああ、ちくしょう!


 せっかく呼び出しに成功して、あとは愛を告白するだけだったのに! 宇宙人の邪魔が入るなんてありえないよ!


 指先でコロボウを転がす。チロがそれをキャッチする。


「わー、なんか懐かしー。こういうオモチャうちの地元でもあったよ。ちょっと違うけど。地球人もアタシ達と同じようなオモチャで遊ぶのかな……」


 チロはコロボウを持ち上げ、掌の上で軽くぽんぽんと弾ませる。地元ねえ。


「アタシ達と地球人てそれほど違うわけでもないのかな。……そんなわけがあるかい! ふん!」


「え、何?」


「なんでもないわい。おーしおしおし」


 コロボウを撫で回すチロ。


 コロボウは逃れようとチロの手の中でもがいている。が、逃れられない。


「イッヒッヒ。そう恐れるでない。うい奴め」


 この野郎、のんきに玩具と戯れやがって。


 しかし、これからどうする?


 とにかく、僕とみちるちゃんの体質を戻さねばならない。でもその為にはUFOを修理せねばならず、しかも肝心のUFOは黒づくめの男女に回収されてしまったのだ。謎の組織に。


 軽トラのドアには「UFOWA」と書いてあった。ユーフォワ。あれが組織の名前? 何を意味する言葉だろう。UFOと関係する事は間違いないよね。UFOを調査する政府の秘密機関? 宇宙人の侵略から地球を防衛する為の?


「お前、宇宙のどこから来たんだよ。どこの宇宙人なんだよ」


「遠い所よ。地球で言うレチクル座のー、その中にある恒星イプシロン系のー、惑星クロードフォレよ。地球とだいたい同じ大きさの惑星。気候なんかも結構似てるの。だからね、アタシが来たってわけよ」


 クロードフォレ星人てわけか。


「なんでお前の星の連中はこれまで地球を侵略に来なかったんだよ」


 チロに聞く。


「レジャーでは来てたんだけどね。侵略は……、まあ、今の腑抜けた元老院の方針とは合ってないからね。つまらないジジイどもだから」


「じゃあお前だってやめろよ!」


「そうはいかない! 我らカギヅメ党は泣く子も黙る帝国主義を標榜する組織よ。強気の活動こそ、民衆の支持を得るには持ってこいなのよ。だって、民衆どもだって心の底ではそれを望んでいるんだもん。下々の民の心を解き放ってやるのよ! 真の心の解放よ!」


「そのカギヅメ党ってのからお前が派遣されたの? 本当? なんかさ、お前、あんまり仕事が出来そうに見えないんだよね。もしかして落ちこぼれだったりしない?」


 はっきり言うと、頭が良いようには思えないんだよな。あの変なベルトをしていても。


「ばばばバカ言わないでよ! どうしてアタシがこの星に来れたと思っているのよ! あのUFOだって党の備品なのよ」


「本当かよ? そもそもさあ、ちょっと気になってたんだけど、UFOって未確認飛行物体って事でしょ? なんでそれに乗ってるお前も、あれの事をUFOって呼ぶのさ」


「え、未確認? そうなの? そんな事言ったって、翻訳装置がそう訳しちゃうんだもん。いいじゃん、アタシらの乗ってるスペーシーな乗り物の意味って事で」


 まあ、こいつがいいならいいけど。こっちもその方が楽だし。


「そんでお前はそのUFOを、党から勝手に持ち出してきただけだったりして?」


 なんて厭味を言ってみたりして。


「うっ!? ち、地球人風情が邪推するんじゃないよ! 知恵熱出すよ? そ、それよりもさ、あ、なにこれ、くるくる振り回して敵を殴りつける武器?」


 チロが壁のフックから木のハンガーを手に取る。




 その時、一階から、


「あれえ? 陽太帰ってんのか?」


 寝起きっぽい声が聞こえた。父さんだ。


「お前! 静かにしていろよ! 見つかったら大変だからな。警察に突き出されるぞ」


「分かってるー」


 しかし、チロはあちこちをガタガタいじったりと落ち着きがない。パソコンのキーボードに顔をこすり付けて、ペココココってやりながら、


「なにこれ。なんか気持ちいいー。マッサージ器?」


 とか言っている。


「やめろよ! 猫かよ!」


「おーい? 陽太? 誰か来てんのか?」


「い、いないよ! ちょっと、電話してたんだよ!」


「おっとすまん。明日は早いんだろ。夜更かしするなよ」


 そうなのだ。明日は、クラスの皆で遠足に行くのだ。懇親を深める為に。きっと男子どもはみちるちゃんと仲良くなろうと躍起になるだろう。その前に、今日プレゼントを渡して、アドバンテージを取っておこうと思っていたんだけどな……。


「もっと声を落として喋れよな。父さんにバレたら大変だろうが」


「へっ。原始人のオス一匹に何をビクビクしているんだか。アタシの敵じゃないわね」


「お前なあ! 人の親をオスとか、失礼だろうが! お前だって自分の親をそんな風に言われたら腹立つだろ?」


 ゲームソフトの中身を入れ替えていたチロが、こちらを向いた。その顔から、小生意気な色が一瞬消えた。影が、射した。


「親がなんだってのよ。パパンもママンも、いらないし……」


「え?」


 チロの顔によぎった寂しそうな影。少女の顔が、余計に幼く見えた。脆そうに見えた。


「あ、いや、私はね、血だとか、家だとか、そういう次元の低いしがらみに囚われてないの」


 チロは僕の視線に気付いたのか、早口で話し出した。弱さを取り繕うように。


「偉大なカギヅメ党にこの身を捧げているの。大義の為ね。それはつまり愚かな民衆を導く為。ひいては銀河の為よ」


 妙に胸を張ってみせる。


「でもお前……、落ちこぼれなんだろ?」


「だー!? 違うってんでしょ! エリートよ! アタシだって、この星が侵略にもってこいだって進言して、それが証明されたら、大手柄よ。党の中で、一発逆転出来るんだから。そしたら尊敬されて、スターになって、ちやほやしてもらえて……」


 チロはコロボウを自分の口に押し付けて、モゴゴモゴモゴゴっと呟いた。僕にはそれが、「友達も出来る」って聞こえた気がした。




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