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■1-11
「お前、静かにしろよ」
そう言い聞かせてから、玄関の扉を開ける。
「ただいまーっと」
小声で、何気ない雰囲気を出しながら呟く。
「なによ、自分は喋ってんじゃん」
「これは毎回言っているからいいの。言わない方が不自然だろ」
「変なの」
家に入ると、すぐに父さんのいびきが聞こえてきた。まだ夜の九時だが、父さんはバスの運転手で、朝が早いんだ。大概は早く寝て早く起きる。
「もう一匹は?」
「一匹って……。母さんの事? 母さんはいないんだ」
「死んだの?」
「離婚したの。元気でやってるよ。時々来るよ」
「ふーん。契約破棄って事か」
僕は足音を忍ばせて、二階に上がり、チロを僕の部屋へ連れ込んだ。連れ込んだ、って表現はおかしいな。保護した、って事。
「ふーん。これが地球人のパーソナル・スペースか。ふーん。へー」
チロは部屋の中を見渡し、デスクの前の椅子をグルグル回した。次にライトのアームをバタバタ動かす。
「あんまりいじらないでよ」
「OKOK」
チロは生返事をし、ベッドの上にボスンと腰掛ける。枕をボスボスを殴りつけ、それからカバーを外した。嫌な予感がした。
「おい、ちょっと……」
案の定、チロは枕のジッパーを開けて、中から輪切りのストローみたいなクッション材をザラザラとこぼした。
「何やってんだよ! バカ!」
「バカって言った! アタシよりも精神のレベルが低いくせに! 道具を使う事を覚えたばかりの原始人のくせに!」
チロがベッドから飛び降りる。僕の手を逃れながら、ペン立ての中身をぶちまけたり、カレンダーをやぶったり、蛍光灯の紐を殴っては、返ってくる紐を頭だけで避けたりする。無意味に。
ああー、この野郎ー! 面倒くさい友達を部屋に上げちゃった時と同じ行動をしやがって!
「やめろよ! ここは僕の部屋だぞ! 勝手な事するな! おとなしくしろよ!」
「勘違いしない事ね! アタシはあんたに捕獲されたわけじゃないんだから! 図に乗るんじゃあないよ!」
チロは本棚から漫画を抜いては床に積み重ねて行く作業をしながら強気に叫ぶ。こいつ!
「それに、いずれこの星全てを支配化に収める我々にとって、こんなちっぽけな部屋一つ気に留める必要すらないのだ」
「ふざけんな!」
数分間の追いかけっこの末に、僕はチロの捕縛に成功した。ゲームのコントローラーのコードで縛ったのだ。亀の甲羅状に。
「離せ! 複雑な縛り方をしおって!」
チロは身を捩るが、最早逃れられまい。ここ二週間ばかり、僕はホームセンターで梱包作業のバイトをしていたのだ。紐で物を縛るのはお手の物だ。バイトは……コロボウを買う為だった。
「おのれ~。なんて野蛮な奴だ! 未開種族め!」
「そんな事言っていいのか? こいつめ、ふん! ふん!」
コントローラーを引っ張る。
「あ! ん!」
その度にコードがきゅんきゅん絞まった。暴れていたチロも、一転、
「おとなしくするので、これ、解いて下さい……」
初めからそうしていれば良かったのだ。




