其の七十七『テレパシー系雑談』
前回のあらすじ:正当防衛
「続いてのニュースです。昨日起こったエデンによる暴動の余波は今なお続き――――――」
(どの番組も同じですねー)
「そうっすね」
(今もそちらは大変なんですよね? 体には気を付けてくださいね?)」
「えぇ……ありがとうございます」
(あそうだ! 今度いつ来てくれます? 忙しいのは分かってるつもりなんですけどこれでもやっぱり人恋しいもので―――――)
「よく喋りますねぇ今日は随分とぉ!!?」
「琳、うるさい」
「ご、ごめんなさい……」
(怒られちゃいましたね?)
「他人事だと思って……」
楽園の暴走があったあの日夜、琳の頭の中には再びイヴの声が木霊していた。
もしかしたらこの状況に対して何か助言をしてくれるのではないかと思った琳だが残念なことにどうやらそういうわけではないらしかった。
彼女はただ純粋に人恋しくなってその相手に琳を選んだ、ただそれだけの可愛らしい理由だった。
別にそれだけなら問題ないし琳も大して問題視することもなかった。
イヴの声はどちらかと言えば大人っぽい感じなのだが喋り方やはしゃぎ方などが可愛らしく近所のお姉さんとの会話、みたいな感じがして琳としては実に悪くなかった。
むしろ殺伐として息つく暇もなかったここ最近での楽しみの一つになっている。
だが問題なのはこちらから話しかけたり返答する時はテレパシーで会話できないことなのだ。
向こうはテレパシーで会話してくるくせにこちらは声を発しなければ向こうには届かない、一体どういう原理でこの意思疎通が成り立っているのか琳には分からないし分かったところでどうにもならないだろうからいっそのこともう考えないようにしていた。
なので傍から見れば琳とイヴのやり取りは琳が一方的に独り言を言っているように見えるため、事情を知っている涼たちならまだしも他の一般の人に見られればそれこそおかしな目で見られることになるのだ。
しかしイヴにはそんなこと知る由もなく、たまに返答できないタイミングやシチュエーションの時に話しかけてきたりしていた。
そういった部分で、琳は若干のストレスが溜まっていた。
「で、どうしたんです? なんならそっちに行きましょうか?」
(えっほんとですか!? じゃあじゃあお菓子とお茶用意しなきゃ………って私動けないんだったー!)
「ほんっっっとに楽しそうですね……」
「まぁ気にしたら負けだぞ琳、元々あいつは騒がしいやつだったからな。動いてない分マシだ」
琳の据わっているソファの隣にいつの間にか立花と千鶴が来ていた。
立花はパックのいちご牛乳をストローで飲みながら、千鶴はフルーツ牛乳を飲みながら琳の両脇に腰かけた。
「イヴだろ? 何の話してたんだ?」
「あぁ立花さん。別になんてことじゃないですよ、ちょっとした世間話です」
(立花………立花って、言いましたか!?)
「うわっ! いきなりボリューム上げないで―――――」
(話っ! お話ししたいです!)
まさかの要望にうーんと琳は考えた。
こうなれば自分がイヴの言葉を立花に伝えるほかあるまい、そう心に決めて立花の方を向いた。
「ん?」
立花はストローを口に付けながらきょとんとした顔で琳の方を見ていた。
その表情は最近のそれとは違って、出会った頃の幼い感じが残ったあの心に落ち着きのある表情だった。
「なんだよーなんか言えよー」
「あー……えっと、イヴが立花さんと話したいみたいで……」
「………ほぉー、ほぉほぉほぉ?」
立花は一体何度目か分からない興味深そうな事象を見つけた時と同じ興奮状態になり、にじりにじりと琳へとすり寄った。
琳は後ろへと撤退しようとしたが残念なことにそこには千鶴が座っていたため実質体の半分をずらせるかどうかが精いっぱいだった。
千鶴は千鶴で悪ノリすることの面白さを覚えたのか凹んだ紙パックのジュースのストローを加えながら両手で琳の肩を抑えて動きを制限した。
出会った頃はこんな性格ではないと思っていたのだが………そう後悔してももはや遅い。
琳はゆーっくりと前に向き直ってこれ以上ないくらい悪い笑みを浮かべて「りん~………?」と体を指でなぞり始めた。
「りん~………ちょーっと、お願いがあるんだけどさ…………聞いてくれるか?」
「嫌です! 絶対碌なことにならなんですからこういう場合!!」
「いいだろ~別に。私もここ最近疲れてて、たまには癒しが欲しいんだよ。例えば……旧友との会話とかな?」
「夏南さんがいるでしょ!?」
「無論あいつも連れて行く」
「何か呼んだか? 名前を呼ばれた気がしたのだが……」
「おぉ夏南! ちょうどいいとこに来た!」
「………嫌な予感しかしないんだが」
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「んでまぁこうして如月神社まで来たわけだが」
「本拠地にするって言って結局ほったらかしにしてましたもんね」
「しょうがないだろー、支部取り戻せたんだしそっちの方がいいじゃないか」
「確かにそうですけど」
(まさか夏南さんまで来るとは思いませんでした……てっきり、あの時死んじゃったものだとばっかり……)
「だから私はそんな奴知らんと何度も……いや、こいつには始めてか……というかいいのか私がここにいて。秘蔵だし切り札なのだろう? 三日月様も散々言っておられた。イヴがどうのこうのと」
「私たちはお前が裏切らないってわかってるし」
「はぁ………裏切ったとしたら力づくで止められるんだろ? 敵わないことくらい分かってる」
ため息を吐きながらハズレくじを引いた顔を浮かべる夏南、それとは対照的に表情こそ変わらないものの琳の頭の中に響く声だけは少女のように元気なイヴと、そして表情と声色を数段上にしてここ数週間はあまり見られなかった本心からの笑顔を表に出す立花。
三者三様、表情の違いこそあれど誰一人として退屈そうにしていたり迷惑そうにしていた者はいなかった。
強いて言うのであれば、イヴの言葉を一々伝えなければならない琳の負担が大きかったということくらいだろうか。
でもまぁそれも決して嫌ではなく、たまにはこう言った和気藹々とした疲れも悪くはないと琳も思い三人と談笑していた。
事件はまだ終わる気配はしない、だがそれでもたまにはそれを忘れることくらいあってもいいじゃないか、そう感じたある日の出来事だった。
こっからどうすっかなー……(安定のノープラン)




