其の七十三『帰投』
前回のあらすじ:量産型
三日月が実験に成功したと言った元一般人たち、その活躍は目覚ましいものだった。
ひっきりなしに現れる魔物を各個撃破していき街の平穏はもはや約束されたようなもので、その成果が市民たちに伝わると三日月は今度は適合者になる施術を一般向けに開始すると銘打った。
その結果、自分も戦いたいなどといった人たちが急増し一躍「三日月小夜」の名は世間に知れ渡るようになった。
さらには国家権力のバックアップによりその施術は政府公認とまではいかないものの一般にはそのような認識になっていた。
このことを立花たちは芳しく思っていなかった、連日報道されるありきたりで偏った内容に嫌気がさしていた。
そしてあの日以来、夏南はずっと俯いたままだった、よほどショックだったのだろう。
「………」
「………」
「…………あの、えっと、その」
「どうしたセラス」
「いえ……なんでも……」
「そうか」
朝から食卓は重苦しい雰囲気で息がつまりそうだった。
セラスが必死に会話を見つけようとしたが雰囲気に阻まれた。
如月神社、その場所に人影はなかった。
その理由は言わずもがな三日月が人払いをしているためでもあるしそれ以上に三日月の開化細胞を一般人に埋め込む技術の方に話題が持っていかれたからでもあった。
しかも三日月は魔物をコントロール術を持っている、つまりはいくらでも自作自演が可能、それにこのまま適合者が増えればいつ極東支部に置き去りにしてきた溝呂木を奪い返しに来るか分からない。
もしかしたら支部ごと新たな拠点として乗っ取られるかもしれない、そうなるまえにゆくゆくは極東支部を再び使える状態にしてまた拠点としなければならない。
どの道あのばしょは取り返さなければならない場所なため近いうちに行動を開始しなければならないが今の琳たちにはそんな気力は持ち合わせていなかった。
「はぁ……どうしたもんか……」
「このままですと三日月の息のかかった者は増え続け、私たちは弾圧されます。それに翔馬さんもまだ合流できていませんし……!」
「んなことは分かってんだよ。くそ、あいつ、一体どうやって一般人向けの開化細胞を……」
ここのところ、立花は碌に寝ていない。
三日月がどんな手段を使っているのかが全く分からなかったからでそれに夏南も付き合っていた、夏南は夏南で精神状態が不安定なため一定の距離感が二人の間で自然と保たれているからか意外といがみ合いはない様子だった。
むしろアイディアを出し合ったりと協力し合う光景も見られていた。
だが一向にアイディアが思い浮かばず、頭を悩ませていた時、千鶴がとあることを言った。
「いっそのこと、作戦を練らずに行ったらいいんじゃないかな?」
その一言で何か吹っ切れた様子の立花と夏南はすくっと立ち上がって琳たちに出撃準備をさせた。
急な出撃準備に琳たちは戸惑ったがきっとなにか考えがあるのだろうと思って素直に準備を開始した。
そうしてやって来たのはいつものあの街、極東支部のあるテナントビル。
その前には相も変わらず棒のようにただ突っ立っているだけの警官が一体目の前から来るものかと呆れるくらいに前だけを警戒していた。
ならば真正面から失礼しようじゃないか。
無論、正攻法などは使わないがね。
立花はそう言って夏南を向かわせた。
「そこな警備兵」
「どちら様でしょうか。申し訳ありませんが、ここへは立ち入ることが出来ません」
「私が三日月小夜様の直属の部下であってもか」
「そ、それは……また別の話ですが……」
「三日月様から指示を預かっている。ここのプロテクトを解除できる者が用意できたから通せとな」
「では、ただいま警視総監殿にも確認を――――」
「私の言葉を信用できないか? それは即ち、我が主を疑うことに直結するぞ?」
「し、承知しました! ではどうぞ!」
夏南が立花たちを「おい」と呼ぶと立花たちは仮面をつけて顔が見えないように堂々と正面から大所帯でビルの正面に向かい、そのまま入っていった。
テナントビル自体に栞はロックをかけてはいかなかった、ロックをかけたのはエレベーターから極東支部に続くシステムや支部そのものの隔壁。
そしてかけた本人が解けないロックというのは栞は基本的にやらない、やるのはかけた本人にしか解けないロック。
立花たちはエレベーターへと一直線に向かい、ドアを閉め、その中で栞はエレベーターとエントランスへの扉のロックを解いた。
そうしてすんなりと地下へ降りると案の定荒らされてはおらず、庭園の守り手極東支部、そのいつもの風景の代表であるエントランスは出て行った時のままだった。
そして立花は仮面を外し、栞に再びエレベーターとエントランスとの扉のロックをかけさせて仮面を外し、ソファに座ってこう叫んだ。
「帰ってきたぞー!!!」
「いぇえええええええええええええええええええええええぇぇぇぇい!!!!」
まるで中学生のようなノリで帰還を喜ぶ立花たち。
そのあからさまな喜びの裏で夏南は一人落ち込んでいた。
「あぁぁぁぁまた私はなんということを………次は確実に殺される………!」
「だったら、もう吹っ切れればいい」
落ち込んでいる夏南の横へ千鶴が歩み寄り、いつも通りの無表情でそうフォローした。
夏南は数秒考えた後に顔を上げて千鶴と目を合わせ、互いに頷き、立ち上がって妙に清々しい顔で確かにこう言った。
「なんかもう……どうでもいいか!!」
「おっ、なんか吹っ切れてやがんな。ちょうどいい、保存食化なんか残ってたと思うから飯手伝ってくれ」
「承知した」
なんだかんだでいつの間にか打ち解けている様子の夏南に琳たちは半ば安堵して涼と一緒に行動する夏南を見ていた。
恐らく三日月は琳たちが支部を取り戻したことをすぐに知ることだろう、そうすれば自ずと向こうはこちらを攻撃してくる。
だが決定的な断罪要素をあちらは持ち合わせてはいない、いくら国家権力のバックアップがあるにしろ一部の人たちはすでにネットの掲示板などにて三日月ら楽園に対する疑惑の意見を唱え始めていた。
しかし世論というものは大多数の採決によって動いているためそう言った少数派の意見は無視されるかそもそも存在すらしていなかったことにされるケースが多い、今回もその例外ではない。
だから何だというのだ、そう頭の中で立花は嘲笑った。
実際、大多数が見守っている中立花たちはほんのちょっとの小細工でその大多数を欺くことに成功していた。
ならばほんのちょっとした弾みと歪で大多数の意見が少数の意見に覆されることも大いに可能なのだ。
「みんな、よく聞いてくれ」
立花は全員の注目を集めて話し始めた。
「私の予想じゃ、近々三日月はボロを出す。こんなことやってんだ、リスクがないはずがない」
「じゃあボロを出すまではどうするんですか?」
「なに、普通に生活しようや。学校行って、仕事行って、いつも通り魔物を討伐してやろうじゃないか」
「つまり、素性を隠さずに行動するってことですか」
「そういうこと。それに私たちは別にやましいことやってないだろ? 元々魔物を討伐してたのはこっちなんだ、新参者にその役割取られちゃ敵わない」
「じゃあ魔物退治もやっていいんすか?」
「そのつもりでいこうと思っている。適合者とか魔物の正体が世間に知られちまった今、変に隠すこともないだろう。向こうも隠そうと思ってるのは多分如月神社とイヴくらいだろうしな」
そして立花は拳を天高く突き上げて宣言した。
「いいか! これより我ら庭園の守り手は三日月たちにし対して真正面からぶつかっていくぞ!!」
「おーーーー!!!」
その日、琳たちはちょっとしたパーティーを密かに開いたそうだが世間はそのことを知らなかった。
キリのいいとこで新章いかねばな




