其の六十二『パニック』
前回のあらすじ:スプラッタ
気づいた時には、琳は街を走り抜けていた。
この突然の騒動のおかげでバスも運行していない、というか外に出ている人間はほとんどが逃げ惑う人たちだ。
だがそんなことは些事に過ぎない、琳はキューブモードの黒の武器を握りしめながら走っていた。
やがて一台のバイクが琳の横で並走し始めた。
誰かと思ったがこんな事態の最中に琳に気付いて並走するバイク乗りなんざ一人しかいない。
「乗れ!」
「ありがとうございます涼さん!」
琳は涼の運転するバイクの後ろに飛び乗った。
涼は琳が乗ったのを確認するとアクセルを強めてスピードを上げた。
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「………今日は休暇を与えたはずだぞ琳」
「こんな事態にそんなこと言ってられないでしょ、立花さん」
「全く……ワーカーホリックになっても知らないぞ私は。まぁいい、お前のおかげで三日月との会話は全て分かっている、あいつ、とうとうやることやり始めたな」
「今のところ策はあるんですか?」
「いいや、全くのノープランだ。あいつは大胆な行動をいくつもしてきたがそのどれもがしっぽを掴ませるようなことはしていない。希望があるとすれば、お前が攫われたあの楽園本部くらいだ」
つまりお手上げ状態だということだ。
しかし厳密に言えば何もできないわけではない、まだ事態を収縮させることは出来る。
ひとまず琳・涼・立花・栞の四人はエントランスでテーブルを囲み現在の状況を確認した。
「まず、一般市民の目に魔物がつくようになったのは今から三時間前。ニュース番組の最中にニュースキャスターが食い殺されるというスプラッタな映像が流れたことが発端だ」
「そっからえーっと、市街地にも魔物が出没するようになって被害に合う一般人たちも増えたっつーわけか………警察とかは動いてるんだろ?」
「はい。テンプレートなことをやっていますよ、一体何の役に立つのか分かったものではありませんが向こうは魔物の正体が分かりませんから『正体不明の謎の生物』として扱っているみたいです」
「もうそこまで分かってるのか。流石だな栞」
「やろうと思えば警視庁のデータベースをハッキングすることも出来ますが少々危険なのでまだやっていません。それよりも街の状況はどうでしたか?」
「家から走ってきた感じから言うと、異質でした。もう誰も住んでいないような静けさで……なのに魔物の鳴き声すら聞こえませんでした」
そう、やけに静かだったのだ。
魔物が人を襲っているという事実がありながらその実、人の悲鳴や怒号そして肝心の魔物の呻き声や鳴き声すら聞こえなかったのだ。
まるで深い深い海の底に沈んでいるような、そんな静けさだった。
閑静な住宅街なんてレベルではないだろうと琳は感じていた。
現在街の様子を確認してもらうために大介たち率いる軍が街を巡回している最中で、その応援として葵と総一郎の二人が出ていた。
今のところ何も連絡はなく、魔物の被害者も魔物も見つかってはいない、琳の携帯に三日月からの連絡も何もない。
「とりあえずあたしたちは待機しとくか」
「そうですね……その方が良いかもしれません。変に人員を割いてもいざという時に動けなくなるかもしれませんし」
「二人は待機していてくれ。私は如月神社に出向く、琳、お前も来い」
「分かりました。あ、そうだ、三日月からの電話番号を書いておきます。もうかかってこないかもしれませんが念のため」
琳は三日月からかかってきた番号をメモしておいて、立花と共にイヴが封印されている如月神社へと向かった。
立花のスポーツカーに乗り、極東支部から如月神社までの車道を走っていたのだがやはり誰もいない、目につくのは大介が率いている軍の人間くらいだろうか。
「本当に誰もいないんだなー……ラボに籠ってたから分からなかった」
「それに大介さんの人たちもいますから余計に出てこないんでしょうね………」
「………妙だな」
「何がですか?」
「信号だよ。一回も赤信号に引っかからない」
「……? 別にいいじゃないですか、移動がスムーズになりますし」
「黄色信号にすら引っかからないんだぞ? それどころか横断歩道すら全部行く先行く先青信号だ、この辺りは交差点とか交通量が多いから信号の数も比例して多い、なのに一回もブレーキをかけることがないって変じゃないか?」
「まぁ………そう言われてみれば確かに………」
立花の言う通り、この辺りは交差点や交通量が多く信号や横断歩道も他のところよりはやや多めではある。
しかも今のところ信号に引っかかったりすることもなく道行く人もおらず、それどころか自分たち以外の通行車両もない。
もしかしたら誘われているのだろうかと立花は呟いた。
立花は神妙な面持ちでぶつぶつと自分の考えを呟きながら車を運転していき、結局結論の出ないまま二人は如月神社へと辿りつき車を止めた。
「住職、居るか?」
「いるぞ……はぁ、全く、何があった?」
「それを今調べている最中だ。イヴは?」
「変化はない、それに尋ねてくる人物もお前らが最初だ」
「ならいい、入るぞ」
琳と立花の二人は住職の後に次いで本堂の中へと入り、イヴの封印されている地下へと下っていった。
地下に降り、イヴにも琳にも特に変化は見られなかった。
正確に言えば琳には以前のような体のざわつきがあったことはあったのだがそれ以外には大した変化もなかった。
二人は早々に切り上げて立花は住職に十分に注意するように言い残して再びスポーツカーに乗り込んだ。
今度は早々に赤信号に捕まり、立花はブレーキをかけて車を停止線の前で止めた。
それがトリガーとなったのか、街にあるスピーカーや高層ビルに備え付けられた大型のモニターにノイズが走り、目の前の信号だけでなく全ての信号が赤色に変わった。
「っ!」
「何が………」
そしてビルの大型モニターにはとある映像が映った。
黄色い花が蕾から花びらへと変わるというもので、立花はそれを見てマリーゴールドの花だと推測した。
それから映像の変化はなく、数秒のタイムラグの後に音声が流れた。
『皆さん、こんにちは。私の名は……いえ、名乗るほどの者でもないので「エデン」と覚えてください。楽園という感じにエデンと当て字をしています』
その映像や音声が街中から流れると、それまで家の中にいた人間が窓やカーテンを開けたり家の外へ出てきたりした。
琳と立花の二人は全く予測の出来ないその映像の結末を見守っていた。
『そんなことはさておいて、皆さんに一つ覚えて欲しいことがあります。最近世間を賑わせ、数時間前ニュース番組に現れたあの謎の化物――――名を「魔物」と言います。あの生物は、通常兵器では太刀打ちできません。信じられないかもしれないのですが本当のことなのです。ですが………たった一つ、たった一つだけ、魔物を倒すことのできる方法があるのです。楽園ならばその方法を速やかに提供することが出来ると同時に、魔物を殲滅することが出来ます』
恐ろしい化物を殲滅することが出来る、たったそれだけの言葉で琳と立花以外の人たちがざわつき始めた。
気づけば一般市民に交じって交番勤務でもしていたのであろう警官の人たちも交じっていた。
『今は未だ、全てをお伝えすることは出来ません。私の存在は認知されていませんからね………ですがすでに警察上層部の方々にはお話はついておりますので、皆さんに連絡がいくのも時間の問題でしょう。ただ一つだけ覚えておいてほしいことがあります…………楽園は皆さんの、ひいては世界の味方となりますことをお約束いたしましょう。それでは、またいつか』
それを最後に映像は途切れた。
同時に人々は驚天動地、その場にいた警官たちに人々は質問を絶えずし続け、警官たちはパニック状態に陥っていた。
すると、もう一度モニターに映像が映し出され全員はモニターを凝視した。
『あー、あー、聞こえていますでしょうか? お伝えし忘れたことがあります。今、そこに止まってる男女の乗っているスポーツカー、その二人は楽園の為すことを妨げようとする者たちです。それだけをお伝えしようと思いました。それでは本当に失礼します』
瞬間、人々の視線が琳と立花に向けられた。
二人は本能的にやばいと感じ、立花はアクセルを思いっきり踏んだ。
制止する警官を無視して立花はスポーツカーを走らせたため、警官は他の場所へと連絡しようとしたが一般市民のパニックに阻まれて何も出来なかった。
「やばいことになってきましたね、どうするんですこれから」
「どうもこうも、一度遠くへ行くぞ。このまま帰ったら支部の場所がばれる! どっかいい場所知らないか?」
「いい場所って言ったって………あっ、思い当たるところが」
「よし、そこ行くぞ。道案内頼む」
「はい!」
立花はスポーツカーを走らせて琳の案内の元、とある場所へと向かった。
騒乱




