其の五十九『拉致』
前回のあらすじ:実年齢が人外
四人が集められたのはいつものラボラトリ、こんなに広い支部なのにいつもラボラトリ、画変わりが全くしないこの殺伐とした雰囲気の散らかったラボラトリで立花を含む面々はコーヒーを飲んでいた。
「………なんでこんなくつろいでるんですか」
「いやほら、色々と話すことが多いから」
「多いから………それで?」
「……ちょっとくつろごうぜ?」
「さいですか………」
琳も中々に立花と接することが多くなってきた、だから今なら分かる、立花はたまにアホになる。
よく分からない屁理屈にもなっていない完全に気分次第の理論に最初は突っ込んでいたが今となってはもうそんな気すら起こらなくなってきていた。
しかし涼はそんな琳とは逆に立花に本題を急かすようにした。
何故かはわからないが、きっと涼自身にもそうした理由はさほどないのだろう。
立花は「んじゃそうすっか」とあっさりと言ってコーヒーの入ったカップをテーブルに置いた。
「そうだな。どこから話したものか……と悩んでみたものの、大した情報もないんだよなぁこれが」
「あぁ? どういうことだ? あいつが情報持ってなかったってことか?」
「そうだ」
「そうだって………んなことあるかよ、楽園のメンバーなのは間違いないんだろ? だったら何かしらの情報を持っているべきだろ!」
「失礼ながら、私もそう思います。溝呂木十造のあの体は明らかに人間離れしていました、それには楽園に関する何かしらの事柄が絡んでいるのではないでしょうか?」
「それには同感だし、それについての情報は十分に得られた。ま、いいからよく聞けよ」
立花は数枚の紙をホッチキスで止めたものを四人に渡した。
そこにはびっしりと溝呂木から得られた情報とそれに関する考察が書かれていた。
その文章量はまるで小説の中の数ページと見間違えるほどだった。
明らかにコンピュータから出力されたフォントではないその文字群は誰が隠そう立花が手書きしたものだった、その全てが自分なりの考察を乗せた手書きの文章の塊をコピーしたものだった。
「順を追って話そう。まず、楽園は魔物をコントロール下に置くことが出来る。詳しい原理の説明は今は省く、各自その資料に乗っているところを見てくれ、なるべく分かりやすく書いたつもりだから分かりやすいとは思う。そんで次に楽園は体に直接狂化細胞を打ち込む技術を有している、これに関しては溝呂木には知る権利がないらしいがまだ分からんから保留にしている」
「凄いですね………こんなに細かく…………」
「立花は不真面目そうでかなーり真面目だからな、これくらいのことはするさ」
涼と琳が感心していると立花は「ちゃんと話聞けよ二人ともー、二回説明するの怠いんだから」と若干怒っていたのかもしれないがちょっとだけ褒められて嬉しそうだった気がした。
「それで三つ目だがこれが一番重要でな。楽園のリーダーは言わずもがな三日月小夜……なんだが、楽園のメンバー自体あいつと溝呂木しかいない上に、三日月が溝呂木に明かしている情報は全体のごくわずからしい。とどのつまり、溝呂木から得られる情報はそもそもが少ないってことだ」
立花は詳しいことが分かり次第また連絡すると言って一言「解散」と言った。
琳たちは資料を持ってラボラトリを後にして、立花はまだ説明していない残った第二陣のメンバーを招集させた。
エントランスに戻るとテレビではニュース番組が気になる話題を報道していた。
なんでも近頃、未確認の化物が進出するという噂が後を絶たず実際に目撃したものもいるという内容だった。
ニュース番組は生物学の専門家を呼んだり、その生物が写っているブレブレの写真を出したりと様々な考察をしていたが、琳たちから言わせてみればどれもこれも的外れなものだった。
本当に専門家なのであれば、報道されている謎の未確認生物―――――琳たちの言う「魔物」が現存する生物のカテゴリーに属さないどころかもはや生物の垣根を超えていることくらい分かるはずだ。
なのにも関わらず「この生物は前足がこうなっているのでこの生物の特徴が―――――」だのと偉そうにふんぞり返っている割には掠りもしないようなチープで安っぽい、その手のことに詳しい一般人でも分かるようなことしかやっていなかった。
「この番組、唯一惜しいのは写真の撮られた場所くらいですね」
「この前の溝呂木のとこか………ま、あたしたちが写っていないだけ十分ましだ」
「……そうですね」
結局ニュース番組では魔物の正体を専門機関での鑑定に委ねると言った風に終わらせて、撮影者や琳たちの事については全く触れなかった。
他のニュース番組やミステリー系の番組もいくつか見たがそのどれもが同じような内容だった。
庭園の守りからの帰り道、琳は一人で雪が降る中バス停でスマートフォンをいじりながらバスを待っていた。
その時、琳の肩がポンポンと叩かれ、琳は「はい?」と答えながら後ろを振り返った。
「や、おひさ」
「みかづ――――――!」
振り返った先に、三日月がいた。
琳が答える前に、三日月が何かをした。
何をしたのか、琳には分からなかったが、急速に自分の意識が途切れていくのが分かった。
目を閉じ、全身を脱力させて、琳は三日月に抱きしめられるように体を預けた。
そして三日月は琳をおぶって、どこかへと姿を消した。
その数分後。
「あっちゃー、もうバス行っちゃったっすか。先輩に忘れ物届けようと思ったんすけどねー……」
葵が琳に忘れ物を届けるためにバス停にやって来たが、すでにバスが去った後で葵は諦めて極東支部に引き返そうとした。
「おや?」
と、バス停の前の前に何やら落ちている真っ黒い物を発見して好奇心からかとことこと小走りで近づいていった。
「黒の武器だ………なんでこんなところに………ん? 裏に何かメモ……?」
葵はデバイスモードになっている持ち主不明の黒の武器の裏にマスキングテープでとめられたメモに気付き、音読した。
「えーっと……『香月琳君は攫った。危害を加えるつもりはないから安心してていいわ。三日月小夜』と………ふむふむなるほど、三日月小夜って確か楽園のリーダーっすよね。んでもって先輩がその人に攫われてしまったと………………………一大事だこれぇ!!!!!!!?」
葵はすぐさま支部に引き返して事の経緯を手当たり次第全員に話し、すぐさま緊急会議が取られた。
「ぅ…………んん…………」
「あ、起きた? 体の調子は大丈夫? どこか変なところない?」
「特には………ってうおわぁ!!?」
「んふ~! おはよ、香月琳君!」
起きたら目の前に三日月がいて驚く琳、それによっておぼろげだった意識がはっきりとなった。
体は縛られていて椅子に拘束されており、身動きが取れそうにない。
しかし、何よりも真っ先に驚いたのは今の自分の状態ではなく場所だった。
一面の液晶ディスプレイにホログラム、そのどれもが常に何かしらの映像を出力させており庭園の守りのラボラトリとは全く違った。こちらの方がサイバー感がある。
三日月は俺に顔を近づけながらニヤリと口角を上げて自信満々、それでいて誇らしげにこう言った。
「よぅこそぉー!! 楽園本部へ!!」
大きく手を広げて三日月は笑った。
こうして琳は、敵対組織のアジトに捕らえられていた。
三日月のテンションは常に振り切れてます




