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現実世界に魔物が現れたようです  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:ようこそ、世界の裏側へ!
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其の五『不審者』

前回のあらすじ:突撃、クラスメイトがお宅訪問。

 「ふわぁぁ~………ねむ……」



 琳は寝起きで気だるい体に鞭を入れてベッドから起き上がった、カーテンを開けてこれでもかというほどの朝日を体全体で浴びながら再びベッドに倒れ込みスマートフォンで時間を確認する。



 現在時刻午前八時半、琳はそのままゲームアプリのログインボーナスを取りながら段々と目を覚まさせていく。



 階段を下りて一階の茶の間へと降りていく、下では文乃がテレビを見ながら朝食をとっていた。



 「……おはよ」

 「あ、ちょっと琳! これ見てみ」

 「……ぁん?」



 寝起きで文乃に手招きされて見せられたのはとあるニュースだった、そしてそのニュースが琳の眠気を余韻に浸らせることなく一瞬で吹き飛ばし頭を活性化させた。



 テレビで流れていたのは如月神社がある山の奥地で男性四人の遺体が発見されたとのニュース、その中の一人は他の三人よりも遠く離れた場所で発見されどれにも大きな爪で抉られたような傷跡や何かに噛みつかれて口千切られたような跡が残っていたという。



 そしてその四人の遺体の顔写真が公開された。



 そこに映っていたのは紛れもなくあの時琳たちと挨拶を交わしたあの集団の人たちだった。



 ニュースでは熊に襲われたのだとして捜査を進めていると言っていた。



 「やーねー、あの神社すぐ近くだし、あんたも気を付けなさいよー」



 文乃はそう言いながら琳の朝食をテーブルに並べ始めた。

 だが琳は朝食なんかよりもそのニュースに釘付けになっていた。そりゃあそうだ、あの山奥で化物と会ったその日にあの四人は死んだ、しかも一人は「仲間が……」と言いながら逃げてきて琳たちに「逃げろ」と警告してくれた張本人だ。



 しかもその張本人が他の仲間から離れたところで見つかったことから考えると琳たちが逃げた後にあの化物に出くわして、逃げ切れなかったのだろう。



 琳はそのニュースから逃げるようにして顔を洗いに行き朝食を食べた。だがその朝はあまり食欲がわかずいつもの半分の量しか食べられなかった。



 今日は平日なので文乃は一時間くらいして仕事に行った、琳は一人になった家で夏休みの宿題をやり昼食を取ってまた宿題を一時間ほどやった。



 だが夏休みというのは一週間もすれば飽きてくるものであり録画した番組なんかも底をついてしまうものである。



 午後一時、琳は暇になり適当に近場まで散歩することにした。

 今日は涼しく風も吹いていたので外に出るには快適な気温だった。琳はスマートフォンと財布、肩掛けのリュックに家の鍵を入れて家を出た。勿論しっかり鍵を掛けてだ。



 琳が行くのは昔からよくお世話になっている古書店。元々文乃が読書好きということもあって琳も小さい頃から図書館に行ったりしてよく本を借りていた。

 家から古書店までの距離は徒歩で十分や十五分とその程度の距離しかない、琳は空から降ってくる大量の陽ざしをそよ風がかき消してくれているおかげであまり汗をかくことなく古書店に到着した。



 「……おや琳君、いらっしゃい」

 「こんにちは幸三さん」



 店の古びたドアを開けると店主である氷室ひむろ幸三こうぞうさんがにこやかに挨拶をしてくれた。



 幸三は琳が小さい頃からよくしてもらっている八十歳のおじいちゃんである。物腰が柔らかく誰にでも優しいのがこの店が今も営業している理由の一つだろう。



 「あー! りんにーちゃん! いらっしゃいませー!」

 「彩芽あやめちゃん、こんにちは」

 「こんにちはー!」



 幸三と話をしているとトコトコと奥から数冊の本を抱えながらやって来たのは幸三の孫の氷室ひむろ彩芽あやめちゃん。小学三年生の女の子で休みの日や夏休みなどはこうしてこの古書店の手伝いをしている、いつしか看板娘として地域の人に愛されている。



 琳にとっては妹のような存在で、たまに飴やお菓子などをあげたり遊んだりしている内にいつの間にか懐かれてしまった。

 今ではすっかり彩芽にも「おにいちゃん」と呼ばれてしまっているが、実際のところ悪い気はしていない。



 琳は本を数冊選ぶと会計をしてい貰うために幸三の方へと行こうとしたところで、琳の隣にぴったりとくっついて目を輝かせて仕事をする気満々の彩芽に気付いた。



 「……彩芽ちゃん、これお会計してもらえるかな?」

 「はーい! しょうしょうお待ちくださいませー!!」

 「ああほら、走ると危ないよー」

 「だいじょうぶー!」



 トコトコと可愛らしく本を抱えて走る姿はどことなく子犬の姿を彷彿とさせた。

 琳はそのまま幸三監修のもと無事計算を間違えることなく会計を済ませた。



 「またおいで、琳君」

 「ばいばーい! りんおにいちゃん!」

 「またね、彩芽ちゃん。幸三さんも」



 琳は古書店を後にしてその後をどうするか適当にぶらぶらしながら考えることにした、琳は自販機でお茶を買って一口含み喉を潤す。

 平日ということであまり人はおらず、夏休みの宿題という魔物に追われているのか学生もそこまで見ない。そのかわり小学生が自転車を走らせて集団でどこかへと向かっているのがちらほら目撃できた。









 当てもなく歩いているとふと背後に人の視線を感じた、琳は振り返って確認するが特に人影は確認できずあるのはコンビニや電柱くらいなものだった。

 気のせいだったのかなと思いながら琳は足を進める、だがそれでもまだどことなく視線を感じる。



 そしてそこで琳はふと思った。



 「(電柱に人隠れてるとかってよくある話だよなー………)」



 そんなわけないか。

 琳はただの興味程度でもう一度後ろを振り返るとそこには夏なのにもかかわらず黒いズボンに黒いバーカーを着てサングラスとマスクをつけている人物がちょうど琳の後ろの延長線上に立っていた。



 その「我こそは不審者!」と言わんばかりの格好をしている謎の人物は琳が振り返ったのに慌てて急いで電柱まで戻ってそこから顔を除かせている。



 「えぇ………」



 流石にこの事態は琳も想定外である。



 琳は再び歩き出すとその黒ずくめの人物も同じく歩き始めた。琳が止まれば同じく止まるし、琳が歩けば同じく歩く。そして後ろを振り向こうものなら自分も振り向くというアホみたいな行動を取っている。



 琳はお茶を一口飲んでリュックに入れ、簡単なストレッチをした。







 そしてクラウチングスタートの体勢を取って一気に走り始めた。



 「んぁあくそ! 待ててめぇ!」



 案の定後ろからはさっきの不審者が追いかけてきた、しかもおっかない声を上げて「待ちやがれ」と頼んでいる。



 走りながら琳は思った、「こいつは何がしたいんだ」と。

 だが意外にも不審者の足は速く琳といい勝負をしている。




 二人は昼下がりの街を走り回り、軽く二キロは走っただろうという頃、不審者の方が赤の横断歩道のところへ周りを見ずに走ってきたところで転んだ。

 そして向こうからは車が不審者に突っ込もうかとしている、不審者はそれに気づいていなかったが琳はそれに気づき一か八かその不審者の腕を掴んだグイッと引き寄せた。



 寸でのところで救出に成功し、車はクラクションを鳴らしながらそのまま走り去っていった。



 「ちょ、何やってんですか危ない!」

 「わ、わりぃ……助かったわ……」



 二人とも体力の消耗が激しく、ゼェハァゼェハァと息を乱していた。



 「つーかお前はっやい、も少しスピード落とせや……あっつい」

 「そりゃその格好じゃあなぁ……って、そんな場合じゃねえよ」

 「なぁ……とりあえずどっか公園行かねぇか? 休みたい」



 不審者はサングラスとマスクさらにはパーカーのフードも取った。



 「え……女……?」



 その顔、その声、まさしく女性のものだった。



 「あぁ? そうだよ、なんか悪いか?」



 目つきの悪い不審者のその女性はパタパタと手で仰ぎながら琳の方を睨み付けていた。

目つき悪いヤンキー系不審者

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