其の四十四『慟哭』
前回のあらすじ:溝呂木は脱いだら凄い(異形的な意味で)
煙が晴れ、上半身が裸の状態で現れたの溝呂木の姿はあまりにも人間離れしていてあまりにもグロテスクな姿だった。
腹筋の割れた胴体には魔物の顔や悲痛な叫びを上げ続けているような人間の顔がそれぞれ一個の心臓のようにドクンドクンと鼓動して、体表には血管が浮き出ていて躍動している。
今までの紳士のような雰囲気とは大違いで、まるで地獄から舞い戻ってきたかのような、そんな異形の体だった。
「なんだよ……それ」
「ははは、いやいや、昔ちょっと色々あっただけですよ。言うなれば若気の至りですかね」
軽く笑いながら琳の疑問の言葉をあっさりと流してしまう溝呂木、無論この場で笑っていられるのは溝呂でだけで他のメンバーは呆気に取られながらまじまじと溝呂木の体を見ていた。
そんな思考の中、驚いている場合ではないと気づき全員は各々現実に戻り驚いている場合ではないと我に返った。
「さて、そろそろ私も本気を出させてもらいますのでそのつもりで」
「狙いは変わらず俺か?」
「愚問を。それよりもそちらのお嬢さんなのですが」
「……私か?」
「えぇ、先ほどからどうも記憶に引っかかるのですよ。もしかしたらどこかで会ったことありませんか?」
「頑張って思い出したらどうだ、溝呂木十造」
いつもとは違い敵意を前面に押し出したような喋り方をするセラスに溝呂木はしばし考えた後何かを思い出したか何か推測出来たか分からないが、そんな感じの表情を取った。
「その怒り………殺意ですか」
「だったらなんですか」
「………あぁ思い出しました。確かあの時、欧州支部を襲撃した時に私が見逃したあの小さい子供――――」
そこまで溝呂木が話したところで、セラスは琳の隣から離れて溝呂木に向かってメインウェポンを携えて怒りをあらわにしながら殴りかかっていく。
溝呂木はセラスが振るった拳を片手で受け止め、もう一方の手で次の攻撃を止め両社は拮抗状態へともつれ込んだ。
「やはり図星でしたか」
「お前………お前が両親を目の前で殺したあの時の光景を私は一度たりとも忘れたことはなかった!!」
「申し訳ありませんが、仕事なので」
「お前の事情など知ったことかぁ!! 殺す、お前は今ここで殺す!! 私を思い出したお前を、必ず!」
「マグノリアさん!」
すぐに琳はセラスを救うべく溝呂木のもとへと向かったがセラスは振り返らずに「来ないでください!」と叫んだ。
琳はその言葉に思わず足を止めてしまった。
「どうして!」
「これは……私がやらなきゃいけないことなんです」
「だからって単騎は無理だ、セラス」
至極当然のことを涼が言うもセラスは「それでもです」とまるで聞く耳を持たない、それどころか余計に溝呂木にかける力が強まっていく。
一方で溝呂木は黙って話が終わるのを待ってくれてはいるがこの至近距離、セラスが攻撃を受ければかなりの物になるだろうと予想される。
そしてその予想をみすみす許す琳たちではない、すぐさま千鶴は溝呂木にライフルの照準を合わせて引き金に指をかけ発砲する。
弾丸は一直線に溝呂木に向けて飛んでいき、溝呂木の左肩を貫く―――――。
――――はずだった。
「………」
「おやおや、そんな敵意むき出しの攻撃、そちらを向かなくても対処出来てしまいますよ?」
溝呂木の両手は完全に塞がっていた、にもかかわらず弾丸は溝呂木の肩を貫くことはなくその前で止まった。
その理由は、胸の魔物の顔がひとりでに蠢き、溝呂木の体からろくろ首の首のように長く伸びて弾丸を歯で受け止めたからだ。
だが千鶴は慌てることなく次段を装填、そして涼と葵はセラスを救出するために溝呂木のもとへと走ったが今度は人の顔がまたしても飛び出て今度は人の形を作った。
しかしそれはあまりにも不定形で、ドロドロと全身の肉が腐敗しておりそれはそれはあまりにも見るに堪えない悲惨な姿だった。
「おいおい………なんだそりゃあ………」
「……うっ………」
「葵、大丈夫か?」
「は、はい………」
「無理すんな、あたしだってやっとだ」
あまりにグロテスクなその姿に葵は思わず吐き気を催してその場にうずくまってえずいてしまう、涼は葵の心配をしたがドロドロに腐敗した人間たちは奇妙な悲鳴にも似た雄叫びを上げて二人に向けて突撃してくる、涼は戦闘態勢に入ったが視覚外から総一郎がレーザーを撃ってそれらを消し飛ばした。
眼前に敵がいなくなった涼と復活した葵は再び溝呂木のもとへと歩を進めた、肉壁が居なくなったと分かるや否や溝呂木はセラスとの拮抗状態を終わらせてセラスの腹部を蹴りつけ吹き飛ばした。
セラスは「ぐっ……」と苦悶の表情をしながら呻き声を漏らしたが体勢をすぐに立て直して再び溝呂木に向かう、だが背後から立花に貰った補助兵装であるブースターを起動させた琳が抱きかかえるような形で一度セラスを戦線から離脱させた。
「離してください香月君!」
「ダメだ、今行ったら無駄死にするだけ」
「だって――――」
「だっても何もない! パートナーが目の前で死ぬのは……友達が死ぬのは見たくないんです!」
「………!」
それっきり、セラスは押し黙ってしまい抵抗もしなくなった。
琳は千鶴にセラスのことを預けて自分も涼と葵と共に溝呂木と戦った。
本気を出してきた溝呂木は先ほどまでとは違って火力特化の戦い方をして、その一撃一撃が重たい。
その上葵のハンマーを受け止めることが出来るほどの防御力を兼ね備えているが、胸の顔が減ってからその防御力が若干減っているような気がする。
その感触を確かに涼・葵・琳の三人は感じ取りやるなら今しかないと集中力を高め息の合った連係を見せる。
「………この辺りですか」
「あぁ? なんか言ったか?」
溝呂木はポツリと呟き、先ほどまで攻撃だった戦闘スタイルから打って変わって琳たちの攻撃を受け流していなしながら距離を取り始めた。
その行動に琳たちは顔をしかめながらも追撃はしなかった、何か罠があるのかも知れないと思ったからだ。
「名残惜しいですが、私はこの辺りで逃げかえるとします」
「……なんだ突然、琳のこと諦めたのか?」
「ご冗談を、諦めるわけがないじゃないですか。ただボスから言われてるんですよ、あまり長引くようだったら撤退しろってね」
「ボス……?」
「お会いしたことありますでしょう? 三日月です、三日月小夜」
「あいつが……!?」
「そう言えば香月様の家に一度お邪魔したと聞きました、その節はどうも」
いつの間にか呼び方が「様」に戻っている溝呂木のその背後に溝呂木が乗ってきたのと同じ軍用ヘリがバラバラとプロペラを回転させながらガトリング砲の照準をこちらに向けながらホバリングしていた。
「逃がさない!」
「セラス! 止まれ!」
その瞬間、大人しくしていたセラスが再び動き出し溝呂木が離脱する前に一矢報いようとガントレットを装着し直して、ブースターを起動させて、制止する声も無視して一直線に向かった。
「しつこいですね……」
呆れた様子で溝呂木はもう二つの顔を体から切り離して、二人の不定形の人間を作り上げた。
そしてそれを見た途端、セラスの足は止まり棒立ちになった。
琳はセラスの異変に気付き、一度溝呂木の方をちらりと見てから少々迷ったものの、ブースターを起動させてセラスの側に向かった。
「マグノリアさん、どうしたの?」
「………嘘」
「マグノリアさん………?」
「パパ…………ママ…………!」
そして―――――
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
セラスはその場でうずくまって、頭を抱え、泣きながら悲鳴を上げた。
かと思えば途端に静かになって気を失ってしまった。
「マグノリアさん!!」
琳が呼びかけるも、セラスは涙を流しながら気絶している。
その間に溝呂木はヘリへ高く跳躍したかと思うと、なんと余裕でヘリの高さまで到達してしまった。
「千鶴、総一郎! 打ち落とせ」
「了解」
「はい!」
二人が一斉射するもすでにヘリが動き出した後で、千鶴のライフルでは火力不足、総一郎のキャノンでは弾速とリロードの遅さで打ち落とすまでにはいかなかった。
やがてヘリの姿が見えなくなると、その場は琳たちと二体の不定形の人間だけとなり涼と葵がその二体を殲滅して本当に琳たちだけになってしまった。
琳は気を失っているセラスを抱き上げて、全員は一か所に集合しそれから大介がやって来た。
「どうだった……って、聞くまでもないわね」
「くそ………逃がした」
「ひとまずお疲れ様、ヘリを呼ぶから帰りなさい。後処理はこっちでやっておくから」
辺りを見渡せば戦いの痕跡が地面に残り、主にキャノンの着弾による爆発でボコボコになった学校の敷地があった。
幸いなことに学校自体に影響はなかったため休校になることはないだろう。
琳たちは迎えのヘリに乗り込み、やりきれない思いを胸に抱えたまま庭園の守り手へと帰還した。
ヘリの中での会話はなく、ただプロペラが空を切る音がやけに五月蠅く響いているだけだった。
セラスに深刻なダメージ




