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現実世界に魔物が現れたようです  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:ようこそ、世界の裏側へ!
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其の十七『微笑《ほほえみ》』

前回のあらすじ:初戦闘・初勝利

 「おっ! 三人ともお疲れ様」



 テナントビルの地下にある庭園の守り手(ガーデンキーパー)極東支部。琳は初陣を終えて涼と千鶴と共に帰って来ていた、エントランスでは毎度の如く翔馬がスーツ姿でにこやかにイケメンスマイルで出迎えてくれている。



 「翔馬さん、葵は?」

 「寝てるよ、最初の琳君みたいに別室で。女の子相手にやるのは心苦しかったけど、一般人にはあまり見せていいものでもないしね。気絶してもらってる」

 「うっわ翔馬お前……」

 「ちょっ、違うよ!? 僕だってあまり気は進まなかったって!」

 「翔馬さん……あの子なら言うこと聞いてくれてたと思いますし直接睡眠薬とか飲ませた方が良かったんじゃないんですか? 目が覚めたら殺風景な鉄製の部屋とか普通なら吐きますよ?」

 「栞ちゃんまで! しょうがないだろ、そんなの持ってなかったんだから」



 女性二人に責められて意気消沈している翔馬など知ったことではないと、千鶴は「迎えに行ってくる」と短く琳に告げて扉の先へと消えていった。



 恐らく葵のことを迎えに行ってくれたのだろう。



 しばらくすると、あの時の琳と同じように千鶴に手を引っ張られて葵がエントランスまで連れてこられていた。葵は目をぱちくりさせながら自分の身に起こっているこの事象を上手く整理できず混乱しているような表情を浮かべていた。


 葵はフラフラと風邪を引いている時のようにおぼろげな思考回路の中、この人員の中で最も親しい人間である琳を見つけると先ほどとは打って変わって明るい表情を見せた。



 「先輩!!」

 「おーっす」

 「おーっすじゃないですよ! 心配したんですからねこれでも一応は!」

 「悪かったって」

 「仲いいなぁお前ら」



 琳に抱き着く勢いで向かってきた葵は若干涙目になりながら琳に縋りつく、涼は二人をまるで親戚のようにケラケラと茶化しながら見守っていた。

 




 それから葵が落ち着くまでしばし待った後、琳と同様椅子に座らされてここ庭園の守り手(ガーデンキーパー)についての説明を受けるという抗議の時間が訪れた。



 葵はオレンジジュースをストローで飲みながら何が始まるんだろうと、プラネタリウムに初めてきた小さい子供のようにワクワクしながら待っている。

 実際ホログラムを映し出す機械はプラネタリウムのアレと似ているので気持ちは分からなくもない、翔馬は葵に準備はいいかと確認を取ると栞に合図を出してホログラムを映し出した。



 「うわっ! ………けほっけほっ!」

 「あぁごめん! 大丈夫?」

 「だ、大丈夫っす……ジュースが変なとこに入っ………けほっ」



 いきなり飛び出してきたホログラムの魔物に驚きオレンジジュースが気管に入って咽てしまった葵をやってしまったという感じで心配する翔馬、端的に言ってグダグダである。



 再び葵が落ち着くのを待ってから説明を再開した翔馬。

 二回目で尚且つ琳にガチギレされたとあってか翔馬の説明は琳の時よりもスムーズで要点をしっかりと言いながら進められていたが、葵の顔はどっからどうみても理解できていない顔だった。



 このままでは寝てしまうんじゃないかというほどにポカーンとしている葵の様子を見かねて琳が手助けをしようかと思ったが、千鶴がそれを制止して「私が行く」と何故か自信ありげに宣言していった。



 千鶴はソファーーに腰かけていた三人を代表してこっそりと気づかれないように葵の背後へと回り込み、首筋辺りに顔を忍ばせた。



 「大丈夫?」

 「ひゃいっ!?」



 葵は悪さがばれてびっくりした子供のようにビクッと体を跳ね上がらせた。



 「あ、ごめん……驚かせちゃった、よね?」

 「いいいいいえいえいえいえ! 大丈夫っす!」

 「そ、なら良かった」





 そこで千鶴はふんわりと優しく「微笑んだ」。






 その微笑はまるで可憐な天使のようでもあり、全てを包み込む聖母のような、そんな笑みだった。





 千鶴が笑みを浮かべる。

 それだけの、たったそれだけの事がエントランスにいる琳たち全員の時を止めた。




 あの謎に包まれた雨宮千鶴という一人の女性が笑うということはそれだけで新聞の全面トップを飾れるくらいに琳たちの認識では珍しいことなのだ。


 


 それを一番近くで見た葵は一体どうなっているのか、それは想像に難くない。



 「…………」



 葵はただ黙って見惚れていたのだ、千鶴のその微笑に。



 「……? どうしたの?」

 「…………」

 「一之瀬さん……?」

 「雨宮さんこれダメです、心ここにあらずってやつです」

 「私何かしたのかな?」

 「いえ、雨宮さんは何も悪くないんです。俺たちが耐えられなかっただけなんです」

 「どういうこと?」

 「気にしないでください、独り言みたいなものですので」

 「そう……」



 完全に放心状態となってしまった葵の今の様子ではたとえ翔馬が説明を続けても一切何も入ってはこない、そして千鶴は変に真面目なところがあるのか葵の姿を見かねてなんと自分が教えると言い出した。



 千鶴は葵を自分の部屋に連れて行き、小一時間ほどしてまた戻ってきた。



 「先輩……」

 「お、おう。どうした……?」

 「私、頑張るっす! みんなと一緒に戦ってみるっす!」

 「ちょっと待て、展開が急すぎる」

 「千鶴、お前どこまで話したんだ?」

 「香月君に説明したことをなるべく短く分かりやすいように」

 「そうか……」

 「あ、でもまだ細胞移植したわけじゃないし黒の武器(ブラックウェポン)も渡してないから本当に説明だけ」

 「それなのに葵はあんなにやる気出てるのか」



 戻ってくるなり戦うと宣言しだした葵をなだめる、もとい何があったのか聞きだそうとする琳。涼はその背後で千鶴に何を吹き込んだのかとひそひそ話していた。



 「決意が固いのは嬉しいが、詳しいことはまた今度だな。今日はもう遅いしお帰りの時間だな。返して大丈夫なんだったっけ栞?」

 「ええ問題ありませんよ。一之瀬さんのお母さんにはお先に帰っていただきましたのでここでの情報は知られていません。一之瀬さんがお話にならなければですが」

 「大丈夫っす! これでも口は堅い方っすから! ね、先輩!」

 「………はっ」

 「今鼻で笑いましたよね!? 雨宮先輩! 鼻で笑われたっす!」

 「香月君、めっ」

 「いやそんな真顔で言われても」

 「ほら行くぞお前ら、葵はサイドカー乗ってけな」



 涼は二人を連れてバイクを止めてあるところへと移動しようとしたその時、千鶴が琳を呼び止めた。涼と葵は先に行ってると言い、琳を千鶴のとこへと置いていった。



 「どうしたの?」

 「今日はお疲れ様」

 「ありがとう雨宮さん」

 「千鶴」

 「へ?」

 「雨宮さんじゃなくて、千鶴って呼んで。私も、琳君って呼ぶから」

 「………うん。分かった、千鶴」

 「ん、琳君」

 「じゃあまた」

 「あ、待って」



 琳が涼と葵のもとへと去ろうとしたとき、千鶴が琳の服の袖を掴んだ。




 琳がそちらを振り向くと、




 その瞬間、千鶴は琳の頬にキスをした。




 不意打ちに琳はすぐに理解できず、数秒遅れてようやく自分が何されたのかを理解し顔を真っ赤にさせた。千鶴はそんな琳とは真逆にいつもと変わらない凛とした表情を崩していない。



 「なっ………!? なななななななんですか急に!?」

 「……ご褒美?」

 「ご褒美って……」

 「立花に聞いたら、キスでもしてやればいいんじゃないかって言ってたから」

 「そ、そう……」

 「嫌だった?」

 「ぜ、全然! むしろ嬉しいっていうか……って何言ってんだろ!」

 「良かった、琳君に喜んでもらえて」



 自分の発言がだいぶおかしいことに琳は恥ずかしくなりさらに顔が赤くなって焦るが、千鶴の反応はむしろ好感触だった。



 千鶴は、優しい微笑みを琳に対して浮かべ自分のキスが喜んでもらえたことを喜んだ。



 琳はその笑顔を見てどこか心が洗われた気がしたのと同時に一周回って冷静を取り戻していった。






 その後千鶴とさよならを交換した琳は涼に送ってもらい無事家に届けられた。





 その日の夜、琳がいい夢を見て熟睡したのは言うまでもない。

クーデレは良い文化ですね。

まだ完全にデレているわけではありませんが……

総一郎の出番はもうすぐですのでしばしお待ちを。

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