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現実世界に魔物が現れたようです  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:ようこそ、世界の裏側へ!
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其の十『無防備』

前回のあらすじ:説明回

 次の日の朝、琳はカーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚めた。時間を確認するとまだ七時半にもなっていない、いつもより早く目が覚めてしまったようだ。



 琳は寝ぼけ眼のまま階段を降りて洗面台に行き顔を洗って茶の間へと向かった、昨日と同じくして文乃がテレビを見ながら朝食を取っており琳に気付くと文乃は琳の分の朝食を準備した。



 いつもと同じように朝食を食べいつものように文乃が仕事に行って琳は自室に戻ってベッドの上に寝転がって今日はどうしようかとぼーっとしながら今日の予定を考えていた。



 「いやいや考えなくていいじゃねえか」



 琳は体を起こして着替え、スマホの画面をタップしてどこかへと電話を繋げる。



 プルルルルルル………プルルルルルル…………



 『はーいもしもしー、どちら様ー?』

 「おはようございます、朝比奈さん」

 『……その声は琳か、もう暇になったのか? ちゃんと宿題やったか?』

 「宿題なんてとっくに終わってます」

 『お前優等生かよ!? ……まいいや、んじゃあ三十分くらいしたらそっち行くから』

 「分かりました、待ってます」



 ブツッ………ツーツー………



 電話が切れ、琳は寝癖を直したり歯磨きしたりトイレしたりと涼が来る前に一通りの準備は済ませておいた、勿論スマホの充電とログインボーナスの確保も。

 それから三十分と少しが経って琳一人だけの家の中にインターホンの音が鳴り渡った、玄関の向こうからは琳の名前を呼ぶ声が聞こえた。



 ドタドタドタ………ガララララ……



 「おう、おはよ」

 「おはようございます」

 「準備できてんならもう行くけど、どうする?」

 「こっちは大丈夫ですよ」



 琳はそう言いながら玄関に鍵を掛けて二回ほどガチャガチャと左右に戸を動かして鍵がかかっていることを確認した。涼はヘルメットを一つ琳に渡して後ろに乗るように指示し琳は昨日と同じく涼の後ろに乗って腹部に腕を回してしっかりと掴まった。



 涼はバイクのエンジンをかけてあの謎の場所へと向かった。




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△




 琳はその日、昨日連れてこられたあの建物を初めて外から見ることが出来た。



 その建物はただのテナントビルだった、どこにでもあるような縦長のシンプルでありふれたデザインのもので街中の風景と完全に一致しており何の違和感も無かった。



 恐らく普通にそこを通っただけではここがあんな秘密基地みたいな場所だとは誰も気づかないどころか考えもしないだろう。



 涼はそのビルの駐輪場にバイクを止めて拳銃の入ったホルスターを二つとも取り外してビルの中へと琳を連れて入っていった。涼は迷うことなくエレベーターに向かって階数ボタンを押さずにドアを閉めた。



 そして真っ黒い板を階数を表示するパネルのところにかざすと「ピロン」という小気味良い電子音が鳴り、本来あるはずのない地下へと下がっていった。

 琳は何処にも地下を表すボタンがないのにもかかわらず下へと下がっていくエレベーターに恐怖心を覚え若干の混乱状態になった。



 「落ち着けって、別にワイヤー切れたわけでもねぇし」

 「いやだって……」

 「なんで下ってんのかって言いたいんだろ? 答えはだな――――」



 そしてエレベーターが止まりドアが開いた。



 「――――こういうこと、だ」




 眼前に広がっていたのは昨日琳が連れてこられたあのエントランスのようなところで、受付のようなところには栞が何やらキーボードを忙しなく打ちながらパソコンの画面とにらめっこをしていた。



 「おっす栞ー」



 栞はキーボードを叩く手を加速させて一気に打ち込み最後のキーを「タァン……」という音を出してフィニッシュさせ、ハイバックチェアをこちらへとくるりと向いた。



 「おはようござます、朝比奈さん、香月さん」

 「おはようございます。えと……来栖さん、でしたっけ」

 「そうです、覚えてていただけてたようで良かったです」



 琳は栞と会釈し合い涼はその様子を「なにやってんだよ」とケラケラ笑っていた、そこへ他のドアが開き翔馬も加わった。



 「あ、おはよう」

 「おう翔馬、千鶴はどうした?」

 「あれ? 来てないの? んー……まだ寝てるんじゃないかな? 琳君、ちょっと彼女の部屋まで様子を確認してきてくれるかな。あのドアから行った先の突き当りを右に部屋があるから――――」

 「いやいやいやいや、なんで俺なんですか。雨宮さんの部屋なら同じ女性の朝比奈さんとか来栖さんとかの方がいいんじゃ……」

 「あたしらこれでもいそがしいからなーいまうごけるのはりんだけかもなー」

 「心なしか棒読みのような気がするんですけど………



 涼は全く音のなっていない下手くそな口笛を吹いてなんのことやらとそっぽを向いた、琳はため息を吐きながら了承して翔馬が指さした扉の方へ行くとその隣にはタッチパネルらしきものがあり扉自体は押しても引いてもびくともしない。



 そこへ翔馬が「悪い悪い!」とこちらへと駆けてきて琳に真っ黒い板状のものを渡した、涼がエレベーターにかざしたものと同じものだった。



 翔馬は「それを使えば大体の扉は開くから」と楽観的に言った、琳はその言葉を信じて扉の隣にあるパネルにそれをかざすと扉は「ウィーン」といって開いた。



 扉から続く無機質な廊下はあのテナントビルからは想像もつかないほど長く、壁には他の部屋に通ずる扉があるくらいで他には照明が上から照らしている程度だった。

 やがて琳は廊下の突き当りに差し掛かり翔馬が言っていた右の部屋を見るとそこには可愛らしい字体で「あまみやちづる」と書かれていた。



 「ここ……か?」



 その部屋には先ほどと同じくパネルがあったため琳は黒い板をかざす、すると扉が自動的に開き手前に引くと中に入れるようになった。



 「し、失礼しまーす……」



 部屋の中は電気が付いていなくて真っ暗だったため琳は一度部屋の電気をつけるためスイッチを探すと扉のすぐ近くに壁にスイッチが取り付けてあったためそれをパチンとつけると部屋の電気が付いた。




 そして一番最初に琳の目に留まったのは、ベッドに布団もかけずにワイシャツ姿で寝ている千鶴の姿だった。




 琳はそれを見た瞬間物凄い速度で部屋の外に出て扉にもたれかかって高鳴る鼓動を落ち着かせようとした、まさかあんな格好でいるとは思っていなかった。



 琳はある程度呼吸を落ち着けてからもう一度千鶴の部屋の中に入り、勇気を出して千鶴に声をかけた。



 「あ、雨宮さ~ん?」

 「んぅ……………? こう、づき……くん?」

 「はい、香月です」



 琳は滅多にお目にかかれないだろう千鶴の無防備な姿を見て頭の中が「なにこの人くっそ可愛い」で一杯になったがどうにかして考えを払拭して再び声をかけた。



 「どう、して、香月、君がいるの?」

 「朝比奈さんたちから起こしてくるように言われて……」



 千鶴はそれを聞いてちょいちょいと手招きをして琳を自分の方へと寄せる、そしてそのまま自分のベッドの中に琳を無理やり引きずり込み抱き枕よろしく抱き着かれた。



 「――――――――っ!!!?」

 「二度寝するって、いって、おいて……」

 「いやこのままじゃ言いに戻れないしそもそもこれって結構まずいんじゃないですかね!? 主に俺が、社会的に死ぬ恐れがあるのですがぁ!?」

 「大丈夫、香月君はもうここに永久就職決定してる……から……」

 「何言ってるのかわかんないけど離してもらってもいいかな!? 色々ともうやばいんだけど!」

 「………すぅ」

 「ちょ、ちょっと待ってマジで寝ないで雨宮さん! 雨宮さん!?」




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△




 「色々と大丈夫かなぁ琳君」

 「あー? あいつは大丈夫だろ、なんだかんだでちゃんと紳士してると思うぞ」

 「随分と仲良くなってるじゃないの、朝比奈」

 「そうか? こんなもんだろ。てか戻ってこねえな」

 「千鶴ちゃんのことだから」

 「ま、気長に待つか」



 翔馬と涼がコーヒーを飲みながら琳の帰りを待っていると、琳が千鶴をお姫様抱っこしながら扉の向こうからやって来た。相も変わらずワイシャツ一枚しか着ていない千鶴は琳に抱っこされながらもすやすやと寝ていた。



 「お、お待たせしました」

 「おう……なんか、色々とお疲れ」

 「……………すぅ」



 依然として気持ちよく寝ている千鶴を涼に預けて琳はソファーーに座り全身の疲れを放出させた。そしてそこへ翔馬が湯気の立っているコーヒーを出してくれた。



 「……お疲れ、よく頑張った。流石にあれは俺も予想してなかった」

 「自制心には……定評あるんで……」



 その後涼がきちんと千鶴を着替えさせて目覚めさせ、琳に昨日の抗議の続きが行われたのはそれから一時間ほど経った頃だった。

女の子がワイシャツだけの姿なんてのは、現実ではあまりないですよね

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