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其の九十七『月落とし』

前回のあらすじ:解読・絶望

 「つまり、この街の外にいる魔物が吸収されれば吸収されるほどアダムっつーのが偽月から出てくるのが早いってことだろ? んで、琳の話によりゃあと一時間くらいでヒビ入るってことはもうだいぶ栄養分がアダムに吸収されてるってことか」

 「ああ。外の魔物たちをどうにかしてやりたいところだが数が多すぎる。それに今からじゃどうにかしようもない」

 「んじゃあ遅延するしかないな、私が思うに琳の千里眼はイフの、もしもの世界線の未来を見れていない気がするんだ。多分このまま何もしなければ六時間後にアダムが放出されるが、何か手を打てばもしかしたらその未来は変わるかもしれない」



 もちろん立花のただの推測だし、琳自身千里眼がそんな制約条件の下で発動しているなんて思ってもいない。

 だがもし、立花の予想があっているのであればアダムの出現を遅らせることが可能になるかもしれない。

 しかしその不確定な要素に頼るのは些か危険な賭けのため、ひとまずは六時間後にアダムが活動を始めると仮定を立てて作戦を練り始めた。



 結論から先に言うと、作戦はアダムが完全覚醒する前に偽月を破壊してしまうことを主軸にしたものとなった。

 アダムがいわば赤ん坊で、偽月が子宮、そして魔物たちが栄養分たる羊水にそれぞれ例えて考えると分かりやすいだろう、ようは子宮たる偽月の中で赤ん坊たるアダムが魔物と言う羊水を栄養分に育っているのなら偽月を破壊して栄養分を行き届かなくさせればアダムが活動をしたとしても完全な状態ではないはずだ。



 出来る限り完全な状態のアダムと戦うのは避けた方が良いというのが総意だった。

 一体どれほどの戦力を持っているのかもわからないのにさらに触れるだけで人を人ならざる者に変えてしまうほどの能力、文字通り未知数の力を持っている敵に一切の情報なしに挑むのは愚策以外の何物でもない。



 「じゃあ次はどうやって偽月を破壊するかだが……」

 「キャノンで一斉砲火ってのはダメなのか?」

 「いや、大いにアリだ。でも念のために実弾兵器でも傷をつけられるかどうか確認しといた方が良いだろ」

 「なんで?」

 「万が一、民間人も戦わなくちゃいけない時に戦える武器が黒の武器(ブラックウェポン)だけってのはまずいだろ? もし実弾とかで偽月に傷をつけられるんだったら、まだ自分たちも抵抗できるっつー一つの救いにはなる。何もしないで死ぬことよりはきっとマシだろうよ」

 「なるほどな」

 「よし、じゃあ私は大介に軍の協力を仰げないか話を付けてくる」



 立花は黒の武器(ブラックウェポン)をデバイスモードに変えて大介に繋げた、手早くかつ要点をかいつまんで連絡した。

 大介は立花の話に納得してくれたようだったがこの異常事態に緊急要請をしようにも半日以上かかるらしくおまけに電波障害や魔物によって街が覆われているため応援を呼ぶのはほぼ不可能だという。

 しかしまだ望みはある、庭園の守り手(ガーデンキーパー)極東支部の武器庫、そこには大量の武器がまだ残っているはずだと大介は言った。




 すっかり武器庫の存在を忘れていた立花はその場で「ああ~」というその手があったかといった声を上げ、涼にも連絡して琳たちに伝えるように言った。




 「文乃、一人で大丈夫か?」

 「ん? 大丈夫大丈夫、そう簡単には死なねーよ」

 「そうか、それなら―――――」

 「それよりも立花」

 「―――――なんだ?」

 「うちの息子、頼んだぞ」

 「ああ。勿論だ」




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△




 「こな………くそっ……………これでっ!」



 極東支部、武器庫。

 電子制御によって武器がロックされていたためロックされていた手動で、もとい力づくで武器のロックを解除しなければならない現状。

 立花は歯を食いしばって武器のロックをこじ開けていた。



 「どーれーにしーよーかーな……っと、こいつでとりあえず試してみるか」



 立花がチョイスしたのは対物ライフル、だがその実立花が色々と若気の至りで改造を施したセミオート式のハイブリッドアンチマテリアルライフルだった。

 弾速や威力も強化されているがその分反動がアホみたいなものになっており、一般人が打てば半身が反動で痺れて動かすことすらが一定時間困難になるほどだった。

 かつて大介がこのライフルをまだ開化細胞を打ち込んでいない頃に試しに撃って見たところ、反動で右半身が痺れ目がチカチカして肩の関節が外れてさらにほぼ骨折に近いひびが入るという事件になった代物。



 当時の大介曰く、「あんなの(ライフル)の形した(カノン)よ、人が使っていいもんじゃないわね」らしくとても人の手には余る兵器だった。


 

 しかしそれはあくまで人間が撃った場合の話、開化細胞によって人間離れしたステータスを持つ立花ならばそれを難なく撃つことが出来る。

 立花はテナントビルの屋上に上って、寝そべってライフルを垂直に構えた。

 スコープ越しに金色の器に入れられたアダムの姿が見え、立花は千里眼の視界ってこんな感じなのかなと考えながら弾を装填していた。

 イヤーマフを付けて、深く息を吸って吐き、狙いを偽月に定めた。




 引き金を引くと、「ドゴン!!」という明らかに銃火器の放つ音ではない鈍い音と共に()()()()()()が発射され、立花のすぐそばにどでかい薬莢がカランカランと転がった。




 劣化ウラン弾は明確な殺意を持って偽月をへと飛び、命中。

 直撃した瞬間偽月に亀裂が走り、劣化ウラン弾が蓋になるようにして偽月に刺さった。

 立花は目を細めてニタリと笑みを浮かべ、二発目三発目と装填してある分を次々と発射した。



 一発目のと同じような場所に劣化ウラン弾が直撃したことによって偽月の表面はひび割れていった。

 立花が引き金を引いて最後の一発、それは惜しくも外れて全く違うところに当たった。

 流石の立花も疲労が溜まったのだろうか、やや右腕がプルプルと震えているようだった。



 が、立花は懐からもう一発、弾を取り出して装填した。

 もう一度偽月をエイムし、最初に撃った弾丸の位置を狙った。

 鈍い音がまたしても鳴り、弾丸は一発目の弾丸に直撃。




 そしてその直後に()()()()

 金色色に輝く偽月の表面が割れ、その中からドロリとした液体が地面へと流れ落ちていた。




 「劣化ウラン弾何発も直撃したところにAPHE(徹甲榴弾)打ち込んでやったんだ、壊れないはずがない。にしもてまぁ、物理ダメージ効いて良かった。黒の武器(ブラックウェポン)しか通用しなかったらどうしようかと思ってた」




 偽月に開いた穴から液体と一緒にアダムがずり落ちてきた、落下中に狙撃をしようかと思った立花だったが残念ながら弾薬切れ、まさか落ちてくるとは想定していなかったからだ。




 「……これは想定してなかっただろ三日月? なんせお前には言って無いからなぁ。どうだ三日月、()()()()()()!」




 立花はまるで三日月と会話しているかのように喋り、笑った。

其の百まであと三話っ!

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