ボクとわたしと年の始まり
あけましておめでとうございます。
ボク、白鳥真琴は無事に新年を迎える準備ができました。
ただ、バイトやらなんやらで大晦日に実家に帰ることはできず、元旦の午後に帰る予定になっています。
一人暮らし先で、一人寂しく年越し蕎麦を食べて、後はのんびりと過ごそうかと思った時のことでした。
幼馴染の女子・羽田水琴が、新年の挨拶とともにうちに押し入ってきました。
何故か浴衣で……今日一緒に帰る予定だったはずじゃないの。
「やっほー、まこちゃん」
「やっほー……って、なんでうちに来てんのさ!?」
「どうせ、明日一緒に帰るんだからいいじゃない。それよりも一緒に初詣行かない?」
「初詣って、今からじゃなくてもいいじゃん」
「折角だしさ」
「うぅん……用意なんて全くしてないよ」
むしろ帰る準備だけ終わしていた感じだし。
ちなみに、この水琴は昔ボクが振られた相手だったりします。嫌いとかそういうわけではなく、恋人とか作る気がないというようなノリで振られたので、今も関係は続いてるんだけどね。
「ついでに、着物も着てみない?」
「なんでそんなもの持ってるの!?」
「被服部の先輩に貰ったの。試作で作っていたものだから、着る人がいるならそっちのほうがいいって」
「なんだよ、それぇ……」
ボクの小さくなっていく悲痛な叫びなんて露知らずに、うちに上がってくる水琴を止めることはできなかった。
まあ、初詣くらいならいいかな――そんなことを思ってしまうボクもつくづく甘い気がするよ。
一人暮らしらしく、広くはない部屋に押し込まれて、水琴が持ってきた着物に着替えさせられる。着付けとかは自分じゃよくわからないから、されるがままだった。
それなりに時間がかかって着替えが終わるんだけど――。
「ねえ、これって本当に男よう?」
「気にしないきにしなーい」
柄とかは中性的というか、どっちが着ていても気にならないものだけど、ボクが見たことがある限りは女性用のものに見えるんだけどな。
知識がないからよくわからないから強くは言えない。
いつの間にか用意されていた、カジュアルではあるけど着物でも変には見えないシューズをハイて、2人並んでゆっくりと家を出た。
学校の近くで一人暮らししてるということもあって、知り合いにも合うかもしれないんだよね。
道中で冷たい冬の夜の風が襲いかかってくる。サイズがあってないきがする、着物で、冷たい空気が中に入ってきてしまう。
「うぅ、ちょっと寒い」
「まこちゃん大丈夫?」
「なんか、少しサイズあってないのかな」
「そんなことないはずだけど。ちょっと、待ってね」
そう言うと水琴はボクの後ろに立って、帯や着物の胸元などをいじって、少し締め付けを強くする。
「んっ……ぅうっ」
「あ、きつかった?」
「ちょっと、胸元が」
「ごめんごめん。このくらいで大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
あんまりさっきと変わってない気がするけど、どうしたんだろう。
自分の胸元を触ってみると、いつもと同じ大きさな気がする――そう簡単に大きくならないよ。
「まこちゃん髪邪魔だったかな?」
「え。気にならないけど……」
「ダメだよ。身だしなみにも気をつけなくちゃ」
「そ、そう」
いつも以上に世話焼きな水琴。
ぼくの長い髪を後ろでまとめる。というか、少しポニーテールみたいになってる気がする。
「長いし量も多いから、やっぱり結構見栄えでもインパクト出るね」
「そ、そうかしら?」
伸びやすいから仕方ないじゃない。
「それに綺麗だし。嫉妬しちゃうなー」
「もう、そういうこと言うのやめて」
「ごめんごめん。あ、見えてきた」
水琴がそう言った。前を向くと、年明けに合わせて初詣をしようとする参拝客がいっぱい見える。
スマホを見てみると、あと5分で年が明ける。
そういえば、去年は何を願ったんだったかしら……たしか、水琴と付き合えるようにだった気がするわね。
まあ見事に玉砕しちゃったんだけど――あれ、なんで玉砕したんだったっけ?
「甘酒いかがですか?」
「あ、いただきます。まこちゃんもいる?」
「じゃあ、もらおうかな」
体温まるわー。
ちょうど賽銭箱まで、あと一列といったところで、鐘の音が聞こえる。周りでは「あけましておめでとう」と年明けの挨拶をしてる。
「まこちゃん、あけおめ」
「あけましておめでとう。水琴、今年もよろしくね」
「うん、こちらこそ……あ、じゃあちょうどよい時間でお願いもしちゃおっか」
賽銭を入れて二礼二拍一礼して、お願いする。
――水琴と一緒に今年もいられますように。
お祈りを終えて、当たり前というようにおみくじをひく。
「あ、吉ね」
「うっ、こっちは小吉……あ、でも書いて有ることはいいことだ」
「あるわよね、そういうこと」
念のためにおみくじは縛っていく。やることをやり終えた後は、少しだけお守りとかを買った後に、帰り道につく。
「ねえ、まこちゃん……」
「なに?」
「待ち人はすぐ近くにいるってかいてあったんだ」
「そうなの。学校の誰かかもね……もしくは、実家に帰ったときに、昔の旧友とかがかっこよくなってたりするかもしれないわよ」
「うーん……違うと思うんだよね」
水琴はそう言うと、少し歩く足を早めて私の前で振り返ってこっちを見る。
「まこちゃん。ごめんね、今日、ずっとまこちゃんのこと騙してる」
「……なによ?」
「まこちゃんに着せた着物……いわくつきのものだったの。本当にそうなるなんて思わなくて、でも、もしかしたらって思ってやっちゃった」
「着物がどうかしたの?」
「まこちゃん、女の子じゃなくて男の子だよ。だけど、その着物着ると女の子になっちゃって、それで……朝になると、そのまま戻れなくなっちゃうの」
「そんなこと……」
あるわけ無いと言おうと思った時、たしかにわたしのボクの記憶はゆらぎをもった。
「こんなことを新年そうそう言うのもおかしいかもしれないけど、わたし女の子が好きなの……それで、まこちゃんも好き……それで、どっちも叶えたくて」
「水琴……」
「まこちゃん。こんな我儘おかしいんだけど、わたしと付き合ってください。女の子同士で」
水琴はそう言って、頭を少し下げてくる。
そんなこと言われたら――ボクは……私は水琴の頬にそっとふれて顔を持ち上げて、顔を見合わせられるようにする。
「まこちゃん……」
「私でいいなら喜んで――んっ」
「んっ」
私は水琴と唇をそっとあわせた。
私の新年はこうして始まっていくことになる――あけましておめでとうございます。