EP#5:長旅
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アレースパイロットや指揮官、そして整備士、医師の居住コロニー兼管制塔本部SCS。
一体どんなところだろうか。
シェナリーの後を追いながらどんどん建物の奥へ進む。
相変わらず窓は一切無く、センサーで人影を察知してライトが点灯する仕組みの廊下をいくつも通った。
建物内はかなり入り組んでいるようで、所々に現フロアの見取り図が壁に取り付けられている。
「シェナリーさん、どうしてここには窓が無いんですか?」
律の問いにシェナリーは
「…エンシェントは基本的にそれほど高い知能は持ち合わせていない事が今までの研究で分かってたはずなんだけど…今からだいたい10年前。賢〜いエンシェントがいてね。
そいつ、ここの存在に気付いたのよ。SCSはアレースが保護できるけど、IRS本部は宇宙から丸出し。そのエンシェントはアレースじゃなく、IRS本部を狙って攻撃してきたの。想定外の事だったからね、その時は大気圏内への侵入まで許しちゃって、IRS本部が集中攻撃を受けたの。その時割れた窓ガラスの破片による構成員の怪我が多かったから、建て直す際は窓ガラスを一切排除して、おまけに建物本体を熱耐性もあってとにかく強いカーボンファイバーで覆うほどの徹底ぶりよ。笑っちゃうわよね。」
と振り返らずに言った。
「あ…ごめんね。私、言葉を短くまとめるのが苦手なの。今の質問なら、“過去、エンシェントに直接攻撃されて割れた窓ガラスが危険だったから撤去した”、だけで良かったわよね」
シェナリーはそう付け足した。
「いや…俺、誰かの話を黙って聞いてるのが好きなんで…」
「あら、そうなの?」
「ええ」
律は昔からそういう人間だった。
自ら何かを発信する事より、誰かの意見や考えを黙って聞いている事の方が好きだ。
むしろ、ディベートのような自分も何かを発言しなければならない場を苦手に感じてさえいた。
誰かの声をただ聞いている事に安心感を覚えるのだ。
きっと、少なくともそうしている間は孤独と向き合わなくて済むから。
誰かが自分のそばにいるだけで、自分がこの世界にたった一人でいるわけではないという証明になっているのだと。少なくとも、律の心の中では。
しばらく歩くと、空港のロビーのようなガラス張りの廊下に出た。
なんだか久しぶりに見た青空だ。
どうやらここがこの建物の最上階らしい。
「赤旗くん、見て。」
とシェナリーが窓から下を覗き、指をさす。
「これがIRS本部とSCSを繋ぐ宇宙エレベーター。通称Hyper Space Ladder、HSLよ。SCSは上空25万km地点にあるの。地球の重力圏内だけど完全な宇宙空間だし、何より遠いからね。時間、掛かるわよ!まずは着替えなきゃ。男子更衣室は向かって左よ。」
そこにあったのは、大きな黒い要塞の様なものだった。どこから入るのかもわからないほど大きい。
これがエレベーターだと言えるのだろうか。確かにかなり太いワイヤーが青空に向かって一直線に伸びている。
このワイヤーがSCSに繋がっているらしい。
「あの、シェナリーさん。時間が掛かるって…?」
律はシェナリーの後を追いながら訪ねた。
「んんーー…そうね、確かHSLの最高速度はマッハ35・29、時速に直すとだいたい43200km/h。そのスピードで25万km昇るから…んー約6時間ね。」
「43200km/hで6時間……!?死…!?」
「まあ体にGは掛かるし、長旅だけど死にはしないわよ。宇宙服着ないといけないけどね。」
ほらほら、急ぐわよ、とシェナリーは律の背中を押して更衣室前まで連れて言ってから、「一番手前のロッカーに赤旗くんの着替えが入ってるから!」と告げた。