四章
助手という無償ボランティア活動を請け負ってから二週間ぐらい経った。よくもまぁ、こんな活動が続いてるなぁと、我ながら感心しているが、そろそろ宿題もやり始めなければならないという焦りも感じつつある。
でも、大丈夫だろう。いざとなってしまったら、友達や博士にでも手伝ってもらう。我が友のほうはたぶん手伝ってはくれないと思うが博士は手伝ってくれるだろう。というよりもそれくらいしてほしい。俺だってあんたの為に毎日意味の無いような事をやっているのだから、少しぐらい俺の為に何かしてもいいんじゃないか?
いや、本当にやばいんだってば。このままの現状を維持し続けたら、一週間後のはもう血を見ることになっちまうだろう。俺には不退転の決意なんて実行できないからさ、助けてくれよ――
「――という事なんだけれど、どう思う?」
今の時刻は午前十二時を過ぎたあたり。場所は小さな山の展望台のようなところ。空はすっぱり晴れていて、いくらかの星が煌めいている。月もぽつんと浮かんでいる。
「…いざとなったら手伝ってもいいけど、やっぱり自分の力でやらないと」
いくつかある水銀灯の光で何となく表情が窺える。あきれているような表情だ。
「なるべく頑張るからさ。いざとなったら頼みます!」
「うん、わかった」
といいながら博士は望遠鏡を設置している。今日はここから円盤観測だ。
「……あのさ毎日この円盤観測やってるけど、他には何かやらないのか?」
俺は望遠鏡無しで空を見なければいけないので、地べたに座り上を見上げる。そこらの草むらから聞こえる、虫が鳴いている音。いい感じに風が吹く。気持ちのいい開放感に浸れた。
俺の憤りを虫が静めてくれた。俺の悩みを風が脳から運び出してくれた。
崩壊と開放があった。気持ちがよかった。
「私はUFOの写真とか映像とかそういう物的なものはいらないけど、もう一度見てみたいんだよ。ただ純粋に。だから円盤観測しかしない。……例えば私がUFOの写真を撮ってそれで気持ちよく満足していても、他の人にはそれが嘘だって言われるかもしれない。そんなの嫌だから、この眼で見るだけでいいんだけど、なかなか見れないんだよねぇ……」
望遠鏡を覗き込んでいる博士の表情は見えない。
俺はそのことを聞いて、考えることや思うことが出来るって大変だなぁと思った。だって意見が違ってしまうから。これが絶対あってるってことが無いことを嘆かずにはいられなかった。結局俺が心から信じてるものも、他人から見れば馬鹿みたいなことにしか思えないだろうから。
「俺なら写真ぐらいはほしいかなぁ…記念として」
そう博士に聞こえたかわからないぐらいの声で呟いて、地面に寝そべる。ひんやりしている。
少しの間そうしていたら、水銀灯の光が消えて真っ暗になってしまった。心細いが寝るのには都合がいい。暗ければ顔が見えないから寝ていても、博士に怒られないので安心だ。安心だ……
「ねぇ神野君。夏休みが終わったらどーするの?助手やめるの?」
…まぁそうだろうな。時間も暇も無くなってしまうからな。だけどそれは仕方ないことだ。
だから悲しそうに言わないでくれ。
「あ〜……どうしようかな…考えとく」
あえて答えは出さなかった。答えは変わらないだろうが今は言いたくなかった。言ったら悲しくなる気がしたから。俺が。
「やめたくなったら言ってくれればいいから」
博士は変わらず望遠鏡で空を眺めている。何も飛んでいない空を、ただ眺めている。
「代わろうか?」
寝ようと思ったがやめた。地面が硬すぎて眠れないからだ。こんなところで寝てしまったら体が痛くなる。
「まだいいよ。疲たら言うからその時に代わってくれればさ」
「そうか」
する事も無く暇なので、また寝そべり空を見る。
濁って輝いている星しかない。満天の星空なんて実際見たことなんてない。そんな星空が見れなくなってしまったのは人間のせいなのかなぁと、唐突に思った。
鼻から空気を吸ってはいた。そうしているうちに寝てしまった。