プロローグ
ようやく規則正しい学校生活から開放されて、ダラダラ毎日を無為に過ごせるようになって一週間弱。暦は八月に突入した。
そう、夏休みである。何者にも俺の起きる時間は左右されないで寝ていられる、長期間の休暇である。休暇、というのであるから勿論毎日暇である。宿題課題はあるけれど、そんなものは後でやればいい事なので、毎年の如く休暇の最後に焦り、苦しむ事は十分解っている。だけど宿題課題に手が伸びないという心情は、きっと誰でも解ってくれるだろう。
寝てる時間を人には左右されないのだが、気温が高いとどうしても目覚めてしまう。
そして今日も八時という割かし早めに起きてしまった。あぁ眠い……
重いまぶたをこすりながら、自室を出て階段を下りていく。キシキシ軋む階段を通過してトイレに赴き、用を足す。その後リビングに向かう。
リビングにはいつものように、妹がアイスなどをほうばりながらテレビを見ていた。そして俺の存在に気がついたのか、
「お兄ちゃん宛に手紙、きてるよ」
とちらっと俺を見ながら言った。テーブルの上に新聞紙と俺宛の封筒があった。それを手に取り、眺める。そしてある事に気付く。
「なぁ、これ『親展』って書いてあるよな?」
「しんてん?何それ?」
中二にもなって親展を知らないとはな……兄としてこの妹の無知が恥ずかしいぜ、まったく。
「……誰が開けた?」
「……気になっちゃって……あはは…」
今度こいつ宛にきた手紙を勝手に読んでやろうと決意して、
「まぁ、いいけどさ。でも今回だけだからな」
と、軽くあしらって既に汚く開封されている封筒を再度眺める。知らない住所からで送り主の名前が書いてないという怪しさレベルが非常に高いものであった。でも怪しいだけに面白そうだ。
「その送り主の人、頭大丈夫かな?」
と言う妹の言葉を聞いて封筒の中身に興味を持ちながら、中身を取り出す。
中には普通の便箋が入っており、三つ折にされていた。それを広げる。最初は綺麗な文字で始まっている。
『突然の手紙で申し訳ないけれども、この手紙を最後まで見て欲しい。
私の名前は博多屋 士歩といいます。二年一組なので多分知らないと思うけど。
そんな事より、何故何の接点も無い彼方にいきなりこんな手紙を送ったかというと、いきなり直接会ってこの後に書く事を伝えるのは非常に恥ずかしかったからだ。
そんな私は博士であります。一体何の博士かと言いますと、UFOとかエイリアンとか、オカルトじみているけどそういう飛行物体や生命体は実際にいる。
私は信じています。きっと彼等は存在しているということを。
ちょっと聞いて欲しいんですが私は一回だけ第一種接近遭遇を体験しました。それは小学校六年生の時だったけど今でも憶えています。それがきっかけになって、わたしは博士になったんです。
この手紙はとても怪しいけど私は然程怪しくありません。と自分では思っています。
もしよかったら、夏休み中に私の家に来てください。なるべく早い方がいいです。今日でも構いません。
そこで、何故彼方にこの手紙を送ったのかお話しましょう。
二年一組 博多屋 士歩
マンションの番号です→524』
……三回読み返してしまった。何これ?この常体と敬体がごっちゃな文は?いや、そんな事はどうでもいい。何故、名前も顔も知らない、面識も無いこの俺にこんなもんを送ってきたのか?
………だが、UFOやエイリアンに興味は無いがこの博多屋 士歩に興味が有る。
いきなりの、あまりに臍茶で常人では書けないし送れないような手紙。
いいね、面白そうだ。普遍的な生活から離脱出来そうだ。
つまらなかったすぐに帰ればいい。
行ってみる価値は十分あるだろう――