表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方妖骨遊行譚  作者: 久木篁
四章 幻想郷放浪編
46/51

第三十八話 混沌。ホネとウサギとネコとウネウネ

 実は腹黒さでは幻想郷一だったりして……と友人達から定評(?)のある八雲藍だが、己に与えられた職務には誇りを持って向き合っている。

 幻想郷各所より集まる苦情やら嘆願やらの書簡に目を通して主人に読ませるべき物を選別し、自分の手に負える範疇の案件は的確に処理する。さらには天魔や鬼子母神など、その地の統括者の助力が必要と判断したならば早急に文をしたためて式神にして飛ばす。最終的には紫が直に出向くのだが、事前にアポイントメントを取っておくのも欠かせない仕事の一つだ。


「藍しゃまー、お部屋のお掃除終わりましたー」

「うん、ありがとー。じゃあ次は外の洗濯物を取り込んでタンスにしまっておくれー。今日は量が多いけど平気かーい?」


 大丈夫ですー! と廊下に響き渡る元気な返事と足音。

 ええ娘や……と目の幅の涙をマンガチックに流して書類をダメにするのもいつもの事。

 秘書じみた仕事が終われば、次は炊事や洗濯といった家事に取り掛かる。

 朝に弱い主人が脱ぎ散らかした寝巻きや下着類を洗剤と一緒に水を張った巨大な桶に放り込み、簡単な術で渦を起こして電力要らずの洗濯機に。

 洗っている間に台所に向かい夕食の下拵えを行う。

 手早く米を研ぎ、片手間に具材を切って鍋と釜を火にかける。その手際の良さは、割烹着スタイルと相まって主婦の見本として本に出来そうなほど。

 大根のかつら剥きや飾り切りなんか朝飯前。得意料理は和食と中華だが、要望があらば洋食もいける。以前作ったお子様ランチは橙に大好評を博し、天使のような笑顔で礼を言われて鼻から愛が吹き出しそうになった。うっかり紫の分までお子様ランチにしてしまったので『子ども扱いするな』とお叱りを受けてしまったが。

 閑話休題。

 男を堕とす際には顔の秀麗さが重要だが、その他にも料理や刺繍といった家庭的な技能も深く関わってくる。たとえば読み書き一つとってみても文体の美しさで教養の高さを印象付けられるし、料理の分野に至っては言うに及ばず。

 つまりは堕としのエキスパート、天性の悪女として名を馳せた彼女の腕前はそんじょそこらの料理人が舌を巻くレベルだったりするのだ。


「……ん、こんなモノかな」


 主菜の味見をして頷く。

 そうこうしている内に米が炊き上がって汁物も完成し、タイミング良く洗濯が終わった事を示す怪音(原理は不明)も聞こえてきた。

 次は洗い終わった衣類の山を抱えて物干し台へ。

 恥ずかしがり屋で初心な主人は“あの男”との勝負のためにと渡した下着を使おうとはしないので、物干し竿に並ぶのも一般的な少女らしいものばかりになる。唯一、永遠亭の薬師に対抗して買ったという紫色のブラとショーツのセット(レース地、布面積かなり少なめ)が異彩を放っていた。

 それでもまだ押しが全然足りてないなぁ、もっと透けてた方が堕としやすいんだがなぁ、いっそあの男に合わせてドクロ柄とかプレゼントしてやろうかなぁ、あるいはギャップを狙って上下とも白とかいいかもなぁ、とブラックな笑みで傍迷惑な謀略を巡らせつつ干していく。

 金毛九尾の式神・八雲藍。

 主の生活面から恋愛面まで補助する彼女に死角はない。



 ない――のだが。



「――らあああああああああああんんっ!!」

「うわあっ!?」


 いきなり目の前に叫ぶ生首が出現したらそりゃ驚く。

 すわ何事かと即座に後方に飛び退き、展開した九本の尾それぞれに狐火を浮かべて臨戦態勢を取ったところで――空中に浮かんでいる(ように見える)生首が己が主人のうっかりゆかりんである事に気付いた。

 何やら切羽詰っているご様子。

 だとするとあの男絡みの厄介事なのだろう、やっぱり。

 呪いのビデオの怨霊よろしくスキマからズルズルと這い出して、忙しなく周囲を確認する紫。しかしお目当ての者はいなかったらしく、焦った顔で藍に詰め寄る。


「藍、おじさんがこっちに落ちてこなかったかしら!?」

「いえ、今日は――と言うか今日も来客はありませんが」


 当然だ。

 この屋敷は外界と幻想郷の境に位置する。

 足を踏み入れる事が出来るのは境界を操る紫本人を除けば従者の藍と橙、そして謹製の転移符を使用した者だけ。紫が無条件に心を許し、悪意を抱いて来訪する事は絶対にないと認められた存在にのみ譲渡されるそれは、藍が知る限りでは屍浪しか持ち得ない代物。

 行き来する方法と妖怪が限定されている以上、来客などあるはずもない。仮にあったとしたら、その者は客ではなくれっきとした侵入者だ。命を置いて早々にお帰り願う。

 それにしても『落ちてこなかったか?』とは――


「……今度は一体何をやらかしたんですか?」


 うぐっ、と紫は言いよどむ。

 既に極一部では常識と化してしまった事実だが――この小娘、普段こそ妖怪の賢者としての辣腕を惜しげもなく披露しているけれど、ひとたび『大好きなおじさん』の事となると必ずと断言していいほど盛大にポカをする。

 何度も練習した台詞を噛んだり負けず嫌いに火がついて暴走したりは当たり前。挙句の果てには桃色の妄想に浸って使い物にならなくなる始末。

 その艶やかな朱唇が『おじさん』の単語を紡いだ時は覚悟しなければならない。

 ファザコンならぬオジコンによって齎される面倒事は時として、ある意味では異変並みかそれ以上に奇怪な騒動を巻き起こすのだから。


「えーと、おじさんが……此処に住んでくれたら嬉しいなぁ、と思ってその、ね?」

「いや『ね?』と言われても」

「藍もおじさんがいた方が楽しいと思うわよね!?」

「まあ、良い刺激になる気はしますが」


 何やかんや言いつつも仕事を手伝ってくれそうだし。

 ああでも橙まであの男の毒牙にかかったらどうしよう。殺るか?


「それで色々と話し合ったんだけど……」

「敢えて『誰と?』とは尋ねませんが、その様子から察しますに、聞く耳すら持ってもらえなかったようですね」

「そりゃあ彼女の気持ちもさぁ……分からなくもないのよ? 悔しいけど。でも頭ごなしにダメとかずっこいでしょ!? 朝起きたらおじさんが隣に寝てておはようって言ってもらって、夜寝る時は一緒の布団に入ってお休みって言ってもらって、そんでもって、そんでもってそのまま――」

「出来るんですか? そのままの、その後を」

「――はまだ無理だけど!」


 どっせーい! と何かをブン投げる真似をする紫。

 なら言うなよと藍は心の中でぼやく。従者の矜持で口には出さない。

 怒鳴ったり指を突っつき合わせてモジモジしたりと忙しいご主人様だ。本当に忙しいのは百面相を強いられている表情筋だけかもしれないが。


「それで紫様。その昼ドラみたいな話し合いと先ほどの要領を得ない質問と、一体どのような関係があると言うのですか?」

「だから、お互いに譲れなかったからその、おじさんをスキマに」

「強引に押し込んで拉致っちゃった、と」

「押し込んでなんかいないわ! 落っことしたのよ!」

「その二つに明確な違いがあるとは思えませんが?」

「ら、藍だって早く落とせ落とせっていつも口うるさく言ってたじゃないの!」

「堕とし所が決定的かつ致命的に間違ってます」


 丸っきり阿呆の子である。

 物理的に落としてどうしようと言うのか。そんなに怒られたいのか。

 八雲紫、ここにきてまさかの被虐趣味疑惑。邪魅からの空気感染が疑われます。

 しかしそうなると、確かに屍浪がこちらに来ていなければならないが――それならば八雲家の一切を任された自分が真っ先に気付きそうなものだし、家中を駆け回っていた橙も怪しさ全開なあの男を発見して報告しに来るだろう。

 屍浪がスキマ送りにされたのは事実。

 此処に落ちてこなかったのもまた事実。


「…………まさかっ!?」


 残された最悪の可能性に思い至り、紫は愕然とする。


「どうしよう、藍どうしよう……! 私あの時慌ててたから、きっと間違って別の場所に出口を繋げちゃったんだわ!」

「らしいですねぇ。まあひとまず落ち着いてください」


 主の肩をやんわりと押さえて藍は言う。


「あの男の顔の広さは紫様が一番良くご存じのはず。妖怪の山一帯なら天魔の知覚領域内ですし、地底には鬼子母神がいます。何より、中核を担う鬼達の大半があの男に育てられた言わば子どものようなものなのでしょう? 喧嘩する前に宴会になってますよ絶対」


 他にも危険な場所は指折り数える程度には存在するが、あの男なら妖怪に襲われようがトラブルに見舞われようが文句を垂れ流しながら苦もなく踏破するはず。どちらにせよ、何らかのアクションがあれば遅かれ早かれ紫の耳に届く。

 後はその痕跡を追えば万事解決。

 紫のトラブルメーカーっぷりは親譲り。騒ぎが起こる所に屍浪ありだ。

 それでも見つからなければ裏技で邪魅に探知してもらえばいいのだし。


「とにかく、心当たりのある場所を探してみてはいかがですか?」

「……そうね、そうしてみる!」


 言うが早いか、紫はスキマに飛び込んで何処かに消え去る。

 後に残されたのは、地面に落ちて汚れた洗濯物の成れの果て。


「やれやれ、洗い直しか……」


 まったく、退屈しない職場だ。

 人の命すら買えるきらびやかな宝石類も、贅の粋を凝らした金糸銀糸の豪奢な衣装も、媚びへつらう下僕達もいない――寵姫だった頃は想像もしなかった生活に自然と笑みが浮かぶ。全てが手に入りながらも決して満たされなかったあの時代とは違い、今はとても充実しているから。


「橙、少し早いけどおやつにしようかー? ……ちぇーん?」


 振り返り、部屋の中に呼びかけるが――けれど、室内には片付けの途中で放棄された衣服が散乱するだけで、藍が溺愛するネコミミ少女の姿はなかった。



 ◆ ◆ ◆



 さて。

 紫が血相を変えて探し回っている意中の人――屍浪は。

 妖怪の山でもなければ旧地獄でも魔法の森でも無縁塚でも、ましてや人里でもない場所で、今まで経験した事のない思わぬ窮地に立たされていた。


「にょー」

「……今度はこの部屋ですかい、お嬢さん?」

「にょっ!」


 行けども行けども終わりのない、延々と続く古びた板張りの廊下。

 左右にずらりと並んだ引き戸の一つを紅葉のような手で指差して、チビイナバは屍浪の頭に乗っかったまま自信満々に大きく頷いた。何がそんなに楽しいのか、早く開けて開けてと両足をバタつかせて催促してくる。一向に飽きる様子はなく、気分はスリル満点のハイキング。

 ちなみに、もう数十回は同じ事を繰り返している。

 一部屋目の捜索を終えた時点で全ての部屋を調べ尽くすのは無理だと判断するに至ったのだが、どうやら頭の上の同行者の好奇心は想像以上に底が深いらしく、さっきからずっとこの調子で休憩すら取らせてもらえないのだ。

 スキマを通して連れて来られた事からも、この場所は紫に関係する何処か――おそらくは収集した品々を区分けして保管しておく巨大なタンスのような空間なのだろうと適当に推測する。脱ぎ捨てた衣服や下着まで転がってたりするので、何でもかんでもスキマに放り込めば良いってもんでもないでしょうに……と父親として情けなくなってくるが。


「オープン……セサミっ!」


 爪先で引っ掛けるように蹴り開け、すぐ反対側の壁まで離れて、


「とうっ!」

「にょっ!」


 太刀ではなく、道中で見つけた布団たたきを抜き放つ屍浪。

 チビイナバもフライ返しとおたまの二刀流でポーズを取る。

 古いデザインの消火器を背負い、ヘコみが目立つ小さめの片手ナベを被ってヘッドライトまで装着した幼女――しかも断崖絶壁と荒波を背景に毛筆体で『にてんいちりゅー』とか浮かび上がってるものだから緊張感が削がれて仕方がない。

 そんな威嚇(?)の甲斐もあってか、他の部屋のように古代遺跡じみたトラップが発動するでもなく、室内にうず高く積み上げられたガラクタの山が静かに二人を出迎えた。

 時代も地域も見事にバラバラで、日用品と高価そうな骨董品が雑多に混ざった光景はもはや節操のなさしか感じ取る事が出来ない。


「――っ! にょっ、にょっ!」


 それでも、子どもの好奇心を刺激するには十分らしく。

 また何か興味をそそられる物でも見つけたのだろう――チビイナバがずりずりと滑り落ちてガラクタを漁り始める。オモチャ箱でもひっくり返すような乱雑な手つきだが、下手に動かすと崩落する危険性があるのですぐ後ろで見守っている屍浪は気が気ではない。三つ前に調べた部屋で既に巻き込まれ済みなのだから尚更だ。


「にょー!」

「はいはい良かったですねー、さっさと降りてきなさーい」


 戦利品のアヒル(隊長とか呼ばれそうな風呂場に浮かべるアレ)を高々と掲げてご満悦のチビイナバ。握り潰されたアヒルがグワーと断末魔のように鳴いて哀愁を誘った。

 再びチビイナバを頭に装備して、屍浪は更に廊下の奥へと進む。


 ――知らない場所では無闇に動き回らない。


 言わずと知れた迷子の鉄則だが、そもそも進むか戻るかの一本道。迷いたくとも迷いようのないこの状況において律儀に守る必要性があるのかも疑わしい。

 チビイナバのヘッドライトだけが頼りの暗闇の中、前を向けば廊下と引き戸、後ろを振り返ればガラクタが溢れた廊下と開放済みの部屋。

 亜空間に繋がって道が無限ループしている可能性もなきにしも非ずだが、まさかこの雑貨の山と同じように所有物として保管された訳じゃあるまいし、迎えに来るのが紫なのだとしたら何処を歩き回ってようと大して変わりはないだろう。缶詰らしきものもいくつか発見しているので飢え死にの心配もない――万が一の事態に備えての“切り札”もあるにはあるのだし。

 目の前にダンジョンっぽいものが広がっていたら思わず探検してみたくなるのが男という生き物――何がかんだ言いつつも、屍浪もそれなりに楽しんでいたりするのだ。



 ……さて。



 宝の山や装備アイテムに食料品、極めつけに侵入者用のトラップまで――これでもかこれでもかとダンジョンじみた雰囲気を漂わせているからには、当然、モンスターの役割を担う『何か』も確実に存在してホネチビコンビを待ち構えている訳で。


「…………ん?」

「にょっ?」


 二人が“それ”と出会ったのは、例のアヒルたいちょーを発見した部屋から数えて十番目の部屋の前に差し掛かった時の事だった。

 戸の隙間からはみ出してうごめく“それ”を何と形容すべきか、屍浪は一瞬だけ判断に迷う。一言で表すとするなら『ミミズの化け物の団体さん』が相応しいか。明かりが乏しいため“根っこ”が一つの個体なのかそれとも“群れ”なのかも判別がつかない。

 細いのは鉛筆サイズから、太いのは大人の腕ほどまでと様々。

 ウナギよろしく粘液に覆われた表皮は薄い肌色で、青紫の血管が透けて見える。頭部と思われる位置には口も目も耳もないが――嗅覚が異常に発達しているらしく、臭いを嗅ぐような仕草をした後、数十はあろうかというウネウネが一斉に屍浪達の方を向いた。


「うわぁ……」

「に゛ょー……」


 はっきり言おう。

 スッゲェ、気持ち悪い。

 あの無邪気と純真無垢の塊のようなチビイナバですら、餅並みに伸びる両頬を引っ張りながらイーッと下顎を突き出して敵意を露にしている。よっぽど気に入らないのだろう。というか何だその顔は。

 ヘッドライトの明かりに反射してヌラヌラと光る触手――これがまだ一本や二本くらいならば踏み潰すなり斬り捨てるなりしてさっさと退場させるのだが、如何せん数が多すぎる。それに、もしかしたらアレも紫のコレクションの一つかも知れないし、となると迂闊に手を出す訳にもいかない。

 どうしたもんかと考えあぐねる屍浪を余所に、ミミズだか触手だかよくワカランそれらは、己の本能に忠実に従って行動を開始する。


「にょっ!?」

「げっ……」


 一体どれだけの量が押し込まれていたのか、触手達の圧力に耐え切れなくなった引き戸がとうとう内側から破壊され弾け飛んだ。

 ドバァッ! と廊下に噴き出たウネウネの奔流が屍浪達の方へ押し寄せる。

 その“必死さ”には奇妙な既視感があった。

 紫が何時この珍生物を捕獲したのかは知らないが、おそらく何十年、いや何百年とロクな獲物にありつけなかったのだろう――触手達は明らかに飢えている! 


「どうやら……俺らをエサとしか見てねぇようだな」

「にょにょっ!」

「ああそうしましょう。俺も食われるのはゴメンだ」


 クルリと踵を返して逃走開始。

 幸いにも、触手の動きは思った以上に鈍重だった。せいぜいが自転車を強めに漕いだ程度――リハビリもまだ初期段階で頭に『元』が付くナンチャッテ狂骨とはいえ、全盛期の邪魅を相手取った経験のある屍浪が後れを取る訳もなく。

 それに、チビイナバもただ黙って屍浪の頭にひっついてる訳じゃない。

 消火器を構えて目くらましならぬ“鼻くらまし”に消火剤をぶちかまし、トイレットペーパーやら目覚まし時計やら信楽焼きの狸やらのガラクタを手当たり次第に投げつける。


「にょーっ!」

「ハイそれはアウトー!」


 手榴弾のピンを引き抜こうとした時は流石に没収したが。

 この幼女、何時の間にか職業軍人も顔負けなミリタリー装備一式に着替えていたりするから侮れない。現に今だって、巨大なマラカスにも似たドイツの対戦車擲弾発射器『パンツァーファウスト』を魔法のステッキみたいに軽快に振り回して――


「ってオイ!? んなモンどっから持ってきた!?」

「にょっほん!」

「威張るな!」


 集めたくせにその辺に放置している紫と、それを拾って撃とうとするチビイナバ。

 果たしてどちらの罪が重いのか。

 とにもかくにも、文字通り“桁外れ”の年月で培った経験則と無邪気ゆえの遠慮のなさがタッグを組んで化学反応を起こしてしまった屍浪達。

 戦術という名の逃走はまだまだ続行される。


「ふりだしに戻ってそして逆走!」


 一番最初に調べた部屋の前を通り過ぎてそのまま反対側に――まだ探索していない部屋がズラリと並ぶ廊下をひた走る。ガラクタに侵食されていない所為もあって、先ほどよりも格段に逃げやすいのがせめてもの救いか。

 追いつかれる心配はないにしても問題は山積みだった。

 屍浪が懸念しているのは“終点”の有無。

 全体の規模が不透明である以上、この先もずっと廊下が続いている確証など何処にもないのだ。最悪の場合は数十メートルも進まない内に行き止まりにぶつかる可能性だってある。強行策として壁を破って脱出するという方法も考えてはみたのだが、木目調の内装に反して非常識なまでに硬く、何度斬りつけても刃が通る気配すらない。

 自分の体力にも限界があるし、いよいよもって万事休す。

 おまけに、


「……見ちまったんだから後には引けんよねやっぱり」

「にょー……」


 絞り出された屍浪の嘆きに、チビイナバもホントにねーと頷く。

 背後を見やる二人の視線の先――腰くらいまでの水位に上昇した触手の川の中に、少女のものと思しき小さな右手が混ざっていた。どうして性別も分かるのかというと、かろうじて残る袖が明らかに女物のデザインだったからだ。

 どうやら触手の粘液には溶解作用があるらしく、水面下なので詳しくは窺い知れないが少女の衣服はグズグズに溶かされてしまっていると考えた方が良いだろう。それでいながら柔肌は無傷だったりするのがまたご都合主義というか何というか。

 お決まりな展開に屍浪は冷ややかな半目を送る。チビイナバの嫌悪感が剥き出しなのもアレは女の敵だと本能で嗅ぎ取ったからに他ならない。



 気付いてしまったのだから仕方がない。

 けれど、気付かなければ良かったとは決して言わない。



 屍浪とは――そういう男だ。


「スマンがお嬢さん、ちょいとオッサンの我が侭に付き合ってもらうよ」

「にょーにょにょにょにょにょーっ!」


 余計な言葉は必要ない。

 屍浪の言いたい事とこれから何を行うのかを正確に理解して、頭上の小さなレディは再びおたまとフライ返しをシュバッと構える。ご一緒いたしやす――とでも言いたげに、衣装が迷彩服から任侠映画に出てくるような白い着流しへと早替わり。頬に十字傷のシールを貼るのも忘れない。

 お揃いだねぇと苦笑を浮かべながら、屍浪も太刀の鯉口を切り、


「さて……右腕だけで十秒と持たなかった訳ですが」


 立ち止まり、振り返って。

 触手の大波に頭から呑み込まれる寸前に。


「“全身”となると何秒くらいイケるかね……」



 ◆ ◆ ◆



 同時刻。

 永遠亭の居間にて。


「ところでさぁ永琳、アイツのリハビリって上手くいってるの?」

「……珍しいわね、輝夜が屍浪の心配をするだなんて。明日は雪かしら」


 卓に突っ伏して、煎餅をくわえながら暇そうにダレている蓬莱山輝夜。

 その向かいで永琳は特製フラスコ茶を啜りつつ、主人からの思わぬ質問に対し率直な(そしてかなり失礼な)感想を口にした。ちなみに季節は夏である。


「別にそこまで心配してるってワケじゃないけどさー、私だって一応アイツに助けてもらったし、それに将棋の相手とかしてもらってるし?」

「ふふふ……」


 数時間前、邪魅から『屍浪が拉致られたのじゃー!』と知らされた時こそ少なからず動揺もしたが、あのスキマ妖怪が屍浪をどうこう出来るハズもないと思い至って一気にクールダウン。実力行使とか恋心の暴走とかそれ以前に、初心で奥手な紫と妙な倫理観を持つ屍浪が二人っきりになったところで――紫にその気があったとしても――いつものようなのほほん父娘劇場が関の山だろう。

 まあ、紫と共に暮らすあの女狐の入れ知恵は油断ならないが。

 まさか屍浪が出口を間違えられて大冒険する羽目になっているとは知る由もなく、竹林に囲まれた閉鎖的な世界では平穏な時間だけが過ぎてゆく。


「今は邪魅の妖力をゆっくりと馴染ませている段階よ。基本的には生命維持に重点を置いているし、本格的に身体を変質させる過程はもう少し先になるでしょうね」

「ふーん?」


 例えるなら、氷塊を水で少しずつ溶かすようなもの。

 一度に大量の水を掛けた場合、氷塊は急激な温度変化に耐え切れず割れてしまう。しかし細心の注意を払って一滴ずつ垂らしていけば、後は自壊しない範囲で温度の上昇と融解が始まり、やがては氷塊の全てが水へと戻される。

 それを氷塊ではなく人の身体に当て嵌めようとしている訳だ。

 固体から液体に。

 有形の生身から無形の妖力に――屍浪が本来あるべき姿に。

 方法が方法なだけにリスクは極めて高く、常人ならば身体がドロドロに崩れるか、その前に精神に異常をきたして間違いなく死に至る。元々が妖力だけの存在であり、それを変化させて肉体を構築した屍浪だからこそ可能な治療法なのであった。

 さらに、再妖怪化には道標となる『設計図』が必要となるのだが、


「『設計図』の情報が屍浪の中に眠っているのは分かっていたから、肉体の自己分解を促すついでに刺激して呼び起こす事にしたわ。記憶喪失をぶん殴って治すようなものね」


 身も蓋もない言い方である。

 それにしても――屍浪が意識不明の重体だった時もそうだが、たった一人の男のためにここまで尽力する永琳など輝夜は初めて見る。

 月にいた頃の彼女は非常にドライな性格だった。流れ作業のように患者の治療や薬の研究に没頭する毎日を送り、色恋沙汰などにはまるで興味を示さなかったのだ。

 だから尚更、誰かに付き添って看病する姿が新鮮に思えてしまう。


(大好きなのねー、アイツの事が)


 こう言ってはアレだが、屍浪と永琳が並ぶと年の離れた兄妹か親子に見える。

 確かに長身で整った顔立ちではあるけれど、輝夜からすればボサボサの白髪頭で無精髭を生やした四十代半ばのオジサンだ。しかも二人が出会った当初は人間に化けられない白骨の姿だったらしい。そこからどうして相思相愛の仲にまで発展したのか不思議でならない。永琳の一目惚れだったとしても好みがあまりにぶっ飛び過ぎてる。


「好きな人っていうのは外見で決めるものじゃないわ」

「さらっと心を読まないでよ先生」


 しかしまあ確かに。

 本当に中身のない屍のような男だったら、永琳と邪魅が惚れたり紫や幽香がああも慕ったりはしなかっただろう。ただの師弟関係だと言い張っていたぬえも“あの日”を境に自分の本心にようやく気付いたようだし、彼に憧れを抱く鈴仙もそろそろ危ないかも。

 育ててくれた養父――讃岐造の正体が屍浪である事を輝夜はまだ知らされてない。それでも血の繋がらない“親子”だった間に免疫というか耐性が付いてしまったらしく、一般家庭の娘のように『うちのお父さんってそんなモテるの?』と首を傾げる傍観者的な立場に輝夜はいた。

 好意こそあるにはあるが、断じて恋愛感情ではない――ある意味で屍浪に一番“慣れている”彼女は、この幻想郷でも特に稀有な存在となっているのであった。


「でもさぁ、馴染ませてる段階って事は安静にしてなきゃダメなんじゃないの? ちょっとだけ見てたけど、鈴仙やてゐまで付き合わせて派手に動き回ってたわよ?」

「……そうね、頼んでもじっとしててくれないんだろうなーって私も半分諦めてる。でも良いの。あの約束だけは守ってくれるって信じてるから」

「約束……?」

「あの人、約束してくれたの。何があっても私の所に無事に帰って来るって」

「………………あ、そう」


 恋をすると人は変わるらしいが、いくら何でも変わり過ぎだろう。

 朱に染まる頬に手を当てて言いやがるものだから普段とのギャップが半端じゃなく、同性の輝夜ですら不覚にも見惚れてしまうほどの破壊力が秘められていた。


(愛してるのねぇ……愛してらっしゃるのねぇえホント!)


 あーはいはいゴチソウサマでした、ケッ! と女の子がしちゃいけない顔で煎餅を盛大に噛み砕く恋愛未経験の輝夜。

 醤油味のはずなのに、砂糖の塊にみたいに甘ったるかった。


「無茶してなきゃいいんだけど……」

「ソーデスネー」


 ブラックコーヒーか渋い茶が飲みたい。



 ◆ ◆ ◆



 グジュリ、ジュルリと身の毛もよだつ怪音を立てながら。

 久方振りの食事にありついた醜悪な触手達は、キロメートル単位の長さがあろうかという全身を歓喜に打ち震わせていた。その様子に知性と呼べるものは感じられず、バクテリアか粘菌のように“獲物”を包み込んで一心不乱に貪り続ける。

 何処までも何処までも、途切れる事なく延々と続く板張りの廊下。

 一切の光も出口もないこの異空間に幽閉されてから幾百年――数えるのも馬鹿馬鹿しいと思えるほどのおびただしい年月が、食欲と繁殖欲に支配された思考しか持たない“彼ら”に生き延びるための手段を与えたのであった。 

 今まで本能だけで生きてきた経験から、自分達以外の生物が――糧となる獲物がほとんどいない環境なのだと早々に理解した触手達。そんな彼らが視覚と聴覚を捨てて嗅覚のみに頼る進化の道を辿ったのは、無明の世界に適応するための当然の結果だったと言える。

 たまに落ちてくる獲物の匂いを嗅ぎつけて確実に捕らえ、それがオスの個体ならば純粋に『エサ』として喰らい、メスの個体ならば同胞を増やすのに必要な『苗床』として利用する。そうやって暗闇の中でも命を繋ぎ止め、仲間の数を着々と増やしていった。

 だが、どれだけ進化しようと食料が乏しい事に変わりはない。

 そういう意味では、今日は滅多にない大漁だった。

 痩せているが美味そうな匂いのするオスが一匹に、まだ育ち切ってないメスが二人。一日にこれだけのエサが落ちてくれば、触手達だって我を忘れて狂喜乱舞する。



 だから――という訳ではないけれど。



「……『火塵剥命・群蛍』」


 耳を捨てたが故に怒りを押し殺したような冷たい声に気付かず、目を失ったが故に青とも黒ともつかない色に染まる火の粉に気付かない――気付けない。

 ただ、順番を待つ触手の何本かはその“臭い”を確かに嗅ぎ取っていた。

 髪の毛が燃えたような。

 死体の肉が焼けるような。

 灼熱地獄を彷彿とさせ、亡者の呻きまで聞こえてきそうな臭気。

 何か良からぬ事が起こるのでは――とようやく身の危険を感じ始めた触手達だがもう遅い。廊下中に群がる蛍のような鬼火の残滓は既に『陣形』を整えており、これから起こるであろう惨劇を想像させるには十分なおぞましさが込められていた。

 つまりは、


「燃え尽きろ」


 数ミリにも満たない大きさの火の粉。

 その一つ一つが野球ボール大にまで一気に膨れ上がり、さながら粉塵爆発のように破裂が破裂を呼びあらゆるものを呑み込んでいく。音すらも吹き飛ばす圧倒的な火力と衝撃は窓のない密閉空間を何処までも舐め回すように突き進み、溢れかえる触手達を赤熱の牙と爪で蹂躙していった。

 悲鳴はない。

 苦悶の表情もない。

 あるのは命を焼き尽くされた異形の亡骸ばかり。

 それと、


「………………っぶはー、死ぬかと思った」

「にょー」


 全身に巻き付いた化物ミミズの死体を外しながら屍浪は大仰に息を吐き、頭に陣取るチビイナバも付着したヌルヌルネバネバの粘液を手で拭い落とす。

 あーやれやれとアンニュイな表情を浮かべる二人と、屍浪の胸に抱かれて目を回すほぼ全裸のネコミミ少女。外傷らしい外傷は見当たらず、被害といえば衣服を溶解液で穴だらけにされた事と、能力を使った所為で身体が鉛みたいに重くなった事くらいか。


「んー……やっぱ“全身変化”となると数秒どころか数瞬が限界か」


 壁に背を預けてずるずると崩れ落ち、屍浪はぼんやりと独りごちる。

 強引に能力を使用した弊害もあるのだろう――とにかく身体がだるい。放った弾幕自体は線香花火のような極小規模だが、それに幻覚の効果を相乗させて精神を焼き殺すとなると今の半妖じみた状態では流石に厳しいものがある。ぶっちゃけしんどい。


「……まあ、今回は良しとすっかー」


 少女を助けるという目的は果たせたのだし。

 いい加減そろそろ戻らないと邪魅が暴れ出しそうな気がする。紫に詰め寄って何が何でも居場所を吐かせようとする光景が容易に想像出来てしまう。根っこでグルグル巻きにして逆さ吊りにしたりそのまま振り回したりとかそんな感じの。


『ええいしぶとい奴め! さっさと屍浪の居場所を教えんか!』

『だから私も探してるんだってばー! いいから早くこれ止めてー!?』


 ……奇しくも、その予想は当たっていたりする。

 そんな相棒や永琳がいる場所に、これからチビイナバや女の子(ネコミミと二又のシッポ付き、しかも見ず知らず)と一緒に戻らなきゃならんのだ。少女がすっぽんぽんな理由を誤解を解きながら説明するのにものすごい時間が掛かりそう。何があっても必ず帰ると約束した手前逃げる訳にもいかず、屍浪としてはもう項垂れるしかない。

 と、その時、


「…………にょっ!? にょにょーっ!」

「アダダダッ!?」


 チビイナバに思いっ切り髪を引っ張られた。

 突然の暴挙に屍浪も驚き、


「コラお嬢さん! オジサンの髪の毛をそんな雑草みたいに引っこ抜こうとするんじゃありません! ハゲたらどうすんの!?」

「にょーっ!!」


 アレ見れアレ! とチビイナバは廊下の先を懸命に指差す。

 果たして、其処にいたのは。


「……ウソだろオイー」


 廊下の左右に並ぶ引き戸。

 その全てから見覚えのあり過ぎるウネウネが。

 倒したと思ったら実はまだまだいらっしゃいましたという展開――映画などではありがちなオチだが、実際に味わってみると恐怖を通り越して呆れしか残らない。

 屍浪の行動は迅速だった。

 着流しの一部やらその辺で拾った帯やらを使ってネコミミ少女を背中に固定し、武器になりそうな道路標識や鉄製スコップなどを足元に掻き集める。


「……準備は良いかねお嬢さん」

「にょっ!」


 フライ返しとおたまを卒業したチビイナバは金槌とノコギリを。

 太刀をくわえた屍浪は『進入禁止』の標識を斧のように構えて。

 何とも馬鹿馬鹿しい理由から始まった大冒険の、新たな戦いのステージへと身を躍らせるのだった。



 ◆ ◆ ◆



 一方、その頃。


「橙! 何処にいるんだ返事しておくれ! ちぇーん!」


 八雲家では金色の台風が吹き荒れていた。

 押入れは開け放たれて布団がでろんと畳にずり落ち、ごみ箱は引っくり返されて丸められた書類の書き損じがあちこちに。どうやら床下や天井裏までくまなく調べ回ったらしく、狐火で強引に開けた大きな穴がモグラ叩きのように散見する。

 他の部屋も似たような酷い有様だった。

 何なのだろう。何なのだろうかこれは。

 邪魅に文字通り振り回されて帰ってきたら家が廃墟みたいになっていたとか、紫のそれなりに長い人生でも初めての経験だ。


「えーと、藍? 何してるの?」

「ああ紫様、橙を……橙を見かけませんでしたか!?」

「い、いえ見てないけど……?」


 ここまで慌てふためく藍も珍しいし面白いけれど、さっきまでの自分もこんな風だったのかと思うと恥ずかしさが込み上げてくる。


「まさか、橙までいなくなっちゃったの?」

「そうなんです。洗濯物を畳んでくれてたはずが気付いたらいなくなってて!」

「仕事に飽きて遊びに行っちゃったとか……」

「紫様と一緒にしないでください!」

「それ酷くないっ!?」


 従者からのあまりにあまりな言動に愕然とする紫だったが、そんな彼女を尻目に、手掛かりがないと判断した藍は別の部屋へとすっ飛んでいく。

 恋は盲目――とはちょっと違うか。

 どちらかというと凄まじい親馬鹿だ。

 ぽつんと一人残された紫は、部屋の惨状をぐるりと見渡して、


「これ……誰が片付けるのかしら」


 とにかく、橙が見つからない限り藍は仕事をしてくれないだろうし、そうなると紫の管理者としての業務にも支障をきたしかねない。食事なんかは人里や永遠亭や白玉楼に行けば何とかなるとしても、あの様子だと思い余って『橙がいなくなったので死にます』とか言いそうだ。


「あーもうっ! 私だっておじさん探すのに忙しいのにー!」


 とりあえず無事な服だけでもタンスに押し込んでおこうと考えた紫は、ぎこちない手つきで適当に何枚か畳んで仕舞おうとしたのだが、


「あら……?」


 タンスの一番下の段には底がなかった。

 代わりにあるのは、見慣れた瞳がうごめくスキマ。

 こんなところに繋げたっけ……? と首を捻る彼女の前に、


「そこどけ紫ぃー!!」

「きゃあああああっ!?」


 鬼気迫る顔の屍浪が白髪を振り乱しながら飛び出して来た。

 何故か頭にちっさなウサギの少女を乗せて太刀をくわえている。さらには拾った覚えのある道路標識まで持っていて、背中には――


「橙!? なんでおじさんと!? と言うかどうして裸なの!?」

「悪いが説明してる暇はないんだ! 来るぞ!」


 来るって何がかしら!? と理解が追い付かない紫だったけれど、屍浪が焦っている理由はすぐに思い知る事となる。コンニチハ――とまるで噴水のように引き出しから溢れる触手の団体さんによって。


「イヤアアアアアッ!? 何これ気持ち悪い!?」

「俺が知るか! お前が閉じ込めてたんじゃないのか!?」

「私も知らないわよー!」

「いいから早く手伝え!」


 そこからはもう――何が何だか、


「ああもうしつっこい奴らだなホント!」

「ちょっとおじさん服溶けてきたんだけど!?」

「それくらい我慢しなさい!」

「うわーん、お気に入りなのにー!」

「にょにょにょーにょにょーっ!」

「『服なんて所詮は飾り』だとさ!」

「そんな男らしい事言ってるのこの子!?」


 収拾困難なワケワカラン状況となり、


「いやー! ヌルヌルが、ヌルヌルが! 境符『四重結界』ぃ!」

「馬鹿お前こっちはグヘァッ!?」

「ああ、おじさんゴメンナサイ!?」


 触手との戦いは熾烈を極め、最終的には――


「――さっきからうるっさあああああああああああああいいっ!! 橙の声が聞こえないだろうがああああああああああっ!!」

「キャー!?」

「ギャー!?」

「にょー!?」


 阿修羅も腰を抜かしそうな形相で現れた藍が特大の狐火をぶちかまし、触手ごと吹き飛ばされて揃いも揃ってアフロになるという形でオチが付いたのだった。

 さっさと終われ。

技名解説コーナー


『火塵剥命・群蛍』(かじんはくめい・むれぼたる)



はい。そんな訳で三十八話でした。

個人的にチビイナバは『ぷちます』みたいなイメージです。

次回はようやく原作主人公ズが登場する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ