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東方妖骨遊行譚  作者: 久木篁
冬期番外編
41/51

特別編 聖夜。夢見る少女と白黒サンタ――中編

はい、タイトルでわかる通りまだ終わりませんでした。


番外の短編と言いつつ三話目まで必要とか我ながら何なのコレ。

「やって来ました博麗神社」


 一体誰に話しているのだろうかこの狂骨は。

 あちこちにプレゼントを渡して回って、次に屍浪が訪れたのが博麗神社だ。

 どうやら此処の巫女は雪かきを面倒臭がっているようで、境内のほぼ全域――社や母屋へと続く道が、ヒザの辺りまで積もった雪ですっかり覆い尽くされてしまっている。

 この辺のいい加減さは紫に似たんだろうなぁと思い、しかし紫の性格が自分に似ている事に気付いて結局俺のせいじゃねぇかと自業自得な屍浪は辟易。

 仕方なく、ずもんずもんと一歩一歩踏み締めて行くのだけれど、


「……あーもう鬱陶しい!」


 四回ほど足を取られたところで耐えられなくなった。

『歩くのが難しいなら浮けばいいじゃない』というのは空飛ぶズボラ巫女の言なのだが、生憎と屍浪は飛ぶのが少しばかり――いや、はっきり言って全く得意ではない。

 翼もないのに縦横無尽に飛べるなんて意味不明だ。

 妖力を推進力に変えるだの風に乗るだの、理屈はまあ分からなくはない。だからと言って、真似をすれば簡単に飛べるという訳でもない。素体が人間である以上、やれる事の限界が少なからず反映されてしまっているのだ。

 妖骨に戻れば軽くなって雪にも沈まなくなるのだろうが、今夜の予定はまだまだ目白押し。こんな事で余計な妖力を使うのも馬鹿馬鹿しい。と言うか疲れる。

 雪まみれになりながらも、どうにかこうにか縁側に辿り着く。


「こんな事なら妹紅も一緒に連れてくりゃ良かった」


 さっき人里で別れたばかりの義理の娘を思い出し、あいつなら一瞬で雪解かしてついでにカイロ代わりになってくれそうだなぁ、とちょっと悔やむ。ちなみに彼女へのプレゼントは女の子らしく朱塗りの櫛と手鏡だったりする。

 修繕の跡が目立つ障子戸を開ければ、八畳ほどの和室の中央にこんもりと盛り上がった布団がある。

 霊夢だけにしてはずいぶんと山が大きな気もするが、さっさと用件を済ませて退散したい屍浪はあまり深く考えない。寝静まった一人暮らしの少女の家に侵入しているという完全アウトな行為についても考えたりはしない。考えないったら考えない。

 事前に書き留めておいたリストから、霊夢の欲しがっている物を抜き出す。


「……えーと? 大根が三十本、人参が二十本、胡瓜と茄子を桶一杯分、ゴボウに山芋にサツマイモに果物多数、魚の燻製と干物その他保存食を諸々、味噌と醤油と砂糖と塩をそれぞれ一樽ずつに特級茶葉を一缶、極めつけに新米を二俵と正月用の餅。どんだけ食糧難なんだよこの神社は――ってかこれじゃあサンタじゃなくて笠地蔵だろうが! いや確かに欲しい物なんだろうけども!」


 起こさないよう器用に小声で叫ぶ不法侵入白黒サンタを誉めるべきか、それとも間近で騒がれても眠り続ける霊夢の図太さに呆れるべきか。

 と。


「――ん……むぅ」

「……っ!」


 布団の中から声。

 驚いた拍子に食材の山が崩れそうになり、それを全身で支えたまま屍浪はダラダラと冷や汗を流す。

 確かに霊夢とは縁側に並んで座って茶をしばくような間柄ではあるが、親しき仲にも礼儀ありだ。まあ仮に霊夢が起きて『……何してるんですか?』と据わった目で聞かれても『頑張って支えてます』としか答えられないのだけれど、万が一、まかり間違って夜這い扱いなんかされたら屍浪の命が明日には終わる。やっぱり処刑人は永琳だろうか。毒殺刑とか解剖刑とかだ多分。


「…………くぅ」


 妙な悟りを開いて辞世の句を考え始めた屍浪を尻目に、布団巫女はモゾモゾと身じろぎしただけで、また静かに寝息を立て始める。


「……早く出よう」


 そうしよう。

 どうにか食材を整理し終えてその場から立ち去ろうとする屍浪だったが、


「――んん?」


 何か、見過ごせないものを見たような気がして巻き戻る。

 視線の先には、買い手がつきそうな赤貧巫女入り布団。食材側に枕が転がっているのでおそらくそっちに霊夢の頭があり、ならば反対側には当然足があるはず。

 では――


「……ひぃ、ふぅ、みぃ、よぅ」


 どうして布団から突き出した足が四本もあるのだろう。

 博麗霊夢は四足歩行生物『WAKIMIKO』に進化(退化?)した!

 んなワケねーべよ。

 失礼だと分かりつつも布団をめくって確認してみれば、予想通りの顔が現れる。


「家にいないと思ったらこっちにいたのかよ」


 博麗霊夢と霧雨魔理沙が。

 しっかりと、抱き合って眠っていた。

 これで二人とも全裸だったりしたらとんでもない事態に発展しそうだが、霊夢も魔理沙もそれぞれ寝間着姿で――姉妹のように見えてむしろ逆に微笑ましい。これを写真に撮って文とか霖之助とかアリスとかパチュリーとかに渡したりなんかしたらわあ面白そう。


「寒いから温め合う――まあ理には適ってはいるか。しっかしこの嬢ちゃん方は、こちとら寒空ん中をサービス残業してるっつーのに……」


 浅く呼吸を繰り返すだけの霊夢はともかくとして、半開きの口から涎を垂らした魔理沙の幸せそうな寝顔を見ていると、微笑ましいが何だか無性に腹立たしくもなってくる。

 そして屍浪の懐には、配っても余りある例の金平糖が――


「……ふむ」



 ◆ ◆ ◆



「――それで、その後はどうなったのさ?」

「ちっちゃくなった魔理沙お嬢ちゃんは大人な霊夢お姉さんの抱き枕になっちゃいましたとさ、めでたしめでたし。五粒くらいまとめて飲ませたから、明日の昼くらいまではあのままだろうな多分」

「あっはははは!」


 諏訪子は膝をバシバシ叩いて呵々大笑する。どうやら彼女のお気に召したようだ。

 そんな彼女も興味本位で金平糖を食べて大人の姿となり、今は喚び出したミシャグジを座椅子にして酒杯を傾けている。

 場所は守矢神社の一画。

 普段は諏訪子が神奈子や早苗と一緒に食事を摂る部屋だ。

 神が使うにしてはさほど広くない室内で、屍浪と諏訪子を含めた四人の――正確には二人と二柱が思い思いに聖夜を過ごす。と言っても、まだまだ仕事が残っている屍浪にとっては休憩のようなものでしかなく、博麗神社での一件を酒の肴代わりに提供しているだけに過ぎない。


「はぁぁ――神奈子様、とっても可愛いです……」

「早苗もあんなに喜んでるし私も面白い物が見れるし、本当に良いプレゼントを持ってきてくれたよね」

「いやあの金平糖はオマケなんだが……。それよりアレ、あのままにしてていいのか?」


 早苗が幼児姿の神奈子で遊んでいる。

 酔っぱらった赤ら顔の神奈子が屍浪から金平糖を奪い取って、説明もろくに聞かないまま豪快に口の中に流し込んでしまったのだ。

 赤いのと青いのとがどれだけの割合で入っていたのかは屍浪にも分からないが、二歳児程度にまで若返ったところをみると青の方が多かったらしい。


「はい神奈ちゃん、頑張って頑張って!」

「うぁぅ――」


 母親みたいな早苗の声援に応えるかのように、踏ん張って立ち上がろうとする神奈ちゃん。だが、背に負った大注連縄が重過ぎて支えられず、そのままごろんっと背中から盛大に引っくり返る。

 流石に神だけあって、転んだくらいで泣き出したりはしない。

 泣きはしないのだけれど、しかし――起き上がれない。

 短い手足をどれだけ懸命に動かしても大注連縄は持ち上がらず、ジタバタジタバタと何もない空間を掻き回すだけに終わってしまうのだ。

 その様子はまるで、


「神奈子っつーより、カメ子だな」

「本人は至って真面目なつもりなんだろうけどねー」

「かぁわいー♪」

「あうー」


 後で怒られないかが心配である。



 ◆ ◆ ◆



 屍浪は金平糖の効果が切れる前に守矢神社を出た。

 逃げ出したと言ってもいい。

 勝手に奪い取って食べたのは神奈子なのだから、彼女に怒られる筋合いはない。ないが、神がどれだけ理不尽なのかを知る屍浪は早々に退散を決め込んだ。

 この忙しい時に面倒事に巻き込まれるのは誰だって御免なのだ。


「……で、お前さんらはこんな場所で何やってんのさね?」

「あっ! 出たな性悪ガイコツめ!」

「こここ、コンバンワです!」


 妖怪の山にほど近い林の中。

 屍浪が偶然発見したのは、妖精達の奇妙な宴だった。

 雪の中を蛍が飛び交うという幻想郷ならではの不可思議な光景に目を奪われつつ、真っ先に寄って来たチルノと大妖精に尋ねる。


「この辺は妖怪も多いから危ないだろうに。それに何だよ、その馬鹿デカイ鍋は?」

「アンタに教えるようなあたいじゃないわ!」

「し、失礼だよぅチルノちゃん! ええとあの――ミスティアちゃんが『冬はやっぱりお鍋だよー』って言って人里から借りてきてくれたんです」

「この季節外れな蛍の群れは?」

「暗いからってリグルちゃんが。綺麗ですよねー」


 ふーん、と大妖精の説明にとりあえず納得する屍浪の腕を、


「……あぐっ」

「イダっ!?」


 いきなり噛みつかれた。

 腕を上げて見てみれば、ぶらんぶらんと食らいついたままのルーミアが。


「……懲りない奴だねお前さんも。前にそれで口ん中火傷したの忘れたのか?」

「ほにゃにめまもみにゃふれんー」


 何言ってるか意味不明なお馬鹿さん。

 それはさておき、改めて――人間がすっぽり収まりそうな巨大鍋を見る。これまた巨大な焚き火の上でぐらぐらと煮えている事くらいは分かるのだが、それ以外は全く様子が窺えない。

 何故ならば、半球形の『闇』がフタのように鍋の上部を覆っているからだ。


「もしかして――闇鍋のつもりか?」

「その通り! よくぞこのあたいの完璧な計画を見抜いたわね!」


 なんでか知らんがチルノが威張る。

 確かにこういうのも『闇鍋』と言う――のだろうか。どうだろう。ちょっと自信ない。でも一応『闇』要素は含まれているようだし、思いっ切り勘違いしながらも何とか理想に近付けようとする努力は評価すべきなのかもしれない。


「あの、ところで屍浪さん。ミスティアちゃんを見ませんでした?」

「夜雀の嬢ちゃんか? いや見てないぞ?」

「……そうですか。材料を入れている間に何処かに行っちゃったみたいなんです。私達の中で料理が出来るのミスティアちゃんだけなのに……」

「でも大丈夫なんじゃないか? もうほとんど出来上がってるっぽいし」


 鶏だしの良い匂いが屍浪の嗅覚を刺激する。もう十分に煮えて食べられそうだ。そういえば、邪魅の庵を出てから何も食べていない。此処で少しだけ御相伴に預かるべきかと割と本気で悩む。

 妖精にたかる狂骨。

 何とも情けない話だ。


「美味そうだなぁ、トリ鍋」

「あれ? 材料は野菜とお魚だけのはずなんですけど……?」

「はい?」


 屍浪と大妖精はきょとんと顔を見合わせて、それから一気に青褪めて同時に鍋を見る。よくよく耳を澄ませてみれば、ほんの微かに『……たぁすけてぇ~』という弱々しい声が鍋を覆う闇の中から!

 アカーン!? と慌てて駆け寄り『闇』鍋の中に腕を突っ込む屍浪。


「わあ何かヌルッとしてる!」

「ミスティアちゃん!? ミスティアちゃーん!?」

「ネギ、白滝、豆腐! ええいルーミアさっさとこの闇を退かせっての何も見えん! ――だからって凍らせてどうすんだチルノ!? シメジ、春菊、サケの切り身、手羽先――手羽先!?」


 どうにか目的の物を掴んだ屍浪が腕を引き抜いて、危うく鶏団子になりかけたミスティア・ローレライがようやく救出される。全身が出汁まみれのズブ濡れ状態ではあったが、のんきに目を回しているだけなので怪我らしい怪我はしてないようだ。

 そして、彼女はとても美味しそうな匂いを放っていた。

 それを嗅ぎ取ったルーミアが一言、


「ねえ。これは食べてもいいみすちー?」

「「ダメッ!!」」

今回はアンケート結果の『神奈子の幼児化』と『闇鍋』です。


普段は一週間くらいかかる文字数を一日でとかやっぱ無理でした。


今日はクリスマスイブ。明日がクリスマス。

だから明日まではクリスマス企画と言い張れるんですよー(遠い目)


なんとか明日で番外編を終えて第五章に行きたいと思います。

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