第四話 悲壮。生者の責任
「心拍、脈拍、脳波に体温に呼吸、どれもこれも何もかもが計測不能で無反応。外見が人骨そのまんまだからあまり期待はしてなかったけど、筋肉組織もない状態でどうしてあれだけ飛んだり跳ねたり走り回ったり出来るのよ……」
「んな事ぁ俺の方が知りたいわ」
フラットライン――心停止状態しか表示しない計器類に呆れる永琳に対し、寝台の上、独り言めいた疑問を律儀に拾い上げた『彼』は緩慢な動作で身を起こしながら言い返した。今朝から進展のない実験を延々と繰り返してきたせいか、二人の口調には揃って若干の疲れが滲み出ている。
二人が居るのは壁と床が純白のタイルで覆われている空間だ。ドアプレートに『八意永琳』と刻まれている事からも分かるように、此処は永琳の研究室――頭脳の練磨研鑽を行う英知に満ちた異界とも呼べる彼女の居城であった。
室内には『彼』の知識にはない用途不明の機械類が所狭しと並べられていて、膨大な演算結果を記したデータ用紙を延々と吐き出し続ける。フラスコに入れて熱せられた薄緑色の液体から煙が漂うが、大型の換気扇が作動しているため不快な臭いは感じない。
「実験が終わったんならもう着替えても良いか? こういう服は落ち着かねぇんだ」
真っ青な検査着の襟を摘んで『彼』は不満を漏らす。
着慣れていない事も相まってか、洋服然とした異国の衣装はどうにもしっくり来ない。そもそも着る必要があったのかどうかすら怪しい。そういうものなの、と永琳は実験前に語っていたが、着流しだろうと検査着だろうと実験の結果は変わらなかったんじゃなかろうか、と今更ながらに『彼』は思う。
「ハァ……。まあいいわ、今日はこれくらいで終わりにしましょう。私も昨日の疲れがまだ残ってるし、あんまり簡単に解明してもつまらないものね」
そう言って、カルテを挟んだクリップボードを机に置いた永琳は、壁際にズラリと並んだ薬品棚から空のビーカーを二つ取り出し、
「お茶淹れるけど、貴方も飲む?」
「淹れてくれるっつーなら飲みますけどね、その手に持っている物を何に使う気だ? 明らかに湯呑みじゃねぇだろソレ」
「大丈夫よ、ちゃんと洗浄して消毒もしてるから」
問題はそこじゃねぇよ……、と反論しつつも諦め気味に呟く『彼』に、フラスコを満たしていた薄緑色の液体をビーカーに注いで手渡す永琳。
薬品らしい匂いはしない。一口飲む。普通の緑茶だった。
それにしても――
「風情もへったくれもない茶だな」
「淹れてもらっておいてそういう事言わないの。どれで淹れようが何で飲もうが、お茶の味は変わったりしないわ。変わるとしたら、それは飲む人間の心次第よ」
「人間じゃなくて妖怪だよ、俺は。あと、一瞬良い言葉っぽく聞こえるけどアンタの場合は単に横着してるだけだよな、間違いなく」
どうやらこの八意永琳という女性、自身の研究と知識欲以外の事柄に関してはかなり大雑把で奔放な性格であるらしい。
まあ、偉そうに文句を言ってはみたものの、自分が急須を使えば美味い茶を淹れられるのかと問われればそういう訳でもないので、『彼』は大人しくお茶もどきな薄緑色の液体を飲む事にした。
「……?」
二口、三口と啜っていたが、奇妙な視線を感じて動きを止める。
何だろう。殺気ではない。強いて言うなら――好奇の目か。
悪戯を敢行した無邪気な子供のような、一体どうなるんだろう的な感情の波。
外に通じる扉は閉まっている。窓らしきものもない。昨日今日出会ったばかりの短すぎる付き合いではあるが、永琳が第三者に監視されるような部屋を好む人間ではないと確信出来る。従って必然的に、突き刺さってくるのは永琳本人の視線という事になるのだが、
「………………」
「………………」
寝台と机にそれぞれ腰掛けて、黙って互いに見つめ合う。
永琳が茶に口を付けた様子はない。それどころか、まるで忌避するかのように手元から遠ざけている。
それが意味するのは――
「やっぱり……と言うより、この場合は当然の結果かしらね」
「……何か入れやがったな? 毒か?」
つまりは、そういう事だろう。
不思議と怒りは湧かない。
永琳の口ぶりからして自分には効果がない代物のようだし、せっかく手に入れた実験体を早々に破棄する真似はしないだろうと考えたからだ。
タチの悪い冗談。
その一言で片付けてしまう自分はやはり妖怪なんだなぁと痛感する。
「それほど危険なものじゃないわ。人間や並大抵の妖怪だったら内臓が溶けて数日はもだえ苦しむタイプの薬をほんの少し……ね」
「十分ヤバイっての。骨しかなくて良かったと心底思うぜ。つか善意で協力してやってる相手に興味本位で一服盛るか普通?」
ゴメンナサイネ、と全く反省する様子もなく微笑む永琳。
そんな彼女に見せ付けるように『彼』は毒入り茶を飲み干し、些細な仕返しのつもりでそのままガリゴリとビーカーを噛み砕いて飲み込んだ。
「――にしても此処、アンタ以外誰も居ないのな。研究所って聞いた時、俺としてはもっとこう……アンタが高い所から命令して、その他大勢が働き蟻みたいにこき使われてる感じのを想像したんだが」
「貴方の中で私のイメージってどうなってるのよ……」
探究心が暴走しかけてるちょっとアブナイ人、とは口が裂けても言えない。裂ける肉などありはしないが。
「私しか解析出来ない研究も多いから、無駄に所員を常駐させてもやってもらう仕事がほとんどないの。大型の機材の搬入とか、どうしても人手が必要な時しか召集しないわね」
……寂しくないのだろうか?
「もう慣れたわ」
医術に加えて読心術も持ち合わせているのか、無言の『彼』の問い掛けに永琳は素っ気なく答えた。
「それに、全く誰も来ないって訳でもないから平気」
「こっちにゃ強がりを言ってるようにも聞こえるんだがねぇ……ん?」
永琳から視線を外し、扉の方に注目する。
相変わらず、金属製の扉は固く閉ざされていた。
しかし、
「どうかした?」
「いや? アンタの名前を呼んでいるような気がしたんだが……」
気のせい――にしては妙にはっきり聞こえた。
「防音も完璧だから、余程の音量じゃないと室内にまで入ってこないはずよ?」
「だよなぁ。だとすると今のは……?」
もう一度、今度は聴覚に全意識を集中して耳を澄ます。
――――…………まああああああぁぁぁぁぁぁ…………
「『ま』ぁ?」
「え?」
意味不明な単語が耳に飛び込んで来た。加えて微かに、スタタタタ――と此方に向かって来る足音も。
何なのだろう、何なのだろうか。
一体何がやって来るというのか。
――……おおぉぉぉねえぇぇぇぇぇ…………
地獄にひしめく亡者の呻きような。
夜な夜な呪詛を撒き散らす鬼女のような。
聞く者の頭蓋の内に響く声。
明らかにただ事ではない。
スタタタタ――が、ズドドドド――に変わっている。
思わず永琳と顔を見合わせる。
聡明な彼女も感付いたのか、黙ってコクリと一つ頷くと、金庫に預けてあった太刀を取り出して『彼』に投げ渡す。永琳には危害を加えない事を証明するために『彼』が自分から提案したのだ。
永琳を背中に隠すように腰溜めに構えて鯉口を切り、居合いの体勢を取る。
そして、扉が爆発したように破られると同時に。
駆け出した『彼』は侵入者の首筋目掛けて白刃を抜き放ち――
「永琳お姉様あああぁぁぁぁぁっ!!」
「んなぁ!?」
飛び込んで来た侵入者が泣き腫らした顔の少女である事に驚愕し、
「っぶねぇ!!」
ギリギリの所でどうにか軌道を逸らし、近くにあった椅子を頭から両断した。
◆ ◆ ◆
真っ二つになって宙を舞う椅子に驚く暇もなく、永琳は突進してきた少女に押し倒された。勢いのまま床を滑り、壁に頭をぶつけてようやく止まる。
「お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様」
永琳の豊かな双丘に顔を埋める少女。
その口から漏れるのは、嗚咽を含んだ『お姉様』の連呼。押し寄せる単語の群れに、永琳の頭は既にゲシュタルト崩壊を起こしていた。お姉様って何だっけ?
(そう言えば、この子に連絡するのを忘れてたわ……)
肉体面と精神面の両方で痛む頭を抑えながら永琳は上体を起こす。
危うく斬り殺すところだった白骨は、太刀を杖代わりにして肺もないのにゼェゼェと荒い呼吸を繰り返していた。その一方で、斬り殺されかけた当の本人は、
「ホンドにご無事で良かっだでずぅ。死者が出たと報告を受けた時は生きた心地がじまぜんでしだよぅ。お姉様が居なぐなっだら私はこの先何を支えにして生きていげばいいのですがぁ」
白骨妖怪なんぞそっちのけで号泣している。
「月夜見、心配してくれてたの?」
「当たり前です!」
ガバッと顔を上げる月夜見。どうでもいいから鼻水拭きなさい。
「昨日は不安で不安で夜も眠れなかったです! そりゃあお姉様が妖怪に後れを取るなんてちっとも思ってませんでしたよ? でもでも、不測の事態が起こって万が一もしかしたらって事もありますし、そう考えたら居ても立ってもいられなくなって、なって……!」
そこまで言って堪えきれなくなったのか、顔を歪めて再び胸に埋める。
こんなにも自分を慕ってくれる可愛らしい妹分。
永琳も感極まり、その艶やかな黒髪を撫でてやろうと――
「ウヘヘ……まぁた育ったようですねぇ……」
……揉んでいる。
モミモミと、揉まれている。
どこをとは言わないが、妖怪とはいえ異性が同席している状況で決して揉まれてはいけない箇所を、現在進行形でこれでもかとモミングされている。
「………………」
永琳は伸ばしかけた手を引っ込めると、引き攣った笑みを浮かべながら、何処からともなく禍々しい色の液体が充填された注射器を取り出して、
「てい♪」
「あふん☆」
月夜見の白磁のようなうなじに思いっ切り突き刺した。
一瞬ビクリと痙攣して動かなくなる破廉恥少女。それでも鷲掴みにしたままでいる執念が狙われている立場としては恐ろしい。
引っぺがし、床に転がして、乱れた着衣を整える。
「とんでもなく面白ぇ嬢ちゃんだな。キレーで頭良さそうな顔してんのに勿体ねぇっつーか何つーか……」
月夜見の頬を指で突きながら、白骨が呆れ声で言う。
確かに彼の言うとおり、この白衣を着た少女は永琳と比べると多少見劣りはするものの、それを差し引いても絶世・稀代と称されるほどの美貌と頭脳を併せ持つ才媛なのであった。人望もあるし、常識や古びた固定観念に囚われない発想も出来る――永琳が信頼する数少ない人物の一人でもある。
まあ、その才能も美しさも信頼も、百合な性癖のせいで台無しになっている訳だが。
「で、良いのか? このまま寝かせといて。幸せそうな顏で白目剥いてんぞ」
「そんなに強い薬じゃないから大丈夫、そのうち目を覚ますでしょ」
もう何度も打ち込んでいるから抗体も出来ているだろうし。
「……それより、ちょっと付き合って欲しい所があるのだけど」
「あん?」
時計を見る。
丁度、式が始まった頃だ。
「そりゃあこの国に居る間はアンタに付き従うつもりだが、何処へ行こうってんだ?」
何処へ?
そんなものは決まっている。
壁に掛けておいた黒のワンピースを手に取り、永琳は言う。
「墓参り――よ」
◆ ◆ ◆
その丘は、国の中で唯一自然が残る場所だった。
そびえ立つビル群や、外周をぐるりと取り囲む防護壁まで一望出来る。
丘の中央に陣取るのは、巨大な自然石を用いて造られた慰霊碑だ。鏡のように光を反射する表面には、命を落とした者達の名前が何行も刻まれている。最後尾の、数名分の名前だけがまだ新しかった。
喪服に身を包んだ一団が慰霊碑の前で列を成していた。二十人以上いるが、女子供がほとんどで男は数える程しかいない。
皆一様に沈痛な面持ちで手に手に弔花を携え、一人、また一人と、無言のまま献花台に花を並べていく。
その葬列を、
「あの人達は、邪魅に殺された兵士達の遺族なの」
少し離れた所から、着流し姿の『彼』と黒のワンピースに着替えた永琳は眺めている。
永琳の隣に立つ『彼』は目深に被ったニット帽と襟巻きで顔を隠し、さらに薄手の手袋で骨を覆い、太刀は布を巻いて腰に差していた。
「……行ってくるわ」
永琳が花束を持って葬列に参加する。
部外者である『彼』は、黙ってその小さな背中を見続けた。
永琳に気付いた遺族の一人――おそらく遺族の中では最年長の、白髪が目立つ女性が近寄って話し掛けて来た。声までは聞こえてこない。もう少し意識を集中すれば聞こえてくるのだろうが、そこまで興味を持てる内容とはとてもじゃないが思えなかった。
唐突に、永琳が白髪の女に頭を下げた。
慌てたのは女の方だ。賢者に頭を下げられるとは予想もしていなかったのだろう。謝る必要はない、と説得している風にも見える。
顔を上げた永琳は献花台に花束を置き、慰霊碑の前で膝をついて瞑目した。
そんな彼女に憎しみや恨み辛みを吐き出す者は現れなかった。
「彼らは、私が殺したようなものよ」
永琳が呟きを漏らす。
既に葬式は終わり、丘には二人以外誰の姿もなかった。
滲み出るのは後悔と、自身に対する怒り。
「最初に森に入ろうと言い出したのは私なの。私がもう少し慎重だったら彼らが死ぬ事はなかった」
「……そうかい」
一言だけ簡潔に返して、『彼』は空を仰ぎ見る。
灰色に染まり、今にも土砂降りの雨が降り出しそうな気配だった。
「彼らには大切な家族がいたわ。可愛い子供がいて、帰りを待つ奥さんがいて、共に過ごした両親兄弟がいて、愛する恋人がいた。私はその何十人もの幸せを奪ったのよ!」
「………………」
『彼』は答えない。
空を見上げたまま、永琳の話に耳を傾けるだけだ。
「なのに私はこうしてのうのうと生きてる! 何故!? 調査隊を出せと進言した私が、森に入ろうと言い出した私が、人殺しである私ごときが! 他人の幸せを犠牲にしてまで生き延びなければならない理由が何処にあると言うの!?」
結局のところ永琳は、自分のせいで誰かが死んだ事に耐えきれなくなっているのだ。
冷静沈着に、気丈に振る舞っていても。
天才と称され、賢者と崇められても。
八意永琳とて、か弱く脆く儚い女の一人である事に変わりはないのだ。
だから。
だから『彼』は。
「バッ――カバカしい」
そう一蹴し、バッサリ切り捨てた。
「なっ!?」
「さっきから黙って聞いてりゃあ何だ? ギャーギャーギャーギャー喚き散らしてるだけじゃねぇか。肩を抱いて慰めてほしいのか? それとも『そうだ、お前も死ねばいい』と後押ししてやりゃあいいのか? ああ馬鹿馬鹿しい、ホンットに馬鹿馬鹿しい」
呆ける永琳に、暴言を突きつける。
「くたばった連中がアンタの耳元で恨み言でも吐いてやがんのか? その場に一緒にいたはずの俺にはちっとも聞こえねぇぞ? 花を供えに来た奴らが口を揃えてアンタに『詫びて死ね』とでも言ったのか? 皆アンタが石碑の前で跪いているのを見て泣いてただけじゃねぇか。死ねとか償えとか、一言も言ってねぇ。全部アンタの勝手な被害妄想だろーが。そんなのは自責の念でも何でもねぇよ。そいつぁな――」
それは――
「ただの、生者の傲慢だ」
「――――っ!」
泣いたところで罪は消えない。悔いたところで生き返ったりはしない。
死んだ赤の他人のために何かをするなどという行為は、己の後ろめたさから来る自己満足に過ぎない。
永琳の膝から力が抜け落ち、その場にへたり込んでしまった。
顔を俯かせて、肩をふるふると震わせる。
「じゃあ……じゃあどうすればいいのよ! 償う事も許されない私は、一体どうすれば自分を許す事が出来るというの!?」
滴り、大地を濡らすのは、頬を伝う大粒の涙。
「んなモン決まってる」
『彼』はしゃがみ込み、永琳と視線の高さを合わせて。
「俺のせいにすればいい」
言い切った。
「俺がいたから調査しようと言った。俺がいたから森に入ろうと言った。俺がいたから奴らが死んで、俺が助けたから生き残って苦しむ事になってしまった。そう考えてしまえばいい。永琳サン――俺にはアンタを救う事が出来ない。だけど敵になる事は出来る。俺を憎め、俺を恨め、俺を蔑め、俺を嫌え。濁りきった感情なんざさっさと吐き出して、悪い俺に全部ぶつけてしまえよ」
「貴方は……貴方はそれで平気なの!? 本当なら何の関係もない、私と私に向けられるはずの怨嗟と憎悪と殺意を全て背負って生きていく事が――地獄だとは思わないの!?」
思わない。思えない。
何故ならば。
「おい、おいおいおい永琳サンよ。アンタには、俺が優しい神サマか偽善的な人間にでも見えてるのか?」
ニット帽を脱ぎ、襟巻きと手袋を外して、暗い眼窩と白い骨を露わにする。
妄執と未練の成れの果て――狂骨。
「ご覧の通り、俺は中身がスッカスカで空っぽな死体の寄せ集めだ。たとえ押し潰されそうな地獄であっても、妖怪の俺は最初っから、それを苦痛に感じる立派な心なんざ持ち合わせちゃいねぇんだよ」
ぽつりぽつりと、とうとう雨が降り始めた。
見る見るうちに激しさが増して、永琳の涙の跡を洗い流していく。
濡れネズミと化した二人は動かない。顔を伝う水滴を拭おうともしない。
「どうしても誰かのために罪悪感を背負いたいってんなら、常に笑顔で居続けてくれ。誰が死のうが何が起きようが、全部俺のせいにして、罪深いと考える自分の心にフタをして笑顔を見せ続けてくれ。さぁ立て、立って笑いなよ八意永琳。アンタにゃあ――」
笑顔が、一番よく似合うんだから。
そう言って伸ばされた右手を、顔を上げた永琳は黙って見ていた。
やがて、おずおずと、
「頼っても、いいの? 任せても、いいの?」
「いいも悪いも、そもそも恨まれたり憎まれたりするのは妖怪の俺の専門分野だろーが。アンタが好き好んで欲しがるような素敵なモンじゃねぇんだよ。……だからさぁ、敵である俺に任せなさい。アンタの痛みくらい、俺が背負ってやるから」
その言葉に。
永琳は差し伸べられた手を握り返して。
泣いているような、けれど笑っているようなくしゃくしゃの顔で、柔らかで温かな涙を流して、一言。
「……ありがとう」
心の底からの、感謝の言葉を述べたのだった。