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謁見

「お主が召喚に応じてくれた勇者か」


異世界に召喚され、目が覚めて真っ先に連れてこられたのがこの謁見の間。

正面には玉座に腰掛けた男がいる。まず間違いなく国王だろう。

長く伸びたヒゲに王冠、そしてやたら高そうな赤いコートを着ている。

その隣には補佐官らしきおっさん、おれの隣には剣に手をかけている騎士がいる。


「違う」


完結に答える。


「貴様、国王になんたる口のきき方だ!」


俺の隣にいる騎士が怒鳴った。


「召喚に応じてなどいない、気絶して目が覚めたらここにいた。それに勇者?勇者ごっこなら十年以上前に卒業した」


「もう一度だけ忠告してやる……口の利き方に気をつけろ」


騎士が権を握り居合のような姿勢をとる。

俺の記憶が正しければ騎士が持っている西洋剣は重量に任せて切るはずなので居合には向かないはずなんだがな。


「しるか、俺はお前らに誘拐されたも同然なんだよ。なんでそんな奴らに敬語なんか使わなきゃならん」


正直なところ寝起きというのも、夏まで内定が出なかったというのもイライラの原因なのだがこの場では伏せておく。

伝えある必要はないし、伝えたところでどうなるわけでもない。


「貴様……」


騎士の殺気がやばいことになっている、が気にするつもりはない。


「なんだ?俺を殺すのか?どうぞご自由に」


「なに……?」


俺の挑発に騎士の殺気と動きが止まる。


「貴様……私がやれないと思っているのか……」


「いや?やったらやったで、あんたもこの国もただじゃすまないと知ってるだけさ」


嘘です、知りません。

ただの憶測に過ぎないけどどうなるか、ある程度予想出来るだけです。


「言ってみろ……」


騎士が忌々しそうに声を搾り出す。


「まずさっき国王は俺に『召喚に応じた勇者か?』と言った。つまりそれはこの国、もしくはそれ以外の国が単独か合同で勇者召喚でもやったんだろう」


ここで国王に目をやる、がその表情からは何も読み取れない。

俺の無礼な口の利き方にも、騎士の軽率な脅しにも何も言わなかった事に疑問を持たないわけではないが今は話を進める。


「これは推測に過ぎないが、この世界の人間では手に負えない事態が起こったので召喚を行った。

そしてそれは結構な代償が必要なんだろう。どうだい国王」


まだだんまりを決め込む国王に問いかける。


「間違いではない」


国王はここに来てようやく言葉を発したが声からも感情は読み取れない。

これでも人の声色や顔色を伺うのは得意な方なんだがな……。


「そうかい、で本題だ。結構な代償が必要、そして勇者という救世主の召喚なんて物を隠し通せるとは思えないからな。ある程度情報を握っている人物なら知っているだろう。

さて、そこでもしあんたが俺を殺したらどうなるかな?」


今度は騎士に問いかける。

先程から俺の言葉遣いに対してイラついている様子だがそこは無視。


「……どうなるというのだ」


「かんたんだよ、あんたは勇者という救世主を殺した大罪人として家族もろとも極刑だろうね。

それにこの国だってむざむざ召喚した相手を無礼だからという理由で殺してしまった国として悪評は瞬く間に広がるだろうね。

それを隠そうとすると今度は勇者召喚失敗、代償はそのまま消失、資源を無駄にしただけで終わるわけだ。

これまた悪評は広がる。つまりあんたが俺を殺したら……この国はおしまいかな」


さて、嘘五割ハッタリ四割真心一割の俺の意見は騎士や国王に届いたのか。あとは祈るばかりだ。


「ふむ、まずこちらの数々の非礼を詫びさせてもらおう」


国王が立ち上がり頭を下げた。それを見て補佐官らしきおっさんと騎士は目を丸くする。

騎士はすぐに何か言おうとしたが国王に睨まれて黙った。


「詫びる程度で住んだら刑罰は必要ないだろ、かりにも一国の主なんだからそれくらいわかるだろ」


謝罪された程度で許すつもりはない、というかここで許すのはだいぶまずい。


「では……私が死ねば許していただけるか」


そう言うと騎士が鎧を脱ぎ捨て剣を自分の腹につきつける。


「お前が死んで俺に何の特がある、お前が命を絶って俺が手に入れるのはいらない罪悪感と後味の悪さだけだ」


この言葉に騎士は苦虫を噛み潰したような表情で剣を鞘にしまった。


「で、ひとまず俺からの要求は放置だ。なんの要件があって勇者を召喚しようとした」


あくまで俺を召喚したのはなぜだ、とは聞かない。

そう聞くと俺が勇者ですと認めることになってしまう。


「実はこの世界には魔族というものがいてだな……」


国王の話は全てテンプレ通りだった。

人間と同格の知能を持ち合わせ、魔法も使えて身体能力も高い生物、魔族が近年勢力を拡大している。

その理由は魔族の王、魔王が現れたからだ。

対抗策として軍隊を投入したが魔王には歯が立たなかった。

なにかいい対抗策はないかとあらゆる文献をあさると勇者に関するお伽話を見つけた。

そこで魔法が盛んなこの国の総力を尽くして勇者召喚を行った。結果俺が現れたということらしい。


もう……何から突っ込んでいいやら。

異世界というのは風景とか見たら信じざるを得ないからいいとして、剣と魔法のファンタジー世界で勇者様と魔王様の戦いと……絶対ろくなもんじゃない。

俺の本能がそう言っている。

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