(31-40)やわらか/痛み/好き/今昔/渇き/浪漫/季節/別れ/欲/贈り物
「文章修行家さんに40の短文描写お題」(http://cistus.blog4.fc2.com/ )さんよりお題をお借りしています。
/基本のルール:お題に沿って65文字以内での場面描写
31. やわらか
陽に干してふっくらしたタオルに娘は片頬を埋める。
西日に照らされる頬に浮かぶ幸せそうなえくぼは、洗濯物をたたむ私の心を解してくれる。(65文字)
32. 痛み
小ゾウが振った尻尾に運悪く打ち落とされた蜂は、怒って小ゾウの鼻面を刺しに刺した。
顔を腫上らせた小ゾウは泣き、蜂は我に返って慌てた。(65)
33. 好き
じっと僕を見る瞳。おや? と思いつつ抱き上げると赤子は笑い声をあげる。
僕ははにかんで友人夫婦を見た。
「人見知りするんじゃなかった?」(65)
34. 今昔
夕暮れには門に暖かな灯が燈る。
客をもてなす仲居達の声、厨房の慌しさ。
懐かしい記憶は現実の静寂に呼び戻され、女将は最期の灯を落とす。(65)
35. 渇き
ついに食材も底をついてしまった。こうなればもう水で空腹を紛らわすしかない。
蛇口を捻って私は呆然とする。うそ、水道も止められている!(65)
36. 浪漫
初めて入った蔵で少年は宝の山を見た。
「全て譲る」
背後に立つ祖父が言う。
少年は感嘆のため息をこぼし、古びた模型飛行機に手を伸ばした。(65)
37. 季節
川でふたり、笹船を浮かべて遊んだのは幼い夏の日のこと。
今は凍えた川の前、娘と青年はぬくもりをわかちあうように口づけを交わしている。(65)
38. 別れ
蜜月は去った。男は飛立ち、娘は嫁いだ。互いの心に恋慕の情を残したまま。
再会を望むには時代が悪く、男の無事も娘の願いも煙に隠された。(65)
39. 欲
三時のおやつに唐揚げをほおばる少年はスナック菓子にも手をのばして呟いた。
「母さんに夕飯焼肉かすき焼きにしてってメールしようかなぁ」(65)
40. 贈り物
月日は流れ、二人はそれぞれに平穏を手にした。
ふと懐かしんで文を出したのはかつての娘。届くかは定かでないが、文には笹の葉を添えた。(64)