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時間旅行  作者: 蛇蝎
6/6

 晴れ晴れとした気分で、一歩をスキップするように弾みながら踏み出した私は、長い長い時間旅行を終えて、元の時間に戻ってきた。

 

 窓の外の光はまだ白く、鳥は囀り穏やかな朝を彩っている。


 時間は間違いなく平等に進んでいる。



 ──ふわりと。

 肩から、何かが落ちる。

 背中から、何かが落ちる。

 胸から、腹から。


 すべてがゆっくりと浮かび上がっていく。

 私の身体は、確かに軽くなった。

 何かを背負っていた両肩から、ふいに何もなくなった。指先の血の重みすら、感じなくなった。

 長い間背負っていた、あの重み。

 知らぬうちに脳を、胸中を蝕んでいたあの重み。


 それらから、ようやく解放された。


 ──ようやく、だ。





 飛び立とうとした私を、ニュートンの法則が例外なく引いていく。

 

 足の指先のほうへ。


 地の底のほうへ。




 世界の音が、遠くなる。


 窓の外の鳥の声が、薄くなる。


 朝の白い光が、まだそこにあるはずなのに、なぜか少しずつ、霞んでいく。

 

 ──ああ、と私は思った。


 時間旅行は、終わったのだ。

 長い旅だった。

 私の人生を、もう一度何十年も歩いてきた。


 たくさんの人に会った。

 たくさんの場所を見た。

 たくさんの「明日」を生きた。

 

 ──この、ほんの一瞬のうちに。


 私は、ゆっくりと目を閉じる。

 最後に思い浮かんだのは、母の手の感触だった。

 あの大きくて柔らかい温かい手。


 あれだけは、今でもはっきりと覚えている。

 

 

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