終
晴れ晴れとした気分で、一歩をスキップするように弾みながら踏み出した私は、長い長い時間旅行を終えて、元の時間に戻ってきた。
窓の外の光はまだ白く、鳥は囀り穏やかな朝を彩っている。
時間は間違いなく平等に進んでいる。
──ふわりと。
肩から、何かが落ちる。
背中から、何かが落ちる。
胸から、腹から。
すべてがゆっくりと浮かび上がっていく。
私の身体は、確かに軽くなった。
何かを背負っていた両肩から、ふいに何もなくなった。指先の血の重みすら、感じなくなった。
長い間背負っていた、あの重み。
知らぬうちに脳を、胸中を蝕んでいたあの重み。
それらから、ようやく解放された。
──ようやく、だ。
飛び立とうとした私を、ニュートンの法則が例外なく引いていく。
足の指先のほうへ。
地の底のほうへ。
世界の音が、遠くなる。
窓の外の鳥の声が、薄くなる。
朝の白い光が、まだそこにあるはずなのに、なぜか少しずつ、霞んでいく。
──ああ、と私は思った。
時間旅行は、終わったのだ。
長い旅だった。
私の人生を、もう一度何十年も歩いてきた。
たくさんの人に会った。
たくさんの場所を見た。
たくさんの「明日」を生きた。
──この、ほんの一瞬のうちに。
私は、ゆっくりと目を閉じる。
最後に思い浮かんだのは、母の手の感触だった。
あの大きくて柔らかい温かい手。
あれだけは、今でもはっきりと覚えている。




