第5話 同じ帰り道
放課後。
校門を出たところで、足が止まる。
少し先に、見覚えのある背中があった。
門のすぐ外で立ち止まっている。
帰るでもなく、誰かを待つでもなく。
ただ、そこにいる。
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「……帰らねえのか」
気づけば、声をかけていた。
紗夜が振り返る。
一瞬だけ、驚いたような顔。
すぐに消える。
「……あんた」
「まだいたのね」
「そっちだろ」
「たまたまよ」
そう言って、視線を逸らす。
そのまま、少しだけ下を向いた。
いつも通りの調子。
……でも、ほんの少しだけ間があった。
「……帰るなら、さっさと行けばいいでしょ」
「そうするつもりだったけどな」
言いながら、歩き出す。
少し遅れて、足音が重なった。
アスファルトを踏む音が、同じリズムで続く。
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横を見る。
紗夜が、少しだけ後ろを歩いている。
視線は合わない。
こっちを見ている気配もない。
「……ついてくんなよ」
「別に、同じ方向なだけ」
「そうかよ」
それ以上は何も言わない。
そのまま、並ばない距離で歩く。
遠くで車が通り過ぎる音がした。
会話もない。
でも、気まずさはなかった。
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しばらくして。
「……なあ」
「なに」
「昨日のあれ」
言いかけて、少し迷う。
紗夜は前を向いたまま。
視線は、ずっと先のまま動かない。
「……別に」
「説明しても意味ないんだろ」
「……そうね」
それで終わる。
会話は、続かない。
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でも。
拒絶されてる感じは、なかった。
ただ、線を引かれているだけ。
それが少しだけ分かる。
「……疲れてんのか」
なんとなく、口に出る。
「別に」
即答。
変わらない。
……けど。
ほんの少しだけ、声が低い気がした。
「……そうかよ」
それ以上は踏み込まない。
踏み込めば、また距離が戻る気がした。
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信号で止まる。
横に並ぶ。
ふと、距離が近いことに気づく。
さっきより、少しだけ。
紗夜の視線が、一瞬だけこちらに向く。
すぐに逸らされた。
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何も言わない。
言う理由もない。
ただ、そのままにしておく。
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信号が変わる。
電子音が、車の動き出す音と重なる。
同時に歩き出す。
今度は、最初から並んでいた。
「……あんた」
「ん?」
「変なこと、考えてないでしょうね」
「考えてねえよ」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
じっと見られる。
一瞬だけ目が合う。
すぐに逸らされる。
「……ならいいわ」
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少しして。
「……別に」
小さく、呟く。
「わざわざ離れる必要もないでしょ」
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「は?」
聞き返す。
「なんでもない」
それ以上は続かない。
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また、沈黙。
でも。
さっきまでとは少し違う。
足音が、ずれていない。
隣にいるのが、当たり前みたいに続いている。
——なんとなく、引っかかる。
理由は分からない。
でも、悪くはなかった。
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並んで歩く距離は、そのまま。
離れない。
言葉も、特にいらない。
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そのまま、帰り道が続いていく。




