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第26話:オトメの秘密とオヒメの秘密

乙女の秘密を明かしても碌なことはありません。

翌朝。

縛り上げられたボスが、柱に括りつけられていた。

私は、ボスの前に椅子を引いた。

座って、足を組んだ。


「さて」


ボスが、私を見た。

まだ強がっていた。


「何が聞きたい」

「証拠よ。あなたと闇商人と役人の取引記録」

「処分した」


即答だった。

私は、ナーガを見た。

ナーガが、ボスの手を取った。

昨日、ジークに占いをした時と同じ手つきだった。

目を閉じて、しばらく黙った。


「……嘘ついてる」


ボスが、ぴくりと動いた。


「なんのことだ」

「熱い。嘘の熱が、ここから伝わってくる」


ナーガが、目を開けた。

ボスを見た。


「証拠、まだ持ってる。どこかに隠してある」


ボスが、唇を噛んだ。


「……でたらめを」

「じゃあ」


私は、椅子から立ち上がった。

床に、黒い蛇の輪郭が——ほんの少しだけ、滲んだ。

気づかれないように。

ボスの足首に、這い上がる毒蔦のようにかすかに絡みついた。


「わ——わかった!! 言う! 言います!!」


ボスが、喚いた。

ナーガが、私の足元を見た。

それから、私を見た。

不思議そうな顔をしていた。

私は、知らん顔をした。


「港の倉庫だ! 昨日の会合場所の隣の建物! 床下に隠してある!!」

「よし」


ナーガが、また私を見た。


「今、何したの?」

「何も」

「絶対、何かした」

「乙女に秘密はつきものよ」

「お姫に秘密は何個あるの?」

「さあ。数えたことないわ」

「多すぎて数えられないってこと?」

「そういうことにしておいて」


ナーガが、呆れた顔をしながら、楽しんでいた。


***


作戦を決めた。


「ジーク、あなたは役人と闇商人のところへ行って」

「一人で、ですか」

「陽動よ。敵の目を釘付けにする、極上の囮になってちょうだい」

「……承知しました」

「ラピス、子供たちを頼む。宝石国への手配も進めておいて」

「わかりました」

「私とナーガで潜入する」


ナーガが、私を見た。


「二人で大丈夫?」

「あなたの占いがあれば十分よ。それに——」


私は、ジークに視線を戻した。


「ジーク、合図は前に決めた通り。私の『影』があなたの足元に触れたら、それ以上は深追いせずに撤退して」

「御意に」


ジークが、静かに笑った。


「姫様に退き際を心配されるとは思いませんでした」

「うるさいわ。行くわよ」


***


港の近くの倉庫街。

夜の砂漠は、昼と別の顔をしていた。

熱が引き、冷たい風が砂の海を撫でていく。

星の瞬きが、砂地を薄く照らしている。

私とナーガは、倉庫の外壁に、夜の帳のように張りついていた。


「感じる?」

「……うん」


ナーガが、目を閉じた。


「この辺り——何か、ある。でもまだ水底みたいにぼんやりしてる」

「近づけば、はっきりする?」

「多分」


二人で、倉庫に沿って移動した。

一つ目の倉庫。

二つ目の倉庫。


「……ここ」


三つ目の倉庫の前で、ナーガが止まった。


「霧が晴れたみたいにはっきりしてきた。中に——大事なものが、隠してある」

「確信ある?」


ナーガが、目を開けた。


「ある」

「行くわよ」


扉の錠を、影が静かに、腐った果実を潰すようにこじ開けた。

音もなく、扉が開いた。


中は暗かった。

積み上げられた荷物。

砂埃。

古い木材の匂い。


「どの辺?」

「床下——こっち」


ナーガが、奥へ進んだ。

私が後ろについた。

ナーガが、床板の一枚を指さした。


「ここ」


私が、床板を引き剥がした。

暗い穴の中に——木箱があった。

蓋を開けると。

書類の束。帳簿。手紙。

手紙の一枚を広げた。

役人の署名があった。日付がある。金額がある。


「本物ね」


ナーガが、息を呑んだ。


「こんなに——」

「全部、持っていくわ」


木箱を抱えた瞬間——

外から、足音が聞こえた。

複数。


「見つかった?」


ナーガが、青ざめた。


「みたいね」


扉が、蹴破られた。

男が四人、入ってきた。

全員、武器を持っていた。


「いたぞ!!」

「ナーガ」


私は、木箱をナーガに渡した。


「これを持ってて」

「え——でも——」

「驚かないでね」


私は、一歩前に出た。

男たちが、私を取り囲んだ。


「小娘が一人か。楽勝だ」

「そうね」


私は、口元を緩めた。


「あなたたちにとっては——そうじゃないけど」


影が、黒い水飛沫のように床を走った。

四本の蛇が、四人の足首に絡みついた。

同時に。一瞬で。

悲鳴が重なる暇すらなかった。


崩れ落ちた。

四人全員が、糸の切れた操り人形のように床に転がった。

静寂。


ナーガが——固まっていた。

木箱を抱えたまま、口が開いていた。


「驚かないでって言ったわ」

「……無理でしょ、それは」

「慣れなさい。旅の間、何度も見るから」


ナーガが、ゆっくりと息を吐いた。


「……乙女の秘密、また一個見た」

「ノーカウントよ」

「絶対カウントする」


私は、木箱を受け取った。


「さあ、ここからは時間との勝負よ」

ナーガの特殊能力がやっと生きてきましたね。

やはり、能力というものは誰かのために使って

初めて本領を発揮するのかもしれません。

次回更新は3/25 19〜を予定しております。

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