第24話:不器用な、愛し方
施しは嫌いだ。
対等でなければ——意味がない。
あの夜、ナーガの家で食べた夕食は——不思議な味がした。
高級でも、豪華でもない。
薄味で、素朴で、でも——温かかった。
子供たちが、わいわいと騒ぐ。
ジークが、子供に引っ張られて困っている。
ラピスが、子供の質問に丁寧に答えている。
ナーガが、全員の顔を見ながら笑っている。
私は——黙って、食べていた。
(悪くない)
それだけだった。
それだけで——十分だった。
帰り際、ナーガが言った。
「明日は来なくていいよ。銀貨5枚分は十分案内したから」
「明日も来るわ」
ナーガが、目を丸くした。
「なんで?」
「まだ見ていない場所があるでしょ」
「……そんなにないよ?」
「銀貨2枚で」
ナーガが、しばらく私を見ていた。
それから——笑った。
「わかった。明日の朝、いつもの場所で」
***
翌日も、ナーガは待っていた。
その翌日も。
三日間、ナーガは案内し続けた。
大通りの裏側。
市場の仕入れ場所。
夜にしか開かない露店。
砂漠の端で見る、星空。
「本当に見るものあったね」
三日目の夜、ナーガが呟いた。
「あなたが隠してたものが多かっただけよ」
ナーガが、くすりと笑った。
三日間で、子供たちの名前を全員覚えた。
一番小さいのがリナ。
一番やんちゃなのがコル。
ジークに相撲を挑んで毎回負けているのがタス。
「あなた、さりげなく子供たちに食べ物持ってきてるよね」
三日目の帰り道、ナーガが言った。
「気のせいでしょ」
「気のせいじゃない。リナが喜んでた」
私は、前を向いたまま答えなかった。
施しは嫌いだ。
対等でなければ意味がない。
だから——ガイド料として払う。
それだけだ。
「ねえ」
ナーガが、私の隣に並んだ。
「あなた、いい人だね」
「違うわ」
「違わないよ」
「私利私欲で動いてるだけよ」
ナーガが、小さく笑った。
「そういうとこが、いい人なんだよ」
私は、何も言わなかった。
(うるさいわね)
でも——否定はしなかった。
***
四日目の朝。
いつもの場所に、ナーガがいなかった。
日が高くなっても——来なかった。
(嫌な予感がする)
「行くわよ」
「どこへですか」
「ナーガの家」
ジークが、頷いた。
ラピスが、立ち上がった。
三人で、下町へ向かった。
路地を曲がった瞬間——見えた。
ナーガの家の扉が、壊れていた。
窓が、割れていた。
壁に、何かを叩きつけた跡がある。
「ナーガ!」
ラピスが、駆け込んだ。
子供たちが、隅に集まって泣いていた。
リナが、声を上げて泣いていた。
コルが、唇を噛んで震えていた。
床に——ナーガが倒れていた。
「ナーガ!!」
ラピスがナーガの傍に跪いた。
ジークが、素早く状態を確認した。
その顔が——わずかに、険しくなった。
「姫様」
「何?」
「この匂い——」
ジークが、ナーガの口元に顔を近づけた。
「毒です」
広間に、静寂が落ちた。
「姉ちゃんが」
コルが、震える声で言った。
「昨日の夜、チンピラが来て——姉ちゃんが追い払おうとしたら——何かを飲まされて——」
コルの声が、詰まった。
「それだけじゃない」
一番年下の女の子が、立ち上がった。
目が——赤かった。
「サラが、連れていかれた」
サラ。
私と同じ年くらいの、おとなしい女の子だった。
「人質にしたのね」
私は、静かに言った。
「おそらく。それだけで済めばいいですが。」
ジークが、立ち上がった。
「姫様、毒の進行が——」
「どのくらいもつ」
「……わかりません。ただ、重篤です」
ナーガが、かすかに目を開けた。
「……アナ」
掠れた声だった。
「サラを——お願い」
それだけ言って、また目を閉じた。
私は——ナーガを見ていた。
三日間で見てきた顔が、頭をよぎった。
子供たちの頭を撫でる顔。
星空を見上げる顔。
「いい人だね」と言った時の顔。
胃の底から、何かが込み上げてきた。
熱くて、重くて——収まらない何かが。
「ジーク」
「はい」
「ラピス」
「はい」
二人が、私を見た。
「徹底的に——潰すわよ」
声が、静かだった。
静かすぎるほど、静かだった。
でも——その静けさが。
誰よりも、怒りを語っていた。
ジークが、剣の柄に手をかけた。
ラピスの目に、あの火が灯った。
「承知しました」
「どこへでも」
私は、踵を返した。
(私が好きになったものを——傷つけた)
それは——許さない。
絶対に、許さない。
お読みいただきありがとうございます!
週末が仕事でバタついてていつもより1時間遅い更新になってしまいました。すみません!
翌日も、その翌日も、ガイドを頼んだ。
施しじゃない。ガイド料だ。
それがアナの、不器用な愛し方。
そして——ナーガが倒れた。サラが攫われた。
「徹底的に潰すわよ」
アナが、初めて——誰かのために、本気で怒った。
次回、邂逅。




