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第21話:炎砂皇国アルザード、到着


国境を越えた瞬間に、わかった。


空気が、変わった。


温度だけではない。

湿気が消えた。

草の匂いが消えた。


代わりに——

乾いた熱風が、日差し以上に肌を焼く。


「暑い」

ラピスが、額の汗を拭いた。

「姫様、やはり砂漠は——」

「平気よ」


馬が、砂地を踏む。

足元の感触が、土から砂に変わっていく。

地平線まで続く砂丘。熱で揺らぐ空気。


宝石国を出て早一週間。

ようやく遠くに、街の影が見えた。


(炎砂皇国アルザード)


宝石国とは、全てが違う。

日干しレンガの建物。

砂と岩の大地。

そもそもの人の熱気が溢れた。


露店が立ち並ぶ大通り。香辛料の匂い。

色鮮やかな布。客を呼ぶ声が、重なり合う。

宝石国より、ずっと雑多だった。


でも——活気があった。

馬を繋いで、三人で大通りを歩く。

側から見たら明らかに旅人だった。

こういう時に目立ったら、

トラブルに巻き込まれがちだ。


「あの」

突然、声がした。褐色の肌。

長い編み込みの髪。

派手な模様の布を身に纏った女が、

屋台の前に立っていた。


私と同じくらいの年頃——いや、少し上か。

「ガイドはいかがですか」

にっこりと、笑った。

屈託のない、太陽みたいな笑顔だった。



「この街、初めてでしょ? ぼったくりの露店とか、迷宮みたいな路地とか——知らないと大変なことになるよ」


ジークが、前に出た。


「結構です」

「まあまあ、そう言わずに。

一日銀貨三枚、格安だよ?」


「結構です」

ジークが、きっぱりと繰り返した。


女が、ふむ、と顎に手を当てた。

それから——ジークを見た。

「じゃあ、占いだけでもどう? 一回銅貨五枚」


「結構——」


「当たるよ」


女が、ジークの言葉を遮った。


「絶対に当たる。外れたら返金する」


ジークが、私を見た。


私は肩をすくめた。


「面白そうじゃない。やってもらいなさい。あなたにどんな悩みがあるのか楽しみだわ。」


ジークが、渋々財布を取り出した。

銅貨五枚を女の手に置く。

女が、銅貨ごとジークの手を取り

両手で、丁寧に包んだ。



目を閉じて——しばらく、黙っていた。

大通りの喧騒が、遠くなった気がした。

女が、ゆっくりと目を開けた。


ジークを見上げる。

少し、笑った。


「あなた」

「……はい」

「もう——溢れ出てきそうね」

「はい?!」


ジークが、固まった。

「何が、ですか」

「自分でわかってるでしょ」


ジークの耳が、じわじわと赤くなった。

首筋まで赤くなった。


「そ、それは——」

「否定しないんだ」


女が、くすりと笑った。

「大事にしなよ。そういう気持ち、一生に何度もないから」


ジークが、完全に固まっていた。

口が、開いたまま止まっている。


私はジークを見た。それから、女を見た。


「……案外、腕は確かなようね」


女が、私に視線を向けた。


「でしょ?」


「あなたの名前は」


「ナーガ」


女が、にっこりと笑った。


「ガイド、頼む?」

今だと一日銀貨三枚」


「二枚」


「三枚」


「ならいいわ。ほら、ジーク行くわよ。」

「あ!ただいま!」


「分かったわよ!二枚で」

ナーガが、しぶしぶ頷いた。

でも——目が、楽しそうだった。


私は財布から銀貨を二枚取り出した。

ナーガが、素早く受け取った。


「じゃあ行こう! まずは名物から案内するね!」


ナーガが、大通りを歩き始めた。

振り返って、手招きする。



ジークが、まだ赤いまま私の隣に並んだ。


「姫様、今のは——」

「後で聞いてあげるわ」

「後で、とは——」

「さあね。歩くわよ」


ラピスが、小さく笑っていた。

私は前を向いた。



***


ナーガのガイドは——確かに、優秀だった。


美味い飯屋。

良心的な露店。

見晴らしのいい高台。

日陰の多い道。


さすがのアナでも分かった。

銀貨2枚では足りないくらい

全部——知っていた。


「ここのラクダ肉の串焼き、絶対食べて!」


露店の前で、ナーガが声を上げた。

串を三本、買ってきた。

一本を私に押しつける。


「ねえ!食べて食べて!」

「……いただくわ」


一口、齧った。

香辛料の刺激が、舌を刺す。

でも——旨かった。

美味しいという表現より旨いという表現が的確だった。


「美味しいでしょ!」


ナーガが、串を齧りながら言った。

「生まれ育った街だから、

隅から隅まで知ってるんだよね」


「そう」

「旅人さんたちは、どこから来たの?」


「遠くから」

「遠くってどこよ」

「遠くよ」


ナーガが、ぷっと笑った。


「秘密主義なんだ。まあいいけど」


それから——大通りの先を見た。


「この街、どう?」

「賑やかね」

「でしょ。活気があるところが好きなんだよね」


ナーガが、満足そうに笑った。

でも——その笑顔の端に、何かが引っかかった。


(何かが)


上手く、言葉にできない。


***


夕暮れ時。


城壁の外に出て、砂丘の上から街を見下ろした。


夕陽が、砂漠を赤く染めていた。


街の灯りが、一つ、また一つと灯り始める。


遠くで、祈りの声が響いていた。


「綺麗でしょ」


ナーガが、満足そうに言った。


「……そうね」


確かに、綺麗だった。


でも——


一日中、案内してもらって気づいていた。


綺麗な場所。美味い飯屋。活気のある大通り。


全部——良いものだけだった。


街の外れは?


大通りから外れた路地は?


壁際に座り込んでいた子供たちは?


ナーガは——そこには、連れて行かなかった。


(なぜ?)


「今日はここまで!」


ナーガが、ぱんと手を叩いた。


「また明日もガイドする? 一日銀貨二枚で!」


「……考えておくわ」


「じゃあ、明日の朝ここで待ってるね!」


ナーガが、手を振りながら走っていった。


あっという間に、夕暮れの街に消えた。


ラピスが、隣に立った。


「良いガイドでしたね」


「そうね」


私は、ナーガが消えた方向を見た。


「どちらが秘密主義なのよ」


「何か言いましたか?」


「いえ、何でもないわ」


(明日、確かめましょう)


夕陽が、砂漠に沈んでいく。


街の灯りが、また一つ増えた。


砂漠の夜は——これから、始まる。



後書き


お読みいただきありがとうございます!


炎砂皇国アルザード、到着。


「あなた……もう溢れ出てきそうね」

ナーガの占い、一発でジークの核心を突きました。

ジークの何が溢れるのでしょう。


そして綺麗なものしか見せなかったナーガ。


なぜ、裏側を見せないのか。


次回、アナが確かめに動きます。


面白かった!と思っていただけましたら、

ページ下部の【☆】とブックマークをぜひよろしくお願いいたします!

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