第17話:鈍色と群青
すみません。金曜まで朝だけ更新でお願いします。
処刑は、三日後だった。
宝石国広場。朝の光が、石畳を白く焼いている。
前回と同じ広場だが、
あの日とは空気が、まるで違った。
喧騒か、静寂か。
耳から入る情報だけでも、景色が違って見えるモンだと
群衆の端に立ちながら、一人で感心していた。
どうでもいい考え事ができるくらい
静寂に包まれていた。
やがて、私のどうでもいい熟考を
遮るような喧騒が巻き起こった。
皆の視線の先には、
三日前とは別人のヴァルドが
生きたまま捌かれる魚のように
ジタバタしながら板の上で押さえつけられていた。
あの穏やかな微笑みが——どこにもない。
髪が乱れ、衣が汚れ、それでも目だけが。
まだ、何かを計算していた。
(立つ鳥跡を濁さず。アレは嘘ね
這いずる豚、クソを撒き散らす。ね。)
どうでもいい考え事ができるくらい
喧騒が心地よかった。
そんな私をヴァルドの目が捉えた。
静かに、細くなる。
「……見届けに来たか、皇女よ」
「ええ」
「お前も——いつかこうなる。
バイパーが、必ずお前を追い詰める。私のように」
「そうかもしれないわ」
私は、静かに言った。
「ただ、——今日は、あなたの番よ」
ヴァルドが、口を閉じた。
シュバルツ卿が、書類を広げる。
「宝石国元宰相ヴァルド卿。帝国との内通、国家機密の漏洩、
国境要塞配置図の提供 など大小100以上の罪により、
国家反逆罪として処刑を執行いたします」
ヴァルドが、最後に群衆を見渡した。
共に国を盛り上げようと切磋琢磨した日もあったのだろう。
シュバルツ卿が彼を見る眼差しがどこか悲しげだった。
「ヴァルド卿。最後に言い残すことは。」
「私はこの国のために——三十年——
三十年も人生を賭けてきた。
私がいるから帝国は宝石国を攻めて来なかった。
私が今、死んでしまったら間違いなく、
間違いなく宝石国は滅びてしまうだろう!
教科書に間違いなく記される!
今日、この日が宝石国滅亡の最初の1日だったと」
彼の喚き散らす声は
廃人となったグレイルにも
広場に来ることなく場内をふらつくオスカーにも
届いているだろう。
「宝石国城内規則、第三条」
シュバルツ卿が、静かに遮った。
「被告の最終弁論は、三十文字以内とする」
「そんな法律——」
「ございます」
一拍。
「三百年前から」
「執行」
シュバルツ卿の声がするや否や
広場は歓喜に包まれた
(現金なものね)
***
私はどこか居心地が悪くなり、踵を返した。
もしかしたら、あの日逃げ切れなかったら
私の最後もヴァルトと同じだったのかもしれない。
「姫様」
隣に、ジークが並ぶ。
「……お腹は、空きませんでしたか」
少し、考えた。
「空かなかったわ」
「……え?」
「不味そうだったから」
ジークが、止まった。
あの夜、地下牢で。
「お腹が空いたわ」と言った時
——ジークはこんな顔をしていなかった。
今この顔は、恐怖ではなく。
安堵だった。
「やっと終わりましたね。」
「バカ。まだ始まったばかりよ。」
小さく、息を吐いた。
(バイパーにも、すぐ届くでしょうね)
空を見上げる。
いくら見上げても鈍色しか見えない
あの部屋で育った私にとって、
ラピスラズリのような誇り高き群青ですら、
私の目には染みた。
「バイパーはどんな顔をするでしょうね」
「あなたの最期には、
もっと壮大で、華々しい舞台を用意してあげるわ」
***
その夜。
シュバルツ卿から、
まるでこの日を待っていたかのようなタイミングで使いが来た。
「国王陛下が——ラピス殿下をお呼びです」
ラピスの表情がわずかに硬化する。
だがそれは怯えではない。
退路を断つにはまだ早すぎる
すべてを背負うと決めた男の顔だった。
「わかりました」
立ち上がる。扉へ向かう。
「ラピス」
思わず、私は声をかけてしまった。
ラピスもすぐさま振り返った。
「何でしょう」
(・・・・・)
「ちゃんと、聞いてきなさい。全部」
ラピスが、小さく笑った。
「はい」
扉が閉まった。
部屋に、私とジークだけが残る。
静かに、紅茶が置かれた。
「まるで母親のような」
「私が親子に入る隙はないわよ」
紅茶を手に取った。
「私が入るには、綺麗すぎるわ」
久しぶりに姫のような所作を見せる
私を見ているはずなのに。
「いえ、姫様が入るには狭すぎます」
ジークは笑いながら言い放った。
やっと下ろせた荷を下せて安心しきった彼に
私も笑いながら言い放った。
「さあ、そろそろ次の目的地を探さないとね」
お読みいただきありがとうございます!
3つの毒を解毒して、
30年続いた宝石国も悪政もひと段落
どこまで私利私欲なんでしょう。
さあ、兄たちが失脚し、病床に伏している国王
ラピスが中心となるであろう宝石国は、どう変わっていくのか?
次回、いよいよ——第1章ラストです。
【次回予告】
第18話『ラピス・ジュエル、即位。 』
面白かった!と思っていただけましたら、
ページ下部の【☆】とブックマークをぜひよろしくお願いいたします!




