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第15話:バカとハサミは役に立つ

すみません。確定申告をド忘れしていたため、本日朝のみの更新です。

翌朝。

私は地図を広げていた。

宝石国の城。街道。城下町。

そして——帝国への道。



「ヴァルドは動く」

私は地図を指で叩いた。

「昨日の今日で、もう動いているかもしれない」

ラピスが、向かいに座っていた。

ジークが、窓際に立っていた。

「どう動くと思いますか」

ラピスが、静かに聞いた。

「私の正体を暴露する」



二人が想像しうる最悪の状況だからこそ、黙った。




「帝国皇女が宝石国に潜伏している。

それを公にすれば、宝石国は帝国との外交問題に巻き込まれる。

ヴァルドはその混乱を利用して、また実権を握ろうとする」

ラピスが、眉をひそめた。

「しかし——」

ジークが遮った

「姫様の正体が明かされれば、

これまでの姫様の行動が全部帝国の工作として見られる可能性が」

「そうね」

私は地図から目を上げた。

「だから、先に動く」



「ラピス、ヴァルドと帝国の繋がりの証拠をかき集めなさい」

「グレイル兄上の件で、既にいくつか手がかりはあります」

「足りない。帝国の印璽が押された文書が一枚でも出てくれば、それで十分よ」

ラピスが、頷いた。


「ジーク」

「はい」

「城内のヴァルドの動きを追って。誰と会っているか、

どこに使いを出しているか。全部」

「承知しました」

「それから——」



私は、地図を折り畳んだ。



「私は、シュバルツ卿に会いに行く」

ラピスが、目を丸くした。

「卿に、ですか」

「国王陛下に謁見したい。取り次いでもらえるのは、あの人だけよ」





「確かに、父上に会えるのはジュバ爺だけだろうね」





気づくと、部屋に四人いた。

ラピスが目を丸くした。

「オスカー兄上、いつから——」

「最初から」




オスカーが、菓子を齧りながら言った。

ジークが、アナを見た。

アナは知らん顔をしていた。



ラピスが地図を広げた。

三人が証拠の話を続ける中、オスカーが手持ち無沙汰そうに地図を眺めていた。



「ヴァルドって部屋の床下に色々隠してた気がするんだよな〜」

三人が、止まった。

「兄上、それ本当ですか?」

「子どもの頃だから、あんまり覚えてないけど

 こっそり見たことあったんだよな〜あれなんだっけな〜」



ラピスが「兄上——」と言いかけた瞬間、オスカーの目が地図の上で止まった。

帝国の紋章だった。



「あ!これだ!このマークの手紙がいっぱいあったよ!」



まさに、青天の霹靂。雷を落とした本人を除いては



「こっそり見てさ〜ってなんでそんなに怖い顔してるの?」

「兄上!それをなぜ今まで——」

ラピスの声が、震えていた。


「だって誰も聞かなかったし」

ジークが、静かに天を仰いだ。

アナだけが、オスカーを見て——ラピスとジークを交互に見た。



「ね。使えるでしょ」




***




ジークとラピスが床下を確認しに行ったのは、それから一時間後だった。

部屋に戻ってきた時、手に羊皮紙の束を持っていた。

泥だらけだった。目が、光っていた。




「ありました。一枚どころじゃありません」




テーブルの上に、束を置いた。

折り畳まれた、古びた文書が何枚も。

一枚広げると——文書の端に、見覚えのある印璽が押されていた。

帝国の印璽だった。



「よくやったわ」




私は束を手に取った。

一枚、一枚、確認した。

それから、静かに置いた。




「シュバルツ卿に届けて。明後日まで、厳重に保管してもらう」

ラピスが頷いた。

オスカーが、のんびりと言った。

「役に立てた?」

「十分よ。」

オスカーが、満足そうに菓子を齧った。



***



シュバルツ卿の部屋を訪ねると、扉はすんなり開いた。

老人が、椅子に座って書類を読んでいた。



私を見て、眼鏡を外した。

「来ると思っていました」

「そうですか」

「あなたは、次の手を考える人だ。

ヴァルド卿と会った翌日に動く。当然の判断です」

私は椅子に腰を下ろした。




「お願いが二つあります」

「聞きましょう」

「一つ目。この文書を明後日まで厳重に保管していただきたい」

シュバルツ卿が、文書を受け取った。

広げた。

目を通した。

老人の目が、わずかに細くなった。



「……これは」

「本物です」

「確かに」

シュバルツ卿が、静かに頷いた。



「二つ目は」

「この手紙に免じて、国王陛下に、謁見させていただきたい」

「交換条件とは、褒められた行為ではありませんね。」



シュバルツ卿が、しばらく私を見ていた。

私も視線を逸さなかった。



「はあ。王族の行動は時折、理解の範疇を越える。

理由を伺いましょう。」

「陛下に直接、事の次第をお話ししたい。

ヴァルドが動く前に。そして、父と母の無念のために。」

「陛下は、お加減が」

「わかっています。長くはかかりません」




沈黙が落ちた。




シュバルツ卿が、ゆっくりと立ち上がった。

「……ついてきなさい」




***



国王の寝室は、城の奥深くにあった。

薄暗い部屋。重い空気。

窓から差し込む光だけが、静かに床を照らしていた。




ベッドに、男が横たわっていた。

五十代ほどのはずだが、もっと老けて見えた。

頬がこけて、肌に艶がない。

でも——目だけが、まだ静かに燃えていた。




「陛下、お客人です」



シュバルツ卿が、静かに言った。

国王が、私を見た。




「……誰だ」

私は、ベッドの傍に立った。



「アナスタシア・フォン・カイゼルと申します」

国王の目が、わずかに動いた。



「そなたは、帝国の——」

「はい」


それから二人の間で何が交わされたのか、

この場にいたのはシュバルツ卿だけだった。




***




城に戻ると、ジークが廊下で待っていた。

「姫様、動きがありました」

「ヴァルドが?」

「はい。今朝早く、城下の広場に布告を出す手配をしていました」

「内容は」

「明後日の昼、城下の広場で公式発表があると。

 城の全住民に集まるよう、お触れが出ています」




私は、足を止めた。

「明後日」

「はい」

思ったより早かった。

でも——想定の範囲だった。




「姫様、間に合いますか」

「間に合わせるわ」

「証拠はシュバルツ卿の元に」

「ええ。あとは——」




私は窓の外を見た。

城下の広場が、遠くに見えた。

明後日、あの場所でヴァルドが私の正体を暴露する。

帝国皇女が宝石国に潜伏していた——そう叫ぶつもりだ。




(好きにしなさい)



私は口元を緩めた。



(暴露してくれた方が、むしろ都合がいい)



「ジーク、もう一つお願いがあるわ」

「何でしょう」

「明後日の広場に、ラピスのネットワークの人間を全員集めておいて」

「証人ですか」

「たくさんいればいるほどいい」

「じゃあ、僕も手伝うよ」

「兄上、よろしくお願いします。」




廊下の石畳に、影が伸びていた。

ぬるりと、揺れた。




(明後日ね、ヴァルド)



最後の毒は、一番時間をかけて料理する。

でも——レシピはすでに完成している。


お読みいただきありがとうございます!

証拠が、見つかった。

しかも——オスカーのおかげで。

「だって誰も聞かなかったし」

この男、本当に使えます。

ヴァルドは明後日、広場で何を暴露しようとしているのか。

そしてアナはなぜ——「暴露してくれた方が都合がいい」と笑っているのか。

全ての答えは、次回。



面白かった!と思っていただけましたら、ページ下部の【☆】とブックマークをぜひよろしくお願いいたします!

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