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嘘の世界1

普通が合わなくなった場所

作者: ハル

その世界では、普通は「身についているもの」だった。


誰かに与えられるわけでも、選ばれるわけでもない。

気づいたときには、もう身についている。


服の裏地みたいに。外からは見えないが、脱ぐこともできない。



普通が身についている人は、立ち止まる場所が似ている。

何もない空間で、なぜか止まる。


理由は分からない。分からないまま、止まる。



私は自分が普通だと知っていた。

知っているというより、疑ったことがなかった。


疑う前に、疑わない動きが先に出る。

それが普通の動きだった。


普通は便利だった。

考えなくていい。選ばなくていい。間違えているかどうかを確かめなくていい。

確かめないことが、正しく進んでいる証拠になる。



ある日、普通が一部だけずれた。


ほんの少しだった。

音が遅れた。影が先に動いた。自分の言葉が、自分より遅れて届いた。


周囲は何も変わらなかった。変わらないことが、変化を否定した。



私は気づいたが、気づいたまま振る舞う方法を知らなかった。

普通は、気づいたあとに戻る場所を用意していない。


そのとき、普通は理由もなく壊れた。


立ち止まるはずの場所で、誰も止まらなかった。

止まらなかったことを、誰も不思議に思わなかった。

普通は壊れたのに、普通として機能し続けた。



私は止まった。

止まったまま、普通を着ている感じだけが残った。


脱げないのに、合っていない。


周囲は進んだ。進んでいるという意識もなく、進んだ。

私は動かなかった。動かない理由はなかった。


普通は、その場に置かれていた。

拾う人はいなかった。拾わないことが、普通だったからだ。


私は普通を着たまま、そこにいた。

普通が必要なのか、もう分からなかった。


分からないまま、何も確かめなかった。

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