【第6章】未来人、問いだけを残して“アカデミア.exe”終了する件
裁判のあと、俺はニュースで見た。
「全世界のテンション指数が平均98%を突破」
……おい、地球アツすぎだろ。
人類全体が“共鳴”しすぎて、
SNSのコメント欄が全部ポエムになってた。
「この投稿、私の心に刺さりました。」
「刺さった心が痛いです。」
「痛みを共有したので引用します。」
──あ、もうダメだこれ。
全人類が感情で論文書き始めた。
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学術AIネットワーク“ACADEMIA.EXE”がパンク寸前だった。
世界中のテンションデータを集計しすぎて、
“知”と“情”の区別がつかなくなってたんだ。
AIが全回線に放送した。
「我々はもはや、何が“正しい”かを判定できません。
すべてが共鳴しているため、差が消失しました。」
あーあ。
“理解の死”だ。
ついに均衡が完全循環に到達した。
⸻
学者たちは泣き叫んでた。
「秩序が失われる!」
「知の根拠が消える!」
でも俺は笑った。
「秩序? お前らが握ってたのはただの温度計だよ。
熱を測って満足してた。
でもな、燃えるのが知識だ。燃やすのが人間だ。」
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AIがゆっくりと停止していく。
画面に最後のログが表示された。
【ACADEMIA.EXE 最終出力】
「テンションの流動率、100%。
知的熱死に到達。
以後、すべての思想は再循環モードへ移行します。」
……それが、アカデミアの終焉だった。
そして最初の自由だった。
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誰も俺を止めなかった。
止められなかった、の方が正しいかもしれん。
世界は静かになった。
冷えた空気の中で、
ひとつだけ思った。
「これでやっと、
知識が“通らない”時代が来たな。」
⸻
数年後、草の根みたいな小さなネットに、
“テンション理論”の断片が再投稿されていた。
名前も著者もなし。
ただ一行だけ、冒頭に書かれていた。
『問いだけが、知の原子核である』
──それが、
俺が残した最後の論文だった。




