【第1章】未来人、学会発表に乱入する件
「……次の発表者、“未来人さん”?」
「はい、未来から来ましたー。文明の再構築に参りましたー。」
シーン。
え、無視? 時空超えたのに?
こっちは量子跳躍してんのに、拍手ゼロ? 文化レベル低くね?
「えーと、発表テーマは『テンション理論による学問構造の再構築』……ですか?」
「そうです。今日は学問の死因を探りにきました。」
「し、死因……?」
「はい。たぶん“査読”っていう病です。」
ざわ……。
お、反応あった。
この“理解できないけど何かムカつく”空気、懐かしいな。21世紀って感じだ。
「査読を通してない研究は、信頼に値しません!」
「お、出た。“通ってない=悪”の呪文。
……あのさ、通すのが目的になってんだよ、アンタら。」
「な、何を言っている!」
「いやだって“真理を通す”んじゃなくて、“論文を通す”だろ?
おかしくね? それ、腸の方の通りと間違えてない?」
教授が目をむいた。司会が青ざめた。俺はにっこり笑った。
この時代、まだユーモアって単語が未発見らしい。
「えーっと、未来人さん。ここはそういう討論の場では──」
「じゃあ何の場? “拍手と引用でマスターベーションする場”か?」
……シーン。
空気、真空。
観測者いないのに、量子揺らぎだけ発生してる感じ。
最前列の教授が立ち上がる。
「査読とは秩序の象徴だ! それを否定するのは無法だ!」
「秩序? それ、もう“形式の信仰”になってるよ。
知を守るために、知を腐らせてどうすんだ。」
教授「……」
「未来では、査読より“共鳴”が大事だぜ。
誰かが理解した瞬間、情報は存在する。
お前らは“通った瞬間”しか認識してねぇ。」
司会があわててマイクを切ろうとしたので、
俺は叫んだ。
「理解より承認が先にくる時代──それを俺は“知の更年期”って呼んでる!」
ざわ……ざわ……。
いや、半分ウケてるやん。
「……というわけで、“未来人による学問の死因報告”でした!
次回は、“AI査読システムが知を抹殺する件”でお会いしましょう!」
退場。
拍手ゼロ。
でも、俺の中では論文一本分の快感あった。
次回予告:
【第2章】未来人、査読AIに論文を却下される件




