絵空事
中村颯希先生の「囁くヴァニタス」N2911DDの二次創作です。ガイドラインに基づき原作者に許可を頂いています。自時系列は本編終了後、先に原作を読むことをお勧めします。
元ネタの絵画:ラス・メ―ニナス (ベラスケス)
参考文献:名画は語る 千住博
ただし、作中解説の半分くらいは嘘ぴょん
芸術と学問の都、ヴェレス。
その裏撮りにある贋作屋で、蜂蜜色の髪の少女と黒髪の少年が話していた。
「なあライ、この絵について教えてくれないか」
そう頼む少年の名前はルドルフ。
最近、すっかり絵画の魅力に目覚めてしまった彼は、火曜会の課題の他に時々こうやって気になった絵画をについて、画集を片手に眼前の少女ーーライルに質問することがある。
彼の事をわりかし気に入っており(男性と言うよりはしつけの良い大型犬という感じでだが)、悪い気もしなかったライルは、話に乗ることにした。
「ああ、『偉大なる国王夫妻』ですか。」
その絵画は、タイトルに反して画面中央に幼き王女らしき人物が描かれていた。その左手にいるのは絵を描く画家で、右手には若い女官や側近、宮廷道化や犬が描かれている。そして、肝心な国王夫妻らしき人物はと言うと……幼き王女の後ろにかけられた絵画?としてぼんやりと存在するのみであった。
「いったい、どこに引っ掛かかったんですか」
「王の肖像画というのは王の威厳を示すためのものだろう。普通は画面中央に大きく書くはずだ。その二人を細部が分からないくらい小さくぼんやりと描くのはどういう意図なのだろうか」
的を得た質問だ。よく勉強しているとうなづくライル。
真面目で熱心な生徒にレクチャーするのは嫌いじゃない。
「ここでは絵を描く画家に注目です。彼は王女の左、つまり彼女からみてすぐ右隣にいる。なぜか分かりますか?」
「信頼されている、あるいは右腕として期待されているということか」
「ご名答」
ライルは、写実的に描かれている宮廷画家を指さして言った
「この画家、べラスは優れた観察眼と頭脳を持ってました。それで、宮廷画家として働く傍らで様々な陰謀を暴き、一介の画家でありながら、時には国王の相談にものるような、王の側近としてふさわしい存在感を持つに至つていました。」
「なるほど、それで彼は今何を書いているんだ」
「素晴らしい着眼点です。実は、彼が描いているのは国王夫妻なんですよ。幼き王女の後ろにかかっているのは肖像画ではなくて、昔の、不純物が多くて映りの悪い鏡なんです。まあ、当時はそんな鏡も王族しか持てないような超高級品だったんですが」
そしてここからは少々推測が入るのですが、と続けるライル。
「ある時、国王夫妻はべラスに家族と側近を登場させた大きな肖像画を書いて欲しいと依頼したのです。ただ、その際『可愛い後継者を目立つように、老人となった自分達は小さく目立たないように書いて欲しい』と注文を付けた。本来ならそんな肖像画はあり得ません。暗黙のルールを逸脱するどころか、夫妻への不敬にあたるものですから。」
「しかし夫妻は、べラスなら何かうまい知恵を出してくれるのでは、と考えたわけか。」
「はい、そうです。そして彼はそれを見事にやってのけました。王女の頭上、画面中央でポーズをとる国王夫妻がぼんやりと鏡に映っています。すなわち、国王夫妻がいるのは絵の外、つまり『最前面で大きく』をはるかに超えた、鑑賞者の位置に王女と王妃はいるのです。そして彼らを慕う人々は、夫妻の絵画の制作現場を見ている」
「なるほど、だから『偉大なる国王夫妻』と言うわけか」
国王はこの作品にいたく満足し、べラスを生涯自身の身近に置いたそうです。
そう補足して、ライルは説明を終えた。
「・・・・・・・」
と、ルドルフがもの言いたげにこちらを見ている。
「どうしました?」
ライルがうながすと、彼は神妙な面持ちで答えた。
「いや、優れた観察眼と頭脳を持っていて、権力者にいたく気に入られている画家に心当たりがあるなぁって。ライもそのうち、王宮の陰謀を暴いて、時には国王の相談にも乗るようになるんだろうか」
「何を絵空事言ってるんですか」
そんなわけないでしょ。と肩をすくめるライル。
彼女の後方には、伯爵令嬢や公爵子息からの贈り物が山の様に転がっていた。
その中にはピーナッツ王国の匠によって緻密に編み込まれたと言う旗や、ペチュニアやクロッカス、サルビアといったちょっと花言葉がアレな花束もある。
ルドルフの言った『絵空事』が現実となるのは、これからわずか数か月後の事であった。




