表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

弾けたのは、なんだったのか

作者:

「いくらってさぁ……エロいよな」


「お前急に頭湧いたんか???」


あまりに突拍子のない発言に、いくらを掬おうとしていた手が止まる。


「いやさ、この前川に釣りに行ったんだよ」


「いや釣りに行ってもそうはならんだろ」


「まあいいから聞けって。そしたらさ、鮭が泳いでてさ」


「まあ今秋だしな……」


「そこすげぇ綺麗でさ。もみじに彩られた水面、キラキラと反射する陽の光。川底で寄り添う2匹の鮭……そして放たれる、白濁した液体」


「いや最後だけおかしい。その描写だけいらない」


「それをみた俺はーーー胸の高鳴りが止まらなかった」


変態は真っ直ぐにいくらを見つめる。その視線には、えもいわれない熱がこもっていて。


いやこれガチでやばいやつでは??


「それ風景が美しくてワクワクしただけだろ。ぜってぇ鮭のせいじゃ無い断言できる」


「穴の中にポロポロとこぼれていく琥珀のような球体を見た時、ごくりと喉がなって……」


「それお腹空いてるだけだって。唾液分泌されたら喉ぐらいなるし」


友人はレンゲで掬ったいくらをポロポロと丼の中にこぼす。口から吐き出される細い息が、妙に艶かしい。


情景だけならNHKの教育番組とあまり変わらないのになんでこいつの脳内を通すとR15になんだよ!

万年発情期か!!


「俺、思ったんだ。もしかして……これが、恋?」


あまりにも飛躍した理論に、頭の中で鯉がスポーンと発射される描写が思い浮かぶ。


「んなことあってたまるか……! 熊でもそんなに鮭のことで頭いっぱいじゃねぇよ!」


叫ばんばかりに喉に力を入れる俺。それとは対照的に、変態は真顔でさらりと反論する。


「熊は案外鮭食べないぞ。だから熊より鮭のことを考えている人間はたくさんいると思う」


「そういう! 問題じゃ! ねぇんだよ!!!」


頭を抱えてどすりとテーブルに肘を置く。目の前でふわりと跳ねるいくらの粒が、妙に癪に触った。


いやそもそも俺たち飯食いに来てんだよ!

こんな変態トークしに来た訳じゃねえ!!


ぐっと勢いよく体を起こし、諸悪の根源である変態を睨みつける。


「とりあえず食えよ! 店の迷惑になるだろ」


俺はレンゲで掬ったいくらを口に運ぶ。プチプチと弾ける食感、どろりと出てくる粘度の高い液体。


普段なら嬉しいその刺激が、今だけは何故か妙に胸を騒がせた。


「……いただきます」


渋々いくらを掬った変態は、しばし視線を彷徨わせる。そして数秒経過してから、意を決したように口を開けた。


口の端から覗く舌が、ぬらりと光る。


その様子は酷く煽情的で、口の中には何も無いはずなのに、ごくりと喉がなる。


……俺も、人のこと言えねぇよなぁ。


そんなことを思いながら、また一口いくらを頬張る。


ぷちりと弾けるその感覚。それと一緒に、俺の理性も弾けてしまったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ