7話
「…すみませんお父様。遅くなりました」
そう言いながら電話に出る。
「今は大丈夫か?」
「…はい。周りに誰もいません」
「そうか。なら本題だが最近お前の学校の付近で事件が多くてな。何でも術を使う霊がいるらしい。すでに何人か被害にあってる、早めに処理を頼む」
「…はい、分かり、ました終わったら報告します」
それだけ言い残して電話を切る。
…何処までいっても私は人形でしか無い。
あ~あ、私はただ、2人と一緒に毎日を過ごしたいだけなのになぁ、何でかなぁこう上手くいかないのは。
目に涙を浮かべる私。
最近はこうした呼び出しが無くなっていたから油断していた。でも、結局のところ運命ってやつからは逃げられないらしい。
ギュッ、と強く胸を握りガチャン、と鍵を閉める。
「…さて、ちゃちゃっとやりますか」
それから私は学校の周辺を当てもなく歩きながら霊を探す。
霊は霊力という特別な力的なやつが出ているから近くにいれば嫌でもわかる。だからこうして手当たり次第歩いて探すのがいいだろう。これまでもそうしてきたし。
お父様が言っていた術というのはゲームとかの魔法と思ってもらっていい。霊力というのはMPで表すのが分かりやすいだろうか?
霊は物理的なものはすり抜けるが霊力を持った物なら当たる。
除霊師に最低限必要な力は何かと聞かれれば霊力だ。霊力が無いと戦うことすら出来ないし…。
つまり除霊師とは霊力を持っていて霊をぶん殴って無理矢理成仏させるという何と言うか物騒な仕事なのだ。
死んでいる人をもう一度殺す仕事と言い換えられ、いわば除霊師はみんな人殺しだ。
勿論、普通の人はそんな事考えてもないんだろうけど…。
私は小さい頃、それこそ自我が芽生える前から戦うためだけに育てられた。
大人の便利な道具として。
だからこうして色々な仕事を言い渡される。
霊を成仏させるのは勿論もっと血生臭い仕事も何度もやらされた。
…人形でしか無い私に感情なんてものは与えられていなかった。そんな感情を教えてくれたのは2人。だから私は2人のためならなんだってする。
…だって私にはそれしかないから。2人を失えば私には何も残らない。それが恐ろしく怖い。
いくら2人のためと己を偽っても根本的には自分のためでしかないのだ。
それでも2人を大切に思う気持ちに嘘はない。私は2人が喜んでくれるだけで幸せだから。2人と居られるだけで幸せを感じられるから。
その幸せを私は守りたい。それだけなのだ。
サラサラと風に揺られて花びらを散らす桜の木が見えた。
「あなたも私と同じように空っぽなのかな?それとも何かあるの…かな?」
軽く桜の木に触れてそんな独り言を呟く。
「ねぇ、そこの人、死にたいなら殺してあげようか?」
後ろから女の声がした。
振り向くと空中に浮いている大人の女が見えた。
「最近噂になっている霊ってあなたのことでいいの?」
「あれ?そんなに有名になっているんだ。なんかちょっとだけ嬉しいな」
ニヤつく霊をみて私は何も言わずに制服に隠してある刀を抜いて斬りかかる。
不意打ちのそれは女の霊の片手を斬り飛ばした。
「えっ?あれっ!?」
少し遅れて自分が斬られたことに気がつく女の霊。
霊は痛みをあまり感じない。だからいくら痛めつけても叫ばない。
…精神的にはありがたいことだ。相手が死人とはいえもう一度殺すのだから。
「…よくも、よくも私の腕をっ!!」
自分の腕を斬り飛ばされた腕を見て怒り心頭といった様子になる女の霊。
「殺す、殺してやるっ!!」
ブワッ、と女の霊の手から焔が出てくる。
「死ねっ!」
迫りくる焔は私に触れる直前女の霊の方へと帰っていく。
「うぎゃぁぁっ!!熱いっ!!熱いぃ〜!!」
痛みなどは感じにくいだけであって感じるときは感じる。
特にこうして自分に何が起きているのか自覚しやすい場合などは、生きていた頃の経験などから無意識的に判断している…らしい。
…正直のところ、よく分からない。
まぁ、詳しいことはそのあたりを研究しているところに任せる。私はただ仕事をするだけだ。
「残念だけど、私に焔は効かないんだよね」
必死に身体の焔を消そうとして暴れる女の霊に向かってそう言う。
「安心して、私は別に無意味にあなたを苦しめるために来たんじゃないから。今のはあなたが反抗しないようにしただけ。何もしないならこれ以上苦しめることはないよ。」
優しい声でそう言いながら女の霊へと近付いていく。
「謝るっ、謝るからっ!もうしないって約束するからっ!」
怯えながら必死に言う女の霊。
「…謝ってもあなたの殺した人は帰ってこないよ。それに、嘘はいけないよ?私には分かるからね?あなたが嘘つきなのは」
見慣れた命乞いに対してそう返す。
さて、早く終わらせるか。
そう思い普段から隠し持っている緋色の扇子を取り出そうとしたとき
「ちょっと待てよ」
という男の声がした。