3話
洗い物が終わった後、私は昧と一緒に学校に向う。
寮から学校まで大体徒歩20分ほど。ゆっくり歩いても時間には間に合う。
「うへへぇー、舞桜の甘い桃みたいないい匂い、いいよぉ~」
頬を赤らめてとろけるような声でそういう昧。
…なんでこう、イケない事感が凄いんだろうか?
はぁ、とため息。
まぁ、いつものことだから好きにさせとこう。止めても無駄なの知ってるし…。
と、ずっとクンクン匂いを嗅いでくる昧に対して半ば呆れながら歩く。
「きゅきゅ〜‼」
ペチペチと私の肩に乗っている天狐が昧を叩く。
「ちょ、痛っ、痛いって!?やめる!止めるからっ!」
昧が慌てて私から2、3歩ほど離れる。
「きゅきゅ〜!!」
えっへん、と勝ち誇るように顔を上げる天狐。
その様子が可愛かったので思わず天狐を撫でる。
「きゅ〜…」
気持ちよさそう表情になる天狐。
そんな天狐を見た昧が
「あっ!ずるい!!私も撫でて欲しいのにっ!!」
と本気で悔しがってる。
「あー!もうはいはい、撫でる、撫でるからギャーギャー騒がないでよ朝なんだから。迷惑でしょ?」
仕方なくそういうと
「やったぁ~!!」
といいながらぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ昧。
はぁ、なんで朝からこんなに疲れないといけないのやら…。
「えへへぇー、舞桜の撫で方すっごく気持ちいいから好き」
こっちの思いなんて知らず、幸せそうな顔になってる昧に無性に腹が立つ。
ぐにぃ〜と両手で昧の頬を引っ張る。
「まほ?ひゃにひてふの!?」
「ささやかな仕返しだよ?」
ニッコリと笑ってそう言う。
「ほあい、ほわいよまほ!?」
ぐい〜っと昧の頬を伸ばす。
「いはいいはいっ!ほめんなはい!ほうひひゃいひゃら!」
「ほんとに?」
ジト目でそう聞くとコクコクと頷く昧。
結構必死に謝ってくるので満足した私は昧から手を離す。
「うぅー、ヒリヒリするぅ」
「自業自得だよ。我儘もほどほどしにてよね。こっちが疲れるんだから」
「むぅ~、ちょっとくらいならいいじゃんか」
ぷく〜と頬を膨らませる昧。
「本当にちょっとだったらね。昧の場合ずっとだからね?」
やれやれ、という感じでそういうと
「でも舞桜、受け入れてくれるよね?何でなの?」
と聞いてくる。
「…まぁ、大切な幼馴染みだし、2人には色々と恩があるからね」
恥ずかしいので少し顔を伏せながら言う。
「えっへへー、舞桜大好きっ!!」
ぎゅ~っ!と抱きついてくる昧。
「ちょ、もう、仕方ないなぁ」
はぁ、といいながらも受け入れるあたり甘いよね私…。
「きゅきゅ〜!!」
と、また昧をぺちぺちと叩く天狐。
「痛い、痛いって!別にいいじゃんか!」
そんなやり取りを見てくすくすと笑ってしまう。
あぁ、こんな何気ない幸せが続けばいいな。
心の中からそう思う。
「あ〜!!舞桜が笑った〜‼」
と昧が驚く。
「私だって笑うことくらいあるよ。昔とは違うからね」
そう言って微笑む。
…幸せな時間というものはどうも長く続かないらしい。
「…ごめん、先に行っててくれる?ちょっと急用ができたみたい」
「えぇ~…」
と残念そうな顔をする昧。
「片付いたら行くから。」
「は~い…」
チラリと電柱の方を見た後、渋々といった様子だが小走りで学校へと向かってくれた。
天狐も昧の肩に乗り移って一緒に学校へと向かってくれた。
「…で、そこの隠れてるつもりの人は何の用?」
「んだよ、気づいてたのか」
そう言いながら電柱の陰から除霊高の制服を着た男子生徒が姿を見せる。
「はぁ、また来たの?懲りないね」
「何度だって来てやるぜ、俺は有名になりたいからな」
ニヤ、と笑う男子生徒。
こいつの名前は知らないが2回ほど自分と相棒になれと言い張ってくる面倒くさいやつだ。
相棒というのはまぁ文字通り仕事の相方として一緒依頼などをこなしていく人のことだ。
「桜木舞桜お前、俺の相棒になれ。俺が有名になるのに必要だからな」
「自分を欲望を隠さず言えるところは少しだけ好感を持てばするんだけどね…。あいにくだけど、少なくとも自分より弱いやつを相棒にするほど馬鹿じゃないから」
「だったらお前を負かせればいいんだろ?」
「2回も、返り討ちにあっててよく言えるね…」
はぁ、とため息
「いいよ、また相手して上げる。けど仏の顔も三度まで。今回以降は相手にしないから」
こういう面倒くさいやつは徹底的に潰すのが一番早い。
「へっ、後悔させてやる」
「私とは関わらない方があなたのためなんだけどね…」
そう言って軽く構えをとる。